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Kの顔がすぐ横にある。
酒に酔った勢いからワコの唇を奪い
たった今は寝息をたてながら、ワコに覆い被さるようにして寝ている。
千載一遇のチャンス
Kの下敷きになっているワコは、正体なく泥酔する身体を持ちあげる。
体を少しずつずらし
なんとかKから逃れようとした。
K
Kの寝息が乱れた。
ワコは身を固くした。
ふたたび規則正しい寝息に戻る。
体半分なんとか逃れる。
あとの半分はまだΚの下敷きだ。
残り半分をなんとか抜こうとした。
K
Kは泥酔しているにもかかわらず、ほんの少しのことで目を覚ましかねない。
それだけ眠りが浅いのだ。
Kは脳外科の専門医。
ほぼ毎日が手術日。
だから神経が高ぶって
寝られないのかもしれない。
脳の専門医のくせに
自分の脳は酷使ししている。
そのストレス発散が
猟奇的な殺人──
まったくもって同情の余地なし。
ワコは両足をベットの端にずらすことに成功した。
肩が抜けたら
ベットから降りられる。
慎重の上に慎重を重ねる。
こんなチャンス二度やってこない。
ワコ
カタン!
ビクッ
突然のもの音に心臓が飛び出しそうになった。
ああなんてバカ!
点滴ラックの存在を忘れていた!
Kから抜け出すことにばかり気を取られ
点滴に繋がれていたことを忘れていた。
ワコはすかさずKの様子を窺う。
呼吸に乱れはなく、静に寝ている。
それにしても……
恐ろしく綺麗な顔……。
いけない
見とれている場合じゃない。
Κの肩がゆっくり持ちあげる。
左肩を抜いた。
残る肘から下から抜け出したら出られる。
ワコ
ポツン──
何が落ちた。
えっ?
Kの目に水滴がついている。
涙?
もしかして
泣いている?
Kのつぶった目から一筋の涙が流れ落ちる。
なんの涙?
しかもこのタイミングで
涙を流す?
こいつ
いったい何者?
Kが動く。
ワコは固まった。
長い手足を投げ出し。
あろうことかワコを包み込むように寝返りを打つ。
まるで抱き枕を抱き締めるかのように。
ワコはあっけに取られ
しばらく動くことが出来なかった。
完璧に
逃げるタイミングを失った。
ワコ
極々小さな声で呟いた。
自分はこの千載一遇のチャンスをモノに出来なかった。
はっ!
これが私!
これがいつもの私だ。
生まれて このかたずっと
地に落ち続けている。
ワコ
ワコ
やけっぱちで大きな声を出した。
裏切られるのなんか慣れっこだ。
神様はどこまでも私を無視しつづける。
これが
悪魔に見初められた者の宿命なのだから。
ワコは自分自身を腹の底から呪った。
Kはワコを抱きながら
涙を浮かべ眠っている。
ずるい。
卑怯よ……
Kの浮かべた涙は流れずに目の縁にとどまっている。
触れて確かめたかった。
悪魔の涙は氷のよいに冷たいはず。
ワコは親指の腹で涙に触れる。
指先が濡れた。
うそだ
心は冷たいのに何故こうも暖かい?
ワコの親指はΚの形のよい鼻をなぞる。
やがて親指は唇に触れた。
柔らかだ……
吸い込まれるように
そっと顔を近づけ
Κの唇に自分の唇を重ねた。
何故自分でもそうしたかわからなかった。
どうせ地獄に堕ちる。
こうなったら、とことん堕ちろ。
ただそれだけ。
ワコを抱きながら眠るK
ゆりかごのように……。
数時間がたった。
外がにわかに騒々しい。
部屋の外で声がする。
言い争うような
ガラリと部屋のドアが開いた。
女
ワコは驚いた。
Kの影で姿が見えないが
声は若い女のものだ。
唐突にK以外の人間が現れた。
ワコは混乱する。
Κの目がかっと見開いた。
手でワコの口をふさぎ
耳元でささやく
「動くな」
その目は恐ろしいほどに殺気立つ。
Kはさっと起き上がった。
掛布団をワコの頭上までひっぱり、体をすっぽり覆い隠した。
K
女
使用人?
きっと共犯者だ。
ワコは布団の中できき耳を立てた。
K
K
女
K
K
K
K
女
女
なんてこと
病気の妻にされていた。
その妻は死期が近い
遠からず必ず死ぬはず・・・
Kはため息をついた。
K
K
ワコには分かる。
この女は
殺人鬼とも知らずに
Kに恋している。
じゃなきゃ
父親に言われたくらいで、のこのこ出向くわけがない。
二人は部屋を出ていった。
静寂が戻る。
苦しい……
何故か心が苦しい
ワコはいきなり
嗚咽した。
悲しみがどっと押し寄せた。
つづく