テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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【完結】便利屋・紫雲かぎり

第6話 - 『愛でる』

160

2022年07月08日

#便利屋

虚木（ｳﾂﾛｷﾞ）

ミトカ

かぎりん♪

ミトカ

こんばんわ！

便利屋

篠崎さん

便利屋

こんな夜中にどうしました？

ミトカ

ミトカでいいってば！

ミトカ

かぎりんにお願いしたいことがあるの

便利屋

例の変態野郎のこと？

ミトカ

ううん

ミトカ

あいつはねぇ

ミトカ

浮気が奥さんにバレたとか

ミトカ

職場に未成年者とイケナイことしてるのがバレたとか

ミトカ

そんなこんなで連絡来なくなったよ

ミトカ

かぎりんが懲らしめてくれたんでしょ？

便利屋

残念ながら俺は何もしてませんよ

ミトカ

またまたぁ

ミトカ

あの性癖こじらせ野郎をボッコボコにしてやったんでしょ？

便利屋

俺がそんな腕っぷしのある奴に見えます？

ミトカ

ううん

便利屋

即答……😢

ミトカ

🤣

ミトカ

だってそうだもん

ミトカ

でも

ミトカ

ちゃんとかぎりんが退治てくれたから

ミトカ

あいつのことはもういいの

便利屋

ということは別件？

ミトカ

うん

ミトカ

行方不明になった友達を探してほしいの

便利屋

人探し、ね

便利屋

さすがにタダでってわけにはいかないけど

便利屋

変態野郎の隠し撮りに協力してくれたから

便利屋

格安で請けましょう

ミトカ

ありがと、かぎりん

便利屋

それで、そのお友達って？

ミトカ

名前はミイナ

ミトカ

本名は河西美依奈（かさい　みいな）

ミトカ

私の一個下で、１７歳の子

ミトカ

私とおんなじようにパパ活やってて

ミトカ

二日前、新しいパパに会いに行くって言って

ミトカ

それっきり

便利屋

ご家族はなんて？

ミトカ

知らない

ミトカ

親はミイナに興味がないみたいで

ミトカ

自分がいなくなっても心配しないってミイナは言ってた

ミトカ

家も知らないし

便利屋

学校は？

ミトカ

行ってないって

ミトカ

バカ校だから行っても行かなくても一緒って笑ってた

便利屋

そっか…

ミトカ

私が聞いた限りだけど

ミトカ

ミイナにはお母さんしかいなくって

ミトカ

そのお母さんはどっかのスナックで働いてるって

ミトカ

彼氏も取っ替え引っ替えで

ミトカ

新しい彼氏が出来たらミイナは放置されるんだって

ミトカ

だから何してもいいんだって言ってた

便利屋

そうなると、繋がってるのは篠崎さんだけ？

ミトカ

他にも何人か連絡取ってる人はいるっぽいけど

ミトカ

詳しくは知らない

便利屋

行方不明になる前に会うって言ってたパパは何者？

ミトカ

どっかの社長って言ってたけど

ミトカ

名前までは聞かなかったの

便利屋

その人とはどういう経緯で知り合ったか聞いてる？

ミトカ

出会い系アプリだよ

ミトカ

ミトカも利用してるんだ

ミトカ

『ミルキーウェイ』ってヤツ

紫雲はすぐに自分のスマホに

そのアプリを取り込んだ。

ミトカ

プロフィール欄に【年上大好き】っていうのと

ミトカ

【寂しがり屋】って書いてあったら

ミトカ

パパ活してる子なの

便利屋

へぇ…

便利屋

あ、このミイナって子がそうかな？

ミトカ

え！？

ミトカ

もうかぎりん見つけたの！？

便利屋

うん、たぶんね

ミトカ

すっごーい！

便利屋

でも、これじゃあパパとのやり取りはわからないな

ミトカ

ミイナのＳＮＳの情報も送るね！

便利屋

いいんですか？

ミトカ

うん！

ミトカ

何かあったら助け合うっていうのが

ミトカ

私とミイナとの約束だから

ミトカ

だから

ミトカ

かぎりん

ミトカ

必ず見つけて

便利屋

わかりました

便利屋

あと、一つ確認なんですが

ミトカ

？

便利屋

見つけるだけでいいんですか？

ミトカ

え？

便利屋

例えば、新しいパパのところに監禁されていたり

便利屋

酷い暴力を受けていたり

便利屋

そういう状況にあっても

便利屋

見つけた、という報告だけでいいんですか？

ミトカ

ミイナが酷い目に遭っているなら

ミトカ

助けてほしい

ミトカ

でも

便利屋

でも？

ミトカ

ミイナがそれを望まなかったら…

ミトカ

助けなくても

ミトカ

いい、かな

便利屋

つまり、助けを求めたら

便利屋

助けてもいいってことですね？

ミトカ

うん

便利屋

わかりました

便利屋

報酬は３万円で

ミトカ

えっ！？安くない！？

便利屋

おや？もっと請求してもいいんですか？

ミトカ

かぎりんのいじわる！

便利屋

www

便利屋

じゃあ、無事河西美依奈さんと再会出来たら

便利屋

現金一括で支払って下さい

ミトカ

うん、わかった！

・

篠崎美兎花（しのざき　みとか）から教えて貰ったＳＮＳの情報を元に、

紫雲は河西の行動を探る。

紫雲かぎり

（あんまり投稿してないって篠崎さんは言ってたけど）

紫雲かぎり

（思ってた以上はある、かな）

紫雲かぎり

（文字だけの投稿もあるし）

紫雲かぎり

（写真だけの投稿もある）

紫雲かぎり

（こっちは日常の呟きみたいだから）

紫雲かぎり

（そんなもんか…）

み～な（日常垢）@miiiiiiiiiina_2005・X日つまんない日常も友達と一緒にいると楽しい

み～な（日常垢）@miiiiiiiiiina_2005・X日今日もバ…じゃなかったお母さんは帰ってこない

み～な（日常垢）@miiiiiiiiiina_2005・X日また彼氏にフラれたら帰ってくるんだろうな

み～な（日常垢）@miiiiiiiiiina_2005・X日友達と一緒にパフェ食べた！！

み～な（日常垢）@miiiiiiiiiina_2005・X日お金がない！ヤバイヤバイ！

紫雲かぎり

（ここにはパパ活のことは一切書いてない、か）

紫雲かぎり

（とはいえ、）

紫雲かぎり

（この年代の子が）

紫雲かぎり

（鍵付きのアカウントを持っていないはずが無い）

紫雲がパソコンを操作すること数分。

紫雲かぎり

（お、見つけた）

紫雲かぎり

（やっぱ鍵付きでパパ活してたんだな）

こっちのアカウントには

際どい角度で自撮りされた画像が

何枚あげられていた。

出会い系アプリ『ミルキーウェイ』のアカウントも載っており、

多くの男性から【いいね】が押されていた。

紫雲かぎり

（しかし、当然か）

紫雲かぎり

（過去のパパとのやり取りは削除済み）

紫雲かぎり

（一番新しいパパとのやり取りは…）

紫雲かぎり

（ま、大抵DMでやってるよな）

金欠ウサギ（寂しﾀﾋ）@UsaUsa_5002・X日金欠だよぉ～

金欠ウサギ（寂しﾀﾋ）@UsaUsa_5002・X日こういうお店行きたーい

金欠ウサギ（寂しﾀﾋ）@UsaUsa_5002・X日こういう服っていいよね？可愛いよね？

金欠ウサギ（寂しﾀﾋ）@UsaUsa_5002・X日金欠ウサウサは可愛いから何でも似合っちゃう説

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日めっちゃ良い人！大好き！

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日しゃとーぶりあん、初めて食べた！

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日新しい鞄と靴買って貰った！！

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日お酒、早く飲めるようになりたいよぉ

紫雲かぎり

（羽振りの良い奴だな）

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日大好きな人に会うためオシャレしたよ！

可愛いウサギ（大切な人がいます）@UsaUsa_5002・X日褒めてくれるといいなぁ

紫雲かぎり

（これが最後の投稿…）

紫雲かぎり

（日付は二日前…）

紫雲かぎり

（行方不明になる当日）

その投稿には自撮りが一枚一緒に投稿されていた。

建物を背にして撮られた写真。

紫雲かぎり

（この写真…）

紫雲かぎり

（駅前の……）

紫雲は再びパソコンを操作し、

画面上に監視カメラの映像を表示させる。

紫雲かぎり

（ちょっと角度は違うけど）

紫雲かぎり

（ここだな）

紫雲かぎり

（えーっと、投稿日時は……っと）

紫雲かぎり

（よし、映ってた）

映像には一人で駅前にやってくる河西の姿が。

自撮りをし、

スマホを少しいじっていると

正面から男性が一人やってきた。

河西は顔をパッと明るくし、

その男性の腕に抱きついた。

紫雲かぎり

（なるほど、これが羽振りの良いパパ、か）

そのまま二人は並んで歩く。

紫雲かぎり

（この映像だと顔が正面から見えないな）

紫雲かぎり

（どこへ行く？）

監視カメラを切り替えながら、

二人の後を追う。

すると二人は駅前通りの一本裏手に入ったところにある、

格式高そうな店に入っていった。

ニ時間後、

二人が出てきたところで映像を止め、

男性の顔を確認する。

紫雲かぎり

（年齢は、見た目四十代）

紫雲かぎり

（身長は、１８０cmぐらいか）

紫雲かぎり

（高級腕時計に）

紫雲かぎり

（かっちりとしたスーツ姿）

紫雲かぎり

（溢れ出る金持ち感……）

紫雲かぎり

（こいつの素性はあとで探るとして）

紫雲かぎり

（このまま二人はどこに行くのか…）

映像を再生させる。

紫雲かぎり

（あ、くそ）

紫雲かぎり

（タクシーか…）

駅前でタクシーを拾い、

東の方向へと走り去っていった。

紫雲かぎり

（追跡することも出来ないわけじゃないが）

紫雲かぎり

（顔がわかれば素性を調べることは簡単だ）

男の顔を画像検索をすればすぐに判明した。

紫雲かぎり

（某コンサルティング会社代表取締役社長）

紫雲かぎり

（堺　倫之（さかい　のりゆき）50歳）

紫雲かぎり

ふぅん……

画面に表示された写真では、

満面の笑みを浮かべていた。

SNSのプロフィール欄には

【こんな歳だけど婚活中(笑)】

の文字が。

紫雲かぎり

（なるほど）

紫雲かぎり

（これなら女性と一緒に居ても婚活中だった、と言えるわけか）

紫雲かぎり

（こいつももちろん鍵付きのアカウントがあるよな？）

紫雲かぎり

………

紫雲かぎり

（よし、見つけた）

紫雲かぎり

（鍵付きのアカウント）

紫雲かぎり

（こいつ何個持ってんだ？）

紫雲かぎり

（えーっとこっちはパパ活女子とのやり取り専用）

紫雲かぎり

（んで、こっちは風俗嬢とやり取り専用）

紫雲かぎり

（さらにこっちは……）

紫雲かぎり

……

紫雲かぎりはパソコンを見つめる目を細める。

紫雲かぎり

（…まさか）

紫雲かぎり

（ここでこの名前を見るなんてな）

”豊潤を愛でる会”

紫雲かぎり

（なるほど）

紫雲かぎり

（こいつはここの会員だったのか…）

紫雲かぎり

（だったらヤバいな）

紫雲かぎり

（早く見つけてあげないと）

紫雲かぎり

（死体は綺麗に処理されて）

紫雲かぎり

（一生見つけることが出来なくなる）

・

窓ははめ殺し。

強化ガラスなので

叩き割ることも不可能。

手足には手錠が付けられ、

動ける範囲は限られている。

同じ部屋にいる

同じ年代の少女たちは

憔悴しきった顔で

床に倒れていた。

河西　美依奈

（最悪……）

河西は心の中で呟き、

閉じられた扉を見つめる。

自業自得だと言われればそれまでだ。

お金欲しさにパパ活をしていた。

その結果、

とんでもない男に引っ掛かったのだ。

”豊潤を愛でる会”

堺はそう言っていた。

どういう会なのか、

説明するよりも

体験してもらった方が早い、

きっと君も気に入るよ。

そんな甘い言葉に騙された。

狂った少女

うへへ…

ヤク漬け少女

へへ…

虚ろな瞳の少女が

足元で狂った笑みを浮かべている。

豊潤。

それは十代の女性を意味する。

愛でるとは、

ヤク漬けにして

正常な判断が出来ないようにし、

まぐわうこと。

そして、

完全に狂ったら───。

自我を失った少女

あああああ！！

理性を失くした少女

いやぁぁぁああ！

自我を失った少女

いやぁぁぁあああ！！！

真っ黒な服を着た人たちに

連れて行かれてしまう。

理性を失くした少女

いﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞあﾞ！！！

響き渡る断末魔。

扉の向こうで何が行われているのか、

想像もしたくなかった。

河西　美依奈

（なんでこんなことに…）

辛うじてまだ自我が残っているのが辛かった。

いっそ、

狂ってしまった方が幸せかもしれない。

狂って

口から涎を垂らしながら

快楽に溺れた方が

幸せなんだ。

河西　美依奈

でも……

狂った少女

へへへへ…

ヤク漬け少女

いひひひ…

床に倒れて笑っている少女たちは、

泣いていた。

突然鳴り響く音楽。

それは、

宴の始まりを意味する。

歓喜狂乱する少女。

絶叫して己の髪を引き抜く少女。

恐怖に震えて動けなくなる少女。

しかし、

性癖の狂った男たちは

楽しそうに笑いながら

宴の間に

少女たちを引きずり込んでいく。

それはまるで、

地獄に引き込む獄卒のようだった。

・

テーブルに並んだ豪勢な料理。

高価なお酒の数々。

少女の口の中に

料理と

酒と

薬をねじ込む。

苦しみ悶える姿を見て笑う男。

白目を剥く少女を楽しそうに抱く男。

少女が口から泡を吹いても行為を止めない男。

そして、

少女に複数のナイフを突き刺しながら

行為に及ぶ男。

河西はもう、

逃げ出すことを諦めていた。

河西　美依奈

（ああ…）

河西　美依奈

（最後にあのパフェ…）

河西　美依奈

（もう一回食べたかったなぁ…）

天井からぶら下がったシャンデリアを見つめて、

彼女はぼんやりとそんなことを考えていた。

行為が早く終われと思うことも無くなり、

全てに絶望し、

いずれ来る死を受け入れていた。

ここでは他人がどんな行為をしているのか

気に留める者はいなかった。

各々が己の欲望を満たすために

ただそれだけのために

行為に及んでいた。

それ以外のことは

眼中になったのだろう。

だからこそ、

”そこ”に異物が混ざっていても

誰も気が付かなかったのかもしれない。

ゴッ

一人の男が倒れた。

愛でる会の男たち

え？

ガンッ

さらにもう一人倒れる。

愛でる会の男たち

ど、どうした！？

愛でる会の男たち

お、おい！！

そう言う男たちも

片っ端から倒れていく。

ものの数秒でその場にいた

全ての男たちは床に倒れ、

ピクリとも動かなくなった。

紫雲かぎり

……河西さん？

河西　美依奈

だ、誰！？

声をかけてきたのは、

真っ黒なパーカーを着た

紫雲かぎりだった。

紫雲かぎり

ああ、よかった

紫雲かぎり

まだちゃんと自我があるようで

河西　美依奈

誰なの！？

紫雲かぎり

篠崎美兎花さんの依頼で

紫雲かぎり

アナタを助けに来ました

河西　美依奈

…ミトカ…の？

紫雲かぎり

ええ

紫雲かぎり

ご存知ですよね？

河西　美依奈

…助けに来たって…

紫雲かぎり

ああ、いや

紫雲かぎり

少し語弊があるかな

紫雲かぎり

篠崎さんからは

紫雲かぎり

親友を見つけてほしいと頼まれました

紫雲かぎり

そして

紫雲かぎり

河西さんが助けを求めれば

紫雲かぎり

助けてあげて欲しいと

河西　美依奈

……

紫雲かぎり

男性陣には強力な睡眠薬を飲ませました

紫雲かぎり

目が覚めるのは

紫雲かぎり

明日の朝になるでしょうね

河西　美依奈

殺して、ないの？

紫雲かぎり

ええ

紫雲かぎり

それは依頼には含まれ

河西　美依奈

殺してよ！！

河西　美依奈

こんな腐った奴ら！

河西　美依奈

生きてる価値なんてないじゃん！！

紫雲かぎり

俺は慈善事業で働いてるわけじゃない

紫雲かぎり

殺して欲しいならそれなりの報酬を要求します

河西　美依奈

っ！！

河西　美依奈

い、いくらでこいつらを殺してくれるの！？

紫雲かぎり

一人あたり五百万

河西　美依奈

な、なんで！？

河西　美依奈

こんなクズにそんな大金！！

紫雲かぎり

殺してはいけないんだよ

紫雲かぎり

こんなクズでも

河西　美依奈

どうして！？

紫雲かぎり

”豊潤を愛でる会”は

紫雲かぎり

目に見えているよりもずっと大きな集団なんだ

紫雲かぎり

一網打尽にして殺すことは可能だが

紫雲かぎり

殺したら

紫雲かぎり

こいつらが殺した子たちは

紫雲かぎり

永遠に見つけることは出来ない

河西　美依奈

！！！

紫雲かぎり

安心してください

紫雲かぎり

殺しはしませんが

紫雲かぎり

警察には通報してあります

紫雲かぎり

目が覚めたときには

紫雲かぎり

全員、ブタ箱の中でしょう

河西　美依奈

……

紫雲かぎり

で？

河西　美依奈

え？

紫雲かぎり

このままここにいれば

紫雲かぎり

アナタも警察に捕まります

紫雲かぎり

それでも良ければ

紫雲かぎり

ここに居ても構いませんが

河西　美依奈

…い、いや！！

しかし、

伸ばそうとした手は

震えて紫雲の手を

掴むことが出来なかった。

紫雲かぎり

薬の副作用か…

河西　美依奈

お、お願い

河西　美依奈

助けて

河西　美依奈

ここには

河西　美依奈

居たくないの！！

紫雲かぎり

かしこまりました

紫雲かぎりは

持っていた大きな白い布で

河西を綺麗に包むと

そっと抱き上げた。

河西　美依奈

え、え？

紫雲かぎり

監視カメラを止められるのは

紫雲かぎり

１８０秒

言いながら片手でスマホを操作する。

紫雲かぎり

それまでにここを抜け出します

河西　美依奈

え、ええ！？

河西　美依奈

あの、あの！

河西　美依奈

他の子は

しかし、

その言葉は無視して

紫雲は一気に駆け出した。

・

─数週間後─

お世辞にも綺麗とは言えない白衣を着た人物は

紫雲が訪れると

なんとも複雑な表情をして出迎えてくれた。

紫雲かぎり

なに？

紫雲かぎり

来ちゃいけないタイミングだった？

相模原

そういうわけじゃない

相模原

丁度ニュースを見ていたところだ

紫雲かぎり

なんの？

相模原

ホテルの一室で

相模原

未成年と乱交していた奴らを捕まえたっていうニュースだ

紫雲かぎり

ああ…

紫雲はつまらなそうな顔をする。

相模原

そんな顔をするな

相模原

あのクソ野郎どもが

相模原

あの部屋でやっていたことなど

相模原

公にできるわけないだろ

紫雲かぎり

ま、そうだね

相模原

それでも

相模原

大元にバレる前に警察に突き出したんだ

相模原

紫雲にしては上出来だろ

紫雲かぎり

俺にしてはってどういうことだよ

相模原

珍しく褒めてんだよ

相模原

素直に受け止めろ

紫雲かぎり

ま、仕事だから

相模原

可愛くねぇなぁ

紫雲かぎり

はいはい

紫雲かぎり

で？

紫雲かぎり

河西さんの様子は？

相模原

そろそろ薬が抜けてきた頃合いだろう

相模原

幻聴や幻覚の類も無くなってきた

紫雲かぎり

そっか

相模原

薬の効力は消せても

相模原

精神的なダメージは

相模原

そう簡単に癒せるもんじゃない

紫雲かぎり

まぁね

相模原

とりあえず

相模原

オレの知り合いの心療内科を紹介しておく

紫雲かぎり

そこは？

相模原

安心しろ

相模原

オレと同じだ

紫雲かぎり

つまり”豊潤を愛でる会”の被害者ってこと？

相模原

ああ

紫雲かぎり

なら安心

紫雲かぎり

そういえば

紫雲かぎり

本当に友達に合わせても大丈夫なのか？

相模原

ああ大丈夫だろう

紫雲かぎり

じゃ、呼んでくる

・

篠崎　美兎花

は、初めまして

篠崎　美兎花

篠崎ミトカです

相模原

初めまして

相模原

闇医者の相模原（さがみはら）だ

篠崎　美兎花

闇、医者……

相模原

便利屋もいるんだ

相模原

闇医者ぐらいいるさ

篠崎　美兎花

そう、ですね

篠崎　美兎花

それで

篠崎　美兎花

ミイナは？

相模原

会う前にいくつか注意点がある

相模原

彼女はまだ精神的に不安定だ

相模原

君のような友人の支えを必要としている

相模原

だから

相模原

パニック状態に陥ったときには

相模原

恐れず

相模原

側にいてあげて欲しい

篠崎　美兎花

はい

相模原

そして、まだ男性を怖がっている部分がある

相模原

触れられるとパニックを起こす可能性が高い

相模原

極力、男性には近づけないでくれ

篠崎　美兎花

わかりました

相模原

最後に

相模原

たくさん楽しい時間を共有してあげてくれ

相模原

薬は抜けたが

相模原

おそらく

相模原

彼女はもう

相模原

長くは生きられない

篠崎　美兎花

！！

相模原

私の娘もそうだった

篠崎　美兎花

え…

相模原

紫雲が同じように助け出してくれたが

相模原

完治は出来なかった

相模原

だから……

相模原

生きている間は

相模原

一秒でも長く

相模原

楽しい思いをさせてあげてくれ

篠崎　美兎花

…わかりました

相模原

じゃあ

相模原

呼んでくる

篠崎　美兎花

……

篠崎　美兎花

ねぇかぎりん

紫雲かぎり

ん？

篠崎　美兎花

お医者さんのお嬢さんは

篠崎　美兎花

どれくらい生きたの？

紫雲かぎり

…三ヶ月

篠崎　美兎花

！

紫雲かぎり

でも

紫雲かぎり

河西さんはもっと早い段階で助けられた

紫雲かぎり

治療もすぐ受けることができた

紫雲かぎり

だから

紫雲かぎり

もう少し長く生きられると思う

篠崎　美兎花

そっか

河西　美依奈

ミトカ！

篠崎　美兎花

ミイナ！！

河西　美依奈

ミトカ！ありがとう！

河西　美依奈

ミトカのお陰で私！

篠崎　美兎花

いいの！

篠崎　美兎花

当然でしょ？

篠崎　美兎花

親友なんだから

河西　美依奈

うん！

河西　美依奈

うん…ありがとう

篠崎　美兎花

ミトカ…

篠崎　美兎花

でも、お礼は

篠崎　美兎花

紫雲さんに言わないとね

河西　美依奈

紫雲さん…

河西　美依奈

ありがとうございました

紫雲かぎり

いやいや

紫雲かぎり

俺は頼まれた仕事を遂行したに過ぎないからね

篠崎　美兎花

あ、かっこつけた

紫雲かぎり

いいじゃないか

紫雲かぎり

ちょっとぐらいかっこつけたって

篠崎　美兎花

まぁね

河西　美依奈

あの…

河西　美依奈

一つ聴きたいことが

紫雲かぎり

ああ、君以外の女の子のこと？

河西　美依奈

はい

紫雲かぎり

警察に保護されたと思う

紫雲かぎり

病院で治療を受けている子もいれば

紫雲かぎり

成す術無く亡くなった子もいる

河西　美依奈

…そう、ですか

河西　美依奈

私は

河西　美依奈

本当に運がよかったんですね

河西　美依奈

…こうして

河西　美依奈

生き残ってしまった…

篠崎　美兎花

……

篠崎　美兎花

それでも

篠崎　美兎花

私は嬉しいよ

河西　美依奈

ミトカ

篠崎　美兎花

ミイナが助かって

篠崎　美兎花

また

篠崎　美兎花

ミイナに会えて

河西　美依奈

ミトカ…

篠崎　美兎花

はみ出しものの私には

篠崎　美兎花

ミイナしかいないから

河西　美依奈

……うん

篠崎　美兎花

ねぇ！ミイナ

篠崎　美兎花

前に食べたいって言ってたパフェ

篠崎　美兎花

今から食べに行こう？

河西　美依奈

え、でも私お金なんて

篠崎　美兎花

ああ、大丈夫

篠崎　美兎花

かぎりんが奢ってくれるって

紫雲かぎり

え？

篠崎　美兎花

ねえ？かぎりん

紫雲かぎり

…えぇ？

篠崎　美兎花

相変わらずケチだなぁ

紫雲かぎり

……

紫雲かぎり

ま、退院祝いってことで

篠崎　美兎花

そうこなくっちゃ！

河西　美依奈

……

篠崎　美兎花

ミイナ？

紫雲かぎり

じゃあ

紫雲かぎり

このお金で食べておいで

相模原

嘘だろお前

紫雲かぎり

あのねぇ

紫雲かぎり

俺だって暇じゃないの！

紫雲かぎり

このあと仕事入ってんだから

紫雲かぎり

一緒に食べに行くのは無理

相模原

だからって金渡すか？

紫雲かぎり

じゃあどうしろって言うんだよ

篠崎　美兎花

全然オッケー

篠崎　美兎花

ありがと！かぎりん

篠崎　美兎花

あ、でも一つ言っていい？

紫雲かぎり

お礼ならいいって

篠崎　美兎花

ううん

篠崎　美兎花

これじゃあ足りない

紫雲かぎり

はぁ！？

相模原

くっはははっ！

紫雲かぎり

どんだけ食うつもりなんだよ！

篠崎　美兎花

もう一枚！

紫雲かぎり

ったく…

紫雲かぎり

ほら

篠崎　美兎花

ありがと！かぎりん♪

篠崎　美兎花

じゃ、行こっか！

河西　美依奈

う、うん

二人の少女は仲良く手を繋いで出て行く。

紫雲かぎり

はぁ……

相模原

してやられたな

紫雲かぎり

うるせぇ

・

『愛でる』 END

【完結】便利屋・紫雲かぎり

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虚木（ｳﾂﾛｷﾞ）

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【完結】便利屋・紫雲かぎり

第6話 - 『愛でる』

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