王女を救い、世界の平和を取り戻した勇者一行は魔王の城を後にした
初めて彼を見たとき、胸の高鳴りがしたのを覚えている
これが一目惚れと言うものだろうか?
よくわからない
ただ仲間に加えられたことは嬉しかったし、彼がほかの女の人と話をしているときは胸がモヤっとした
魔法使い
それはヤキモチね
僧侶
ヤキモチ……?
魔法使い
つまり嫉妬よ、嫉妬
僧侶
…………
まさか自分が嫉妬をするなんて……
魔法使い
で、どうするの?
僧侶
僧侶
どうするって、なにがですか?
魔法使い
キモチ伝えないの?
僧侶
私は──
魔法使い
魔法使い
どうするかはあなた次第よ
魔法使い
悔いのないようにね
ずっと迷っていた
彼に思いを伝えるかどうか……
僧侶
…………
タイミングを逃したら、きっと二度はない
椅子から立ちあがり、私は彼の部屋へと向かった
僧侶
(大丈夫、大丈夫……)
コンコン
僧侶
応答がない
もう一度ノックする
僧侶
勇者さま?
カチャ
ドアノブをひねるとドアが開いた
僧侶
──失礼します
部屋は誰もいない
僧侶
(留守かな……?)
さりげなくデーブルの上に視線を向けると書き置きがあった
仲間への感謝が綴られていた
彼は私たちの前から姿を消した…………
──数日後
僧侶
(着いた……)
ロヴンの森
彼から故郷の村の近くに『ロヴンの森』と呼ばれる森があると、聞いたことがあったのを思い出し、やっとたどり着いた
僧侶
(……彼がいる保証はないけれど)
それでも藁にもすがる思いだった
辺りは薄暗かったが息苦しさは感じない。それどころが澄んでいる
僧侶
(なんだか心が落ち着く)
そのとき──
人の気配がして視線を向けた
僧侶
あ
彼がいた
思わず駆けよろうとしたが、寸前で止める
彼のそばには男とも女とも見える中性的なひとがいたからだ
とても
美しかった──
僧侶
(ああ、そうか)
僧侶
(彼にはもう…………)
仲睦まじそうに手を繋ぎ、ふたりは森の奥へと消えていった
そのあと、村の宿屋までどうやって戻ってきたのかよく覚えていない
気づけばベッドに横になり枕を濡らしていた
2日後
私は村を出た
振り返ると森が目に入る
僧侶
僧侶
──さようなら、勇者さま
ぽたり
涙を拭き、振り返ることもなく立ち去った