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瀬崎徹
畳の上で大の字になり天井のシミを数えるのも飽きた頃、俺は重い体を起こした。
スマホの電波は圏外。娯楽もなし。外は豪雨。まさに「詰み」の状態だ。
瀬崎徹
ふと、部屋の襖が開き、バスの運転手が顔を出した。どこか焦燥感を滲ませている。
バス運転手
高島隼人
高島がスナック菓子を齧りながら首を傾げる。俺は記憶を手繰り寄せた。
瀬崎徹
バス運転手
瀬崎徹
バス運転手
運転手の顔色が曇る。まぁ確かに、ただの挨拶や打ち合わせにしては長すぎる。
瀬崎徹
バス運転手
運転手は腕組みをして考え込んだ後、意を決したように頷いた。
バス運転手
そう言って、運転手は足早に去っていった。
高島隼人
高島の言葉に、俺も深く同意する。
瀬崎徹
時刻はもう夕方の五時を回っているだろうか。雨雲の厚さと山間部という立地のせいで、窓の外はすでに夜の帳が下り始めていた。
吉原の不在も気がかりだが……俺にはもう一つ、どうしても気になることがあった。
瀬崎徹
俺は立ち上がり、隣の部屋――浅木たちが占領している部屋へと向かうことにした。
廊下に出ると、向こうからご機嫌な口笛が聞こえてきた。
江藤雄介
江藤だ。バンダナを巻いた頭を揺らしながら、我が物顔で歩いてくる。
俺は関わり合いにならないよう、壁際に寄って道を空けた。
だが――。
ドンッ!
瀬崎徹
江藤雄介
明らかに自分から肩を入れてきたくせに、江藤は鬼の首を取ったように凄んで見せた。
瀬崎徹
江藤雄介
瞳孔を開き、威嚇してくる江藤。
瀬崎徹
いや、ここで言い返せば、確実に面倒なことになるだろう。
俺は無言で視線を外し、その横をすり抜けた。今はこんな奴を相手に消耗している場合じゃない。
江藤雄介
背後で捨て台詞を吐き、あのバンダナクソ野郎は男子トイレの方へと歩いて行った。
中は思ったよりも静かだった。
新堂章吾
浅木たちは何やらゴニョゴニョ話し込んでるようだが、どうでもいいので無視した。
部屋の隅に、ぽつんと座っている細波の姿があった。
細波将太
俺の顔を見ると安堵したように表情を緩めた。
瀬崎徹
細波将太
細波は力なく笑うと、少し躊躇いがちに言葉を続けた。
細波将太
瀬崎徹
古傷を触られたような感覚に、俺は苦笑するしかなかった。
実のところ、俺も去年、今の細波と同じように浅木たちの標的にされていた時期があったのだ。
だからこそ今の彼の立場が痛いほどよく分かる。そして、周囲が見て見ぬ振りをする理由も。
瀬崎徹
細波将太
瀬崎徹
無責任なアドバイスかもしれない。けれど、黙って耐えているだけでは何も変わらないことも事実だ。
瀬崎徹
細波将太
細波の目に、わずかに光が戻った気がした。
瀬崎徹
細波将太
瀬崎徹
俺は軽く手を挙げ、部屋を出ていく彼を見送った。
瀬崎徹
一抹の不安がよぎり、俺も部屋を出ようとしたその時だった。
新堂章吾
背後からねっとりとした声が俺を呼び止めた。振り返ると、ニヤニヤと笑う新堂がそこに立っていた。
瀬崎徹
浅木豊
浅木が顎をしゃくる。その横で新堂がニヤニヤと笑いながら、俺の退路を塞ぐように立ちふさがった。
瀬崎徹
新堂章吾
新堂がへらへらと言う。その「親友」という言葉の響きが俺の神経を逆撫でした。
瀬崎徹
クラス替えから二ヶ月。俺は去年まで今の細波と同じ立場にいた。浅木たちの玩具として、色んなちょっかいやイタズラをかけられる日々。
それが細波という新しいターゲットが現れたことで、俺は解放された。
だが、それは安堵と同時に、強烈な自己嫌悪を伴うものだった。俺が助かった代わりに、あいつが地獄を見ている。その事実から目を逸らし続けてきた二ヶ月間だった。
新堂章吾
瀬崎徹
挑発的に言い放つと、奥で座っていた浅木の目がすっと細められた。
浅木豊
浅木がゆらりと立ち上がる。その威圧感は、やはり尋常ではない。
浅木豊
瀬崎徹
新堂章吾
新堂が囃し立てる中、浅木は愉悦に歪んだ笑みを浮かべた。
浅木豊
死刑宣告にも等しい言葉。正直、言ってしまったなとは思った。けれど不思議と後悔はなかった。
むしろ、胸の奥につかえていたものが取れたような、奇妙な清々しさすらある。
瀬崎徹
腹を括った、その時だった。
バンッ!!
突然、部屋の襖が乱暴に開け放たれた。
細波将太
全員が驚いて振り返ると、そこには肩で息をする細波の姿があった。顔色は土気色で、尋常ではない様子だ。
新堂章吾
新堂が茶化すように声をかけるが、細波の耳には届いていないようだった。
細波将太
浅木豊
浅木が怪訝な顔をする。
細波将太
浅木豊
細波将太
その言葉に、部屋の空気が凍りついた。数秒の沈黙の後、新堂が乾いた笑い声を漏らす。
新堂章吾
細波将太
細波の目は血走り、額からは脂汗が滴り落ちている。その必死の形相は、演技で出せるものではなかった。
細波がこんな悪質な冗談を言える性格でないことは、彼を玩具にしていた浅木たちが一番よく知っているはずだ。
高島隼人
追い打ちをかけるように、高島が廊下から転がり込んできた。
いつもはヘラヘラしている高島の顔が恐怖で引きつっている。それが決定打だった。
浅木豊
浅木が細波を突き飛ばし、部屋を飛び出していく。
高島隼人
高島も青ざめた顔で走り去った。
取り残された俺の心臓が、早鐘を打っていた。
イジメだの、ターゲットだの、そんなちっぽけな話はもう終わりだ。
瀬崎徹
震える足に力を込め、俺は廊下へと駆け出した。