テラーノベル
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夜の帳が降り、
蝶屋敷には静かな時間が流れる
虫の声と、何処かで軋む木の音
それだけが芙梛の耳に届く
庭先の縁側に腰を下ろし、
芙梛はぼんやりと空を見上げていた
芙 梛
ぽつりと呟く
芙 梛
芙 梛
返事はない
隣にいるはずの彼はいない
もう何日も
芙 梛
芙梛は頬杖をついて、小さく息をついた
芙 梛
想いが滲む
あの真っ直ぐな瞳が離れない
そんな静寂を破ったのは、誰かの足音だった
庭を回ってくる気配
鼻をくすぐるのは、優しいけれど鋭い匂い
芙 梛
振り返ると
提灯の灯りに照らされた炭治郎の顔があった
彼の瞳も真っ直ぐで、どこか警戒しているように見えた
竈 門
芙 梛
芙梛は笑ってみせる
人間のように
優しく
柔らかく
芙 梛
竈 門
一拍、間を置いた
竈 門
芙梛の笑みがピタリと止まる
芙 梛
竈 門
竈 門
芙 梛
竈 門
夜の風が吹いた
芙梛は少しだけ目を細めた
頬に触れる風が、
まるで、炭治郎の言葉をそっとなぞっているようだった
芙 梛
芙 梛
竈 門
竈 門
その言葉に、芙梛の胸がぎゅっと締めつけられた
芙 梛
竈 門
柔らかいけど、芯のある声
炭治郎の言葉には、不思議な力があった
蓮華の中に、ずっと閉まっていた重さを撫でてくる
芙 梛
芙 梛
炭治郎は黙って頷いた
何も言わずに、そっと頭を下げた後
水桶を持って立ち去ろうとした
芙 梛
竈 門
芙 梛
炭治郎はしばらく立ち止まってから、振り返った
竈 門
芙 梛
だから困る
優しさは刃になる
迷わせる
揺らがせる
芙梛は、彼の背中を見送った
しばらく黙って、空を見る
ふと、手のひらを見つめる
かつて幾人もの命を散らしてきた手
それでも、誰かを想って
この手で終わらせようとしている自分がいる
芙 梛
芙 梛
夜空はただ黙って、芙梛の声を飲み込んでいった
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