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■プロローグ 午後二時、昼下がり
ルノ
レジカウンターで頬杖をつく。 かれこれこの体勢になって一時間半。 カフェなのに今日は一回もコーヒーを淹れていない。 あたたかい木漏れ日が差す午後二時。 ポロンの優しいBGMが、シンとした店内に響き渡る。 店の窓から大通りを覗くと、 手を繋いで歩くカップル、昼下がりのOL、カフェ巡りをしている女性など、多くの人が行き交っていた。 私、深山琉乃(ミヤマルノ)は大学一年生。 今年から一人暮らしをはじめて、大学に通いながらキャンパス近くのカフェ、 moon & moon(ムーンムーン)でアルバイトをしている。 大学は人通りの多い道沿いにあり、本当ならもっとお客さんが来てもいいはずだが、びっくりするくらいここは客が来ない。 木目調の優しい店内、センスのいいアロマがやさしく香り、リラックスできるBGM。 観葉植物を楽しみながら美味しいコーヒーが飲める。 一目見てすごく気に入って、大学初日に来店し、そのまま店長と仲良くなって入店した。 でもこんなにお客さんがいないなんて… 雰囲気もいいのに、なんでだろ?
ルノ
店長
ルノ
店長
大丈夫、大丈夫!と笑い飛ばされ、 また店長はパソコンをカタカタと触り始めた。 店長はカフェのほかにも焼肉屋とパスタ屋を経営している。 その二店舗の経営が右肩上がりのため、この能天気さ。 もともとやりたかったカフェは、言わば完全に店長の趣味なのだ。 大学入学と同時に始めたこのバイトも かれこれ半年になる。 土日はそこそこ人が来るものの、平日はいつもこんな感じ。 朝10時にオープンしてトイレ掃除を済ませて、ディスプレイの観葉植物に水をやる。 お客さんが来たら接客するけど、来ないので今日はトイレ掃除を3回もした。 とうとうやることがなくなって、今に至る。 ……私、お給料もらってていいのかな?
ルノ
店長
ルノ
店長
ルノ
店長
ルノ
店長
俺がルノちゃんゲームとかしちゃうのに!と笑いながら使っていたパソコンを閉じた。 …さすがに時給1300円もらってるんだから働かないと申し訳ないよね。
店長
大きなゴミ袋を2つ手渡された。 集積所はここから歩いて3分ほど。 回収の車が止まれる場所がないらしい。 店長は「歩くの面倒くさーい」と言っているけど、私にとってはいい気分転換だ。
ルノ
店長
ルノ
カランカランー。 静寂に包まれた店内に、うるさいくらいに店のベルが鳴る。 もしかすると、今日はじめての仕事らしい仕事かも。 パンパンに詰まったゴミ袋を両脇に抱えてガラガラの店内を後にした。