千早
それではまず斑目様。

千早
こちらの【いわく】にまつわる情報をください。

斑目
あ、えっと――。

斑目
(事件のあらましってことでいいのかな)

斑目は戸惑いつつも普段から使っている手帳を取り出す。
斑目
事件が起きのは今から数週間前、不動産会社社長、外丸郁夫64歳の遺体が自宅にて見つかりました。

斑目
死因はキッチンにあった刃物によるショック性失血死。

斑目
数十箇所を滅多刺しにされていたようですね。

千早
…………。

斑目
あの、聞いてます?

千早
…………。

日記帳を開くと、片目にルーペのようなものをはめる千早。
斑目
……ごほん。

千早からの反応があまりにもなかったからか、咳払いで気を引こうとする斑目。
千早
風邪ならばマスクをお願いします。

千早
世の中が世の中ですので。

斑目
(可愛らしい顔立ちのくせに、なんか愛嬌が無いなぁ)

千早
続けてください。余計なことをしなくても聞いていますから。

斑目
事件が起きたのは事件当日のお昼過ぎ。

斑目
被害者は自宅で一人暮らしをしていたため、事件の目撃者はなし。3人の娘がいますが、今はそれぞれ別の世帯で暮らしているようです。

斑目
彼の身の回りの世話は通いの家政婦がしていたのですが、この日は休みをとっていました。

千早
――事件はどのようにして発覚したのですか?

千早
どうやら、通いの家政婦さんや、娘さんが遺体を発見したようではないみたいですし。

斑目
本人から110番通報があったんです。

斑目
それを受けて駆けつけた所轄の警察官が遺体を発見しました。

千早
一点、気になる点がございます。

千早
被害者は独身なのですよね?

千早
それなのに、娘さんが3人もおられるのですか?

斑目
――実は被害者には3回の離婚歴がありましてね。

斑目
関係者の話によると、被害者はかなり奔放で女癖が悪かったみたいですね。

斑目
それでもって、どの結婚もデキ婚というやつで籍を入れた形みたいです。

千早
結婚なさらないほうが良いタイプですね。

斑目
そうですね。ちなみに、3人の娘は全員異母姉妹というやつです。

斑目
そして、どうやら被害者を殺害したのは、この3人の娘に絞られるみたいなんです。

千早
――なぜですか?

斑目
被害者がそう言っていたからです。

斑目
自ら110番をしてきた被害者は、その電話口でこう言っていたそうです。

斑目
【最愛の娘】に殺される――と。

千早
……なるほど。

斑目
しかも、こちらの調べだと、この3人の娘――いずれも被害者に対して明らかな恨みがあるんです。

千早
動機はあるということですね。

斑目
えぇ、長女――外丸柊子(とまる とうこ)。年齢は44歳。

斑目
離婚した際の親権は、どうやら被害者のほうにあったようですね。

斑目
大学に入学する際に家を離れ、そのまま地元に戻って就職。

斑目
実家には戻らずに一人暮らし。独身です。

斑目
かつて結婚を約束した婚約者がいましたが、被害者のせいで縁談を台無しにされたことがあるみたいですね。

斑目は手帳をめくる。千早は日記帳をさまざまな角度から眺めてみたり、時折日記を開いてみたり。
斑目
次女、新橋夏美(しんばし なつみ)。32歳。

斑目
3姉妹の中で唯一、被害者の立ち上げた会社で働いています。

斑目
今から3年前に結婚しましたが、被害者の会社に勤める男と無理矢理結婚させられることになってしまったようです。

斑目
今は旦那と暮らしているため、実家からは離れています。

容疑者となってしまった3人の姉妹は、誰しもが物のように扱われてしまっている。
斑目
最後は三女ですね。外丸美雪(とまる みゆき)で年齢は22歳。

斑目
高校を中退した後、アルバイトを転々としており、今は水商売をしています。今風に夜職と言ったほうがいいでしょうか。

斑目
昨年まで、実家に住んでいたのですが、被害者が水商売というものを随分と嫌っていたようで、追い出されてしまったみたいです。

斑目
今は友人の家やネットカフェを泊まり歩いたりしているようですね。

千早
…………。

千早
……なるほど。

少しの沈黙があったのち、納得行ったかのように頷く千早。
千早
それでは、こちらの【いわく】を改めて見定めさせていただきます。
