鬼神丸
はぁ…はぁ………

父
足を止めるな鬼神丸!

鬼神丸
で、でも父さん……

父
いいから走れ!!

父
母さんが私達を逃してくれてるんだ!!

鬼神丸
でも、そんなの……

父
いいかよく聞け?

父
私達の家が焼かれるのは当然なんだ…

鬼神丸
えっ……

父
鬼神丸もうすうす気づいていたはずだ

父
お前が”人と鬼”の間に生まれた子だと

鬼神丸
………

父
私が愛した女性は確かに鬼だ

父
だが、種を超え愛が芽生えてもいいとは思わないか?

鬼神丸
僕は父さんの子だ…

鬼神丸
その意見に反対することは無いよ

父
人はみな自分達の認知を超える存在が現れると

父
恐怖しその存在をしりぞける

父

父
とある村で必ずいじめにあっていた子がいた

父
その子は人の子と違い頭部に角が生えていた

父
そう、その子は鬼だった

父
故に村の子供らに石を投げられ虐げられていた

父
しかしその子は手を挙げなかった

父
自分と彼らの違いを知っていたからだ

父
だから手を出さなかった…

父
しかしそのせいで調子に乗った子供らは

父
罵倒から石を投げるという手段まで用いたのだ

父
その現場を見た私は彼らを止めて鬼の子にそっと話しかけた

父
するとその子は我慢していたものが堪えられなくなり

父
私の腕の中で泣いた

父
それが後に私の愛する人となる…

父
お前の母さんだよ

鬼神丸
………

父
母さんは自分が鬼であり人なんてものは簡単に殺せてしまう

父
それを知った上で人の子の攻撃を我慢していた

父
その後彼女から出た一言は

父
『人の中にもやはり良心はあるのですね』

父
この一言だった

父
彼女は人の子を信じていた

父
あれだけひどい仕打ちを受けてなお

父
人の子を信じていた

父
その姿に私は惚れた

父
それと同時に彼女のことは守ってみせると

父
そう誓いを立てた

鬼神丸
父さん……

父

父
さぁ、そろそろ裏口に着く

父
お前はここから出ろ

鬼神丸
待って!!

鬼神丸
父さんは!?

父
言ったはずだ

父
『彼女のことは守ってみせると』

鬼神丸
!!?

父
いいか鬼神丸

父
今回の件で人を恨んでは行けない

父
だからといって鬼も恨んでは行けない

父
高度な知能を持つものはみな自分の認知を超える何かを見ると怯えるのだ

父
お前はこの世にたった一人

父
人と鬼の血を引く者だ

父
私達の件を引き金にきっと世の中は乱世になる

父
その時までにお前は力をつけて

父
両者和解の架け橋になってくれ

鬼神丸
父さん……

父
大丈夫だ

父
お前は私が誇るこの世界で一番強くて優しい子だ

父
なんせ強い母さんに優しい父さんの血も引いてるのだからな…

父

父
さぁ!ここから逃げろ!!

鬼神丸
……ッ!

父
決して振り向くな!!

父
お前が見るべきは過去じゃない!

父
幾万人が望む明日だ!!

鬼神丸
くっ………

鬼神丸

鬼神丸
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

父

父
そうだ…それでいい

父
未来はお前に託された

父
重荷かもしれないがきっと…

父
必ず未来で仲間が待ってる

父
私や母さんのように理解してくれる人が待ってる

母

母
キャァァァァ!!?

父
!?

父
母さんか!?

村人
ようやく追い詰めたぞ鬼め……

母
くっ……

村人
村に起こる数々の厄災はお前のせいか!!

母
違う!

母
私にそんな力は…

村人
黙れぇぇえ!!

村人
なんにせよお前を殺すことには変わりない!

村人
死ねぇぇぇ!!

大きく振り下ろされるその鎌は倒れ込む彼女の首を狙っていた
死を覚悟した彼女は咄嗟に目をつぶり辺りの光景は見えなくなった
本来であれば痛みが襲ってくるはずなのにその痛みは襲ってこない
恐る恐る目を開けるとそこには身を呈して守ってくれた彼の姿があった
村人
なっ!!?

父
ごふっ……

母
あ、あなた!!?

父
厄災がなんだが知らねぇけど……

村人
ひっ……

父
都合悪いことを誰かのせいにして…

父
ましてや私の愛する妻のせいにするなんて……

村人
あっ……あぁ…………

父
訂正しな……

父
その……こと…………ば………

付けられたその傷はとても深く残念ながら命が持つとは思えない程のものだった
母
う、うそ………

母
へ、返事してくれよあんた……

母
私は…私はあんたと鬼神丸が生きてりゃ……

村人

村人
へっ……へへ………

村人
ざ、残念だったなぁぁぁ!!?

村人
お前のせいでお前を愛してくれた人が死んじまったようだなぁ!?

村人
やはりお前は厄災なんだよ!

村人
お前がいなければこんなことには……

母

母
そうね……

村人
は?

母
私が居なければこんなことにはならなかったかもしれないわね

母
けどね………

母
私が居たからこの人は生きていけてた

母
あんたなんかには必要とされてないけど

母
この人は私を必要としてくれた…

母
鬼神丸だってまだ親元を離れるには幼い…

母
あの子も私を必要としてくれた……

母
その全てを奪った……

母
危害を加えなかった私からあなたは全てを奪った!!

村人
!!!

母
ごめんなさいアナタ…

母
私初めて人に危害を加えることになります

母
許してください……

村人
お、女が調子に……!

男を切り裂いたその鎌で再び彼女を切り裂こうとしたがその刃はパキンッと音を立ててへし折れた
村人
あっ……あぁ………

母
どうやら私は地獄行きみたいですね…

母
でも、アナタが鬼神丸を逃がしてくれたのなら

母
それなら私は後悔しないわ

母

母
ねぇ?

村人
ひぃぃ!!?

母
私と共に地獄に堕ちましょう

村人
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
