コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
付き合ってからの日常は、 まるで季節がひとつ変わったように、静かで、 でも確かに色づいていた。
咲は相変わらず、人前でベタベタするような ことはしない。
でも、哲汰はそんな咲の「ちょっとした変化」に気づくのが得意だった。
たとえば、朝。 教室に入ってくる咲が、ほんの少し目を合わせてくれるようになったこと。 目が合った時、すぐにそらさず、 少しだけ口元が緩むようになったこと。
哲汰はそれだけで、その日一日を頑張れた。
昼休みになると、哲汰は咲の席の隣に来て、 少しだけ話す。 周囲の視線もあるから、あくまで“自然に”。 でも、二人だけにわかる距離感で。
ある日、哲汰がそっとチョコパンを 咲の机に置いた。
哲汰
咲
短い返事。でもその日、 咲はいつもより長く哲汰の方を見ていた。
放課後になると、 帰り道を一緒に歩くことも増えた。 人目を避けて、商店街の裏の小道を抜ける。 ふたりきりになると、咲は少しだけ素直になる。
咲
哲汰
咲
哲汰
そんな会話ができるようになったのは、 付き合ってから二週間が経った頃だった。
週末には、カフェに行く。
咲は哲汰のスマホに入っているONE N’ ONLYの曲を、ちょっと恥ずかしそうに 「聴いたよ」と言った。
哲汰は嬉しさを隠せず、ちょっと調子に乗って 小さく踊って見せたら、咲が吹き出した。
咲
でもその声は、どこか甘かった。
二人の日常は、大きなイベントなんてない。 でも、“目が合って笑う”“ちょっと手が触れる” そんな一つ一つが、ちゃんと特別だった。
恋をして初めて、咲は「毎日が変わっていく」 感覚を知った。 哲汰は咲のそばで、「大切なものができる」 という重さと喜びを知った。
そして今日もまた、廊下ですれ違いざまに 哲汰が指先で咲の袖をそっとつかみ、 小さくささやく。
哲汰
咲は、ほんの一瞬だけ――笑って頷いた。