今回もTwitter企画となります。
今回はみんなで考えた要素を盛り込んで作品を作ることになりました。
どうぞお楽しみください!
その女の子を一目見た瞬間から、僕の心は囚われてしまった。
休日、図書館にでも行こうと海沿いの道を歩いている時に出会った彼女。
背中まである栗色の髪とセーラー服を、海特有の強風の思うがままになびかせながら
砂浜に佇み、物憂げな瞳で海原を見つめていた。
その少し影のある雰囲気を纏ったミステリアスな姿は
海に出没する魔性の妖怪、セイレーンを彷彿とさせた。
制服のデザインを見る限り、僕と同じ学校の生徒だろうか。
…でもあんな美少女が同級生に居た記憶がない。
僕の友達の中でも一番交友範囲の広い陸にでも聞いてみようか…
樹
陸、陸!
樹
さっき、すんごい綺麗な子見つけたんだけど
陸
お?珍しく樹が女子の話してるのか
陸
明日は雨の代わりに槍でも降りそうだな
樹
そんなこと言うなよこっちは真剣なのにー
陸
はは、悪い悪い
陸
で?樹のお眼鏡に叶った子はどんな子なんだ?
樹
んっとなー
樹
うちの高校の制服着てたから同じ高校の子だと思う
樹
バッジまでは見えなかったから学年はわかんない
樹
栗色の髪が背中まであった
陸
陸
そいつ見かけたのいつだ?
樹
んー、図書館の行きがけだったから
樹
朝の10時くらいだな
樹
陸、どしたー?
樹
既読スルーはないだろうよー
陸
樹
陸
その子の正体知りたいか?
陸
どんな事があっても秘密にしててくれるか?
樹
あ、返事きた
樹
遅いよー
樹
知ってんだろ?僕は口が硬い
樹
秘密にしといてやるよ
陸
陸
わかった
樹
「夕方5時に見つけた海岸まで来て欲しい」って陸は言ってたけど
樹
陸の知ってる人なのかな?
…
樹
…あ!
樹
朝の人ですよね!
樹
いやーよかった、来てくれて
樹
僕、長部樹って言います!
樹
突然ごめんなさい、一目見てあなたの事が好きになってしまって…
…
樹。
少女の声は、まるで男の様に低かった。
俺だよ、陸。
樹
…は?
余りの展開に頭がフリーズした。
陸
これには事情があって。
陸
聞いてくれるか?
陸
俺は元々双子で、本当は姉さんか妹が居るはずだったんだ。
陸
でも、お袋の腹の中で成長しきれなかったもう一人の俺は
陸
俺の体に取り込まれ、脳腫瘍になってしまった。
陸
「奇形腫」って奴らしい
陸
…姉さんか妹かわかんねえけど、産まれてきたかっただろうし
陸
もしかすると俺の方が腫瘍になってしまったかもしれないのに
陸
脳手術って修羅場を乗り越えたけれど、こうやって俺だけ平然と生き残ってる
陸
…栗色の髪一束分ぽっちしか産まれてこれなかった片割れと違ってな
樹
…その姿は親父さんとお袋さんの為?
陸
ああいや、親父もお袋もとっくの昔に立ち直ってはいるよ
陸
…でも、ある時昔のお袋の日記を見つけちまってな
陸
まだ俺らが二人とも無事にいる時の話さ
陸
二人の誕生を心待ちにしていた
陸
「陸と七海って名付けて、いろんな世界を見せてあげよう」って。
陸
…でも七海は産まれて来れなかった
陸
だから、俺が七海の代わりになって世界を見せてやるんだ
陸
俺の脳から摘出された髪の色と同じカツラを被って、同じ高校の制服を着て。
陸
それが俺の代わりに死んだ片割れに出来ることだ
陸
…重いよな、引くよな。
樹
…
樹
お前の気持ちはわかる
樹
でもな…
樹
事情を知らない人間は違うだろうな
樹
平然と奇異の目で見てくるぞ
樹
耐えられるか?
陸
…
陸
耐えてやるさ
樹
本当か?
樹
去年振られて一週間引きずってたろ、お前。
陸
なっ…!!
陸
それとこれとは…
樹
だからさ
樹
俺もお前と歩いて一緒に笑われてやるさ
陸
…
樹
七海さんのこと、一目惚れするくらい好きだし
樹
外野がどう言おうと一緒に居れるなら無問題ってな!
陸
…
陸
ありがとう。
陸
本当にありがとう。
陸
俺、俺…
陸
平静を装ってたけど明日から腫れ物に触るみたいに接されたらって不安でっ…!
樹
ほら、泣かなくてもいいから行くぞ?
樹
3人で一緒にラーメンでも食べに行こうぜ!