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爪削村怨殺事件

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爪削村怨殺事件

1 - 爪削村怨殺事件1 20,000人記念リクエスト

♥

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2020年02月18日

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夜9時すぎ

K県N郡、爪削村

ヨシサト

いやぁ、本当に助かりましたよ

ヨシサト

ずいぶんご無沙汰してたのに

ヨシサト

まさか泊めてもらえるなんて

ヨシサト

本当にありがとうございます

地主

なに、気にすることはない

地主

むしろ来てくれて嬉しいよ

地主

最後に会ったのはいつだったかな

地主

君のお母さんとはいとこ同士だ

地主

遠慮することはない、いつでも来ればいい

地主

部屋も余っているわけだしな

地主

……と言っても、ここは田舎すぎるからなぁ

地主

ヨシサトのような若者にはつまらんだろうが

ヨシサト

いえ、そんな

ミカ

ちょっとお父さん、勝手なこと言わないで

ミカ

いつでも来ていいだなんて

ミカ

本気にされたらどうするの?

地主

おい、ミカ!

ミカ

なによ、本当のことじゃない

ミカ

ゆっくり出産準備ができると思ったから

ミカ

わざわざここまで帰ってきてるんですからね

ミカ

嫌がらせに続いて、オタク男と同棲なんて

ミカ

冗談じゃないわ!

地主

ミカ!

地主

……はぁ

地主

いや、すまない

地主

娘のミカが今月から、出産帰省してるんだ

地主

東京に嫁いだんだが、――どうもね

地主

お姑さんと折り合いが悪いらしい

地主

帰省したってのにずっと不機嫌なんだ

地主

気にしないでやってくれ

ヨシサト

あ、はぁ

ここは山間部にある小さな集落だ。

母の祖父、つまり僕の曾祖父が大地主として有名で

大規模な治水、掘削工事なんかを行った土地らしい。

母のいとこが継いだこの本家は、今でも集落内で

かなり大きな権力を持っている。

その権力を示すように、家は手入れの行き届いた古い屋敷で、

現代ではめずらしく、複数の女中さんが住み込みで働いている。

言ってみれば、絶滅危惧種のような家庭だ。

僕は大学生だが、ミステリー作家を志している。

いわゆるワナビーと言われる人種だ。

作家志望として興味をそそられる舞台に好奇心がうずき、

母に少々むりを言って、縁を頼って遊びにやって来た。

ヨシサト

まさかミカさんが帰省中とは

ヨシサト

言ってくださったら遠慮したんですが

彼女とは幼少期、何度か顔を合わせたことがある。

けれど少し高慢で、子どもながらに苦手だった記憶が強い。

地主

いいんだよアレのことは

地主

甘やかされたくて帰ってきただけだ

地主

あまりワガママさせてしまうと

地主

東京に帰ったときにね

地主

夫婦ゲンカをさせてしまう

ヨシサト

あぁ、なるほど

こういう場合、笑っていいものなんだろうか。

それでもとりあえず、分かったふりで同意しておく。

しかし彼女が気になることを言っていたのに気付いた。

ヨシサト

そういえばさっき

ヨシサト

嫌がらせがどうとかって

地主

あ、あぁ、あれは……

地主

……気にしないでくれ

地主

不愉快なイタズラだ

地主

どこの誰か知らんが、腹立たしい

ヨシサト

はぁ……

地主

……あ、すまんすまん!

地主

せっかく遊びに来ているのに

地主

こんな話は楽しくないな

地主

さ、そろそろ部屋に案内させよう

地主

明日は村を見て回るんだろう?

地主

寝酒は必要かな

ヨシサト

いえいえ、とんでもない!

ヨシサト

今日はここまで来るだけで疲れてしまって

地主

はは、そうか!

地主

まぁ都会からは遠いからな

ヨシサト

明日の晩酌には是非お付き合いします

ヨシサト

じゃあ、お休みなさい

女中さんが案内に来てくれたのを見止めて、退室する。

白い土壁に深い色の床板、足元灯だけが光る廊下

足下から冷えてはくるが、すべてがまるで本の中の世界だ。

カリ…

カリカリ…

ヨシサト

……あれ

ヨシサト

なにか今、変な音……

ヨシサト

しませんでしたか?

女中

え?

女中

……

女中

や、やだ

女中

おどかさないでください!

女中

きっとイタチでも入り込んだんですよ

女中

さ、お部屋はこちらです

女中

ごゆっくりお休みなさいませ

異様に怯えた様子で、女中さんは早足に去って行く。

なにか変なことでも言っただろうか。

そのときだった。

???

どなたですか?

ヨシサト

うわぁッ!?

部屋の格子窓の向こうから、女性の声がした。

ヨシサト

え、えっ!?

???

どなたですか?

こちらの動揺を一切気にした様子もなく、質問が繰り返される。

ヨシサト

え、えぇと!

ヨシサト

こちらの遠戚の者です!

ヨシサト

数日ご厄介になる予定で……!

???

そう

あっさりと納得してくれたようだが、

妙に声に抑揚がないのが不気味だ。

もしかしたら他の女中さんかもしれない。

ヨシサト

あの、外はお寒いでしょう

ヨシサト

よければ中に――

???

早く出ていったほうがいいよ

ヨシサト

――え?

思いがけない言葉に驚き、慌てて格子窓との間を仕切っている障子窓を開く。

ヨシサト

……いない

寒い屋外に長居したい人間は少ないかも知れないが

それにしても走っていった足音も聞こえなかった。

ヨシサト

なんだったんだ、あの人

なんとなく気味の悪い気分のまま、用意されていた座椅子に腰を下ろす。

電源の入っていないテレビ画面に映った自分は、

なぜかひどく顔色が悪く見えた。

翌日午前10時

ヨシサト

しかし、絵に描いたような寒村だなー

ヨシサト

Y溝S史の作中に出てくる雰囲気だ

村人A

おや?アンタは

ヨシサト

あ、昨日お会いしましたね!

村人A

アンタどっかの家の親戚か

村人A

物好きな観光客かと思っとったよ

ヨシサト

あはは、間違ってないと思いますよ

ヨシサト

実は地主さんと遠戚でして

ヨシサト

数日お世話になってるんです

村人B

なに、地主さんとこの!?

村人A

よりによってこんな時期に……

村人C

アンタも災難だな

ヨシサト

え?

村人B

……なんだ

村人B

アンタ聞かされてねぇんか

村人C

まぁ、地主さんにとっちゃ

村人C

都合の悪い話だろうが

村人A

とはいえ、なにも知らず

村人A

あそこに泊まるのも不憫だ

村人A

今あそこん家はな

村人A

幽霊騒ぎが起こってるんだ

ヨシサト

ゆ、幽霊騒ぎ!?

村人C

こら!声が大きい!!

ヨシサト

あっ、すみません!

ヨシサト

……で、幽霊騒ぎって?

村人B

8年前に死んだ娘がな

村人B

出るんだよ

ヨシサト

出るって……幽霊が?

村人C

そうだ、もう何人も見てる

村人B

毎夜毎夜、村の中を歩くんだ

村人B

死んだ場所から、地主さんの家に向かってな

村人A

しかも毎日、家の壁に……な

村人A

刻み込まれとるんだよ

ヨシサト

刻み込まれる?

ヨシサト

なにがですか?

村人C

悪行がだよ

ヨシサト

悪行?

ヨシサト

あのお宅、なにか悪いことでも?

村人C

いや、地主さんそのものというより

村人B

――娘がな

ヨシサト

ミカさん?

村人A

詳しくは言えないが、あの娘は怖い

村人A

死人にも容赦がねぇや

村人B

俺らがこんなこと言ったって

村人B

バラさないでほしいんだがな

村人B

……早く帰ったほうがいい

ヨシサト

昨夜も、見知らぬ女性に言われた言葉だ。

おかしな符号を感じるが、そういえば

昨夜部屋の外にいたのは誰だったのか、

帰ってから話を聞かないとと

そう思ったときだった。

村人D

た、大変だ!!

村人D

大変だぞ!!

村人C

お、なんだ!

村人C

誰か水路にでも落ちたか!

村人D

違う、そんなもんじゃねぇ!

村人D

ミカさんが

村人D

地主さんとこのミカさんが

村人D

崩れ松の下で殺されたァ!!

この言葉ほど、現実感がないものもない。

まるきり本の中の世界の話であり、

まさか現実に聞く日がくるとは思わなかった。

しかしリアリティはさざ波のように押し寄せる。

首筋から徐々に広がった鳥肌が足先を粟立たせた頃、

僕はようやく、額から血の気が引くのを感じた。

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