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少女

……フンフフ~ン♪

青空も空気も澄み渡る 片田舎の昼下がり。

小高い「山」を背にした草原に、

様々な「装置」が直置きされ、 プシュプシュ音を立てて動いている。

少女

天候ヨシ、気温ヨシ

少女

湿度ヨシ、酸素濃度ヨシ

少女

人の気配は――

少女

――ナシっ!

手慣れた様子で 指差し確認を終えると、

小柄な「少女」は ニンマリ笑った。

使い込まれた「ヘルメット」 &お揃いの「ゴーグル」。

実用性極振りな「ツナギ」。

グリップ抜群の「革グローブ」。 足になじんだ「編み上げブーツ」。

全身防備も万端だ。

ワクワクをこらえ切れない彼女は、 箱型装置の「T字ハンドル」に 手をかける。

少女

3……

少女

2……

少女

1……

少女

――発破ァ!

渾身の勢いで ハンドルが押し込まれた瞬間――

――ドガァアアァァアァンッ

爆炎とともに  山が “消滅”。

少女

…!

少女は、ただただ 呆気にとられていた。

もうもう立ち込める煙が 静かに消える。

山のかわりに 現れたのは――

ぽっかりえぐれた 巨大な穴。

少女

や…

少女

やった~実験成功だっ♪

飛び上がって喜ぶ少女。

少女

――んじゃ早速!

少女

爆発跡地の観察に行くぞっ

手早くツナギを上だけ脱ぎ、 邪魔な袖はザクッと腰に結ぶ。

散らばる装置は “魔法” で雑に圧縮し、 鼻歌交じりにポイポイ収納。

かわりに取り出した 「大型バイク」にまたがると、

――ブオンッ

“炎陣(エンジン)” の音をうならせて、 一直線にすっ飛んで行った。

――爆発跡地。

少女

とーちゃくっ!

少女

わぉ…

少女

さっきまで “緑の山”
だったはずなのに

少女

すっかり “茶色い荒地” と
化しちゃったねー

少女

観察しがいあるじゃんっ♪

バイクから降りた少女は、

ヘルメットとゴーグルを外すと さっそく周囲を調べ始めた。

少女

あっちもこっちも焼け野原

少女

生えてた木も、
住みついてた魔物も
消滅してるなぁ…

少女

うんうん

少女

想定以上に炎上しまくり、
いい感じっ♪

少女

…おや?

少女

短い、棒…?

少女

…へぇ

少女

さっきの爆発で
原型留められる物質、か

少女

形は地味だけど、
どう見たって “人造物” よね…

少女

…おもしろいじゃないのさ

“研究対象” という “獲物” を前に 鋭く光る真紅の瞳。

キュッと 手袋を引っ張り直す。

少女

とりあえず抜いてみるぞっ

  棒の端を両手でつかみ、 しっかり地面を踏みしめて、

力の限りに引き抜い――

――しゅぽん

 ワインのゆるゆるコルクを抜いた ぐらい間抜けな音。

少女

きゃッ⁉

勢い余った少女が 尻餅をつく。

少女

あいたたァ…

上半身を起こす少女。 その右手には――

1m弱の「棒」。

少女

…って、何コレ?

やや弧を描く形状の 見慣れぬ「工芸品」。

手元側だけ布が巻かれ、 端から20cmの位置に丸い金属板。

残りは赤く塗られている。

少女

…なるほど!

少女

“バールのようなもの”
ってわけねッ

少女

やば、すっごく気になる♪

興味深げにガチャガチャ いじくり回したところで、

少女

ん?

少女

左右に分割できる――

少女

てことはバールじゃない…
え? 何だろ??

仕掛けに気付いた少女は 期待をこめたまなざしのまま、

ゆっくり左右に 棒を引っ張ってみる。

少女

…ちぇっ、ソードかよ

布が巻かれた部分は「柄(つか)」。 赤い部分は筒状の「鞘(さや)」。

隠されていた細い「刃(やいば)」。

少女

しかもサヤごと
グニャッと曲がった
“不良品” じゃん

少女

なぁんだ…

がっくり肩を落とした少女が 「剣」を投げ捨てようとした、 まさにその時。

――待たれよッ!

――拙者、 不良品では ござらぬぞ!

 響き渡るは、 “見知らぬ男” の “渋い声”。

少女

……ソードが喋った?

陽紅ノ太刀

拙者――
陽紅ノ太刀(ようこうのたち)は
“そぉど” ではござらぬ

陽紅ノ太刀

由緒正しき日本刀じゃ!

少女

ニホントーって何?

陽紅ノ太刀

知らぬのかァ…

ちょっぴり肩を落とす刀。

陽紅ノ太刀

日本刀は遥か遠き島国の刀剣での

陽紅ノ太刀

最たる特徴は
“折れず、曲がらず、よく切れる”
でござる

少女

でも君、曲がってるけど?

陽紅ノ太刀

こりゃ元からよッ!

陽紅ノ太刀

この “反り” もまた
素晴らしき切れ味に
欠かせぬ秘訣――

陽紅ノ太刀

――いわば日本刀の真骨頂ぞ⁉

少女

ていうか、武器って
普通しゃべんないよね?

少女

何で君は喋れるのさ?

陽紅ノ太刀

良くぞ聞き申した!

陽紅ノ太刀

何を隠そう――

陽紅ノ太刀

実は拙者! 紛うことなき
“神話級の武具” なのでござるッ!

少女

神話級? 何それ?

陽紅ノ太刀

なッ!

陽紅ノ太刀

それも知らぬ、だとォ…

地面に倒れ込む刀。

先の何倍も ショックだったらしい。

陽紅ノ太刀

…まぁ良い、教えてしんぜよう

陽紅ノ太刀

確かに並の武具では、
自ら動き喋るなぞ叶わぬはずじゃ

陽紅ノ太刀

だが “道を究めし匠” の作なら話は別よ

陽紅ノ太刀

卓越せし技の匠が
命を燃やして生みし武具に限り、
時に神より “魂と使命” を
賜る事があっての――

陽紅ノ太刀

――その選ばれし武具だけが
“神話級” と称されるのであるッ!

少女

へぇ、道って究めると
そんなコトできるんだ…

静かに興味を示しつつ 少女は質問を続ける。

少女

君の使命って?

陽紅ノ太刀

選ばれし勇者殿と共に

陽紅ノ太刀

この世を破滅へ導く悪しき者…
…即ち「魔王」および
「配下の魔物ども」を倒し

陽紅ノ太刀

天下泰平を実現致すことじゃ!

少女

うわぁ~大変だねぇ

陽紅ノ太刀

――という訳にて

陽紅ノ太刀

本日より宜しく頼むぞ、勇者殿

少女

勇者? どこにいるの?

陽紅ノ太刀

またまたァ~

陽紅ノ太刀

冗談きついでござるよ勇者殿ッ

陽紅ノ太刀

“貴殿” に決まっておろう!

少女

……は?

ぽかんと固まる少女。

陽紅ノ太刀

いやはや、勇者殿を
お待ち申して早100年…

陽紅ノ太刀

ようやくこの時が参ったと
思うと感慨深いでござるなァ~~!

陽紅ノ太刀

――して、勇者殿の名は?

アッシェ

アッシェ・フリーエン
だけど…

アッシェ

…ってか何で
あたしが勇者なわけ?

陽紅ノ太刀

貴殿は拙者を抜いたであろう

陽紅ノ太刀

古来より、聖刀を抜きし者
こそ勇者であると――

アッシェ

あ~そういうのパス!

アッシェ

他あたって

陽紅ノ太刀

なッ!?

今度は刀が固まり、

打って変わって慌て出す。

陽紅ノ太刀

な、な、何を言うか勇者殿ッ⁉

陽紅ノ太刀

そもそも勇者とは
限られた者しか賜れぬ
栄誉ある称号で――

アッシェ

やだよぉめんどい

アッシェ

それにあたし、
他にやりたいコトあるし――

陽紅ノ太刀

やりたい事じゃとォ⁉

陽紅ノ太刀

それは天下泰平より
大事でござるかッッ⁉⁉

アッシェ

当然っ♪

アッシェ

少なくともあたしには
“爆炎道(ばくえんどう)” を
究めるほうが大事だよ!

自信ありげに 少女が胸を張った。

陽紅ノ太刀

…あいや待たれよ

陽紅ノ太刀

“爆炎道” とは?

アッシェ

えっとぉ…
“アーティフレイム” は分かる?

陽紅ノ太刀

詳しくはござらんが、
炎由来の魔法を発動する装置
の総称、よな?

アッシェ

正解っ

アッシェ

アーティフレイムには目的に
あわせた “炎陣(エンジン)” 、
つまり “炎の魔法陣” が
組み込んであって

アッシェ

魔力を流すと魔法を発動する
仕組みなのさ

少女は嬉々として アイテムを並べ始める。

アッシェ

まずはこれ!
腕輪型のアーティフレイムで、
物質を圧縮して運びやすくするよ

少女

こっちはバイク型で、
高速移動できる乗り物なんだ

  続いて取り出したのは、 「小型の球体」と 「T字ハンドル付きの箱」。

アッシェ

んで“爆炎道”は、この爆弾型と
起爆スイッチ型とかを使って

アッシェ

より美しく、より心に響く爆炎を
目指し追求する道ってわけ♪

アッシェ

あたしは爆炎道を究めるために
旅してるんだ~

陽紅ノ太刀

ほう、具体的には何を致すのだ?

アッシェ

人にもよるけど…

アッシェ

あたしは1回1回の実験を大事に
ちゃんとデータを取って
丁寧に分析とかするタイプだよ

アッシェ

アーティフレイムのアプデや
メンテも欠かせないから

アッシェ

こまめに「アーティフレイム
ショップ」っていう専門店で
情報収集もしてる

アッシェ

爆炎って色んな要素が影響してて
奥深いんだよねぇ…

アッシェ

…まぁでも基本は
ガンガン爆破あるのみかなっ!

陽紅ノ太刀

さすれば先の爆発も貴殿が?

アッシェ

そー!

アッシェ

さっきのは自信作でさ~

陽紅ノ太刀

確かに物凄い炎でござった

アッシェ

でしょでしょ♪

陽紅ノ太刀

霊峰に留まる事なく、
巣食いし魔物どもをも一撃とは…

陽紅ノ太刀

…あの凄まじき破壊力なれば
魔王軍と渡り合えるでござる

陽紅ノ太刀

やはり貴殿は、勇者に
ふさわしき力を持つ逸材よッ!

アッシェ

はァ?

アッシェ

勇者なんかやんないって
言ってんじゃん

陽紅ノ太刀

貴殿に拒否権はござらんよ

アッシェ

だからあたしは
爆炎道で忙しいんだって!

陽紅ノ太刀

勇者業も爆炎道も
共に究めれば良いではないか

アッシェ

ムリムリッ!

陽紅ノ太刀

無理ではござらん

陽紅ノ太刀

拙者が勇者殿を導くゆえ、
大船に乗りしつもりで――

アッシェ

――もういい!

  ぴしゃりと 遮る少女。

  広げたアーティフレイムを 無言で片付けると、

乱暴に刀を掴み、

バイクをふかして 大穴から飛び出した。

――刀は、 安堵した。

選ばれし “勇者” は 役目を拒んだ。

しかし結果、 刀を旅路へ同行させた。

陽紅ノ太刀

しかも勇者殿の戦闘力は本物である

陽紅ノ太刀

魔物どもを一掃せし、
あの恐ろしき破壊を成しえる技

陽紅ノ太刀

まさに「爆炎の申し子」じゃ…

陽紅ノ太刀

拙者と同じく “選ばれるべくして
選ばれた存在” に違いあるまい

跳ねるように疾走するバイクの上で 爽やかな風を感じつつ、

まだ見ぬ冒険に想いを馳せ、 刀は胸を高鳴らせたのだった。

――チャリーン

武器店の店長

はいよ、銅貨2枚だ

ムキムキ筋肉な大男が 小銭を差し出す。

アッシェ

さんきゅ~おやっさん

受け取った少女は 表裏を軽く確認してから、 ひょいっとカバンに投げ込んだ。

彼女が訪れたのは、

近隣の街の 「武器専門店」。

店に入るなり、 手持ち品の売却を 依頼したのだ。

そのかたわらで 刀は非常に興奮していた。

100年ぶりに訪れた街では、 目にする全てが新鮮。

武器屋では、 端から端まで所狭しと 武器が並ぶ光景に心奪われる。

アッシェ

じゃよろしくね~

足早に 店から去る少女。

刀も、後を 追おうとするが――

武器店の店長

行かせねェよ!

――ガシッと 刀を掴む大男。

陽紅ノ太刀

何をするッ

陽紅ノ太刀

拙者は勇者殿と旅する身、
貴殿に構う暇など――

武器店の店長

いんや

武器店の店長

お前は今日から俺のモンだ

陽紅ノ太刀

はッ…

陽紅ノ太刀

ま…まさか貴殿、魔王の配下か⁉

武器店の店長

違ぇよ

武器店の店長

タダの人間だ

陽紅ノ太刀

ならば何故――

武器店の店長

お前は “売られちまった” んだよ

武器店の店長

その “勇者殿とやら” にな

陽紅ノ太刀

ッ⁉

ようやく “現状” を  把握した刀は、

絶望の淵へ 叩き落とされた。

おいてかないでッ!勇者殿!~聖なる刀は爆炎少女を今日も追う【第1回テノコン特別賞 受賞】

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