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テラーノベル(Teller Novel)

――武器店。

武器店の店長

おらッ
ここに入ってな!

陽紅ノ太刀

のォ⁉

勇者によって 売り飛ばされた刀が、

悲しむ暇もなく 即座に放り込まれたのは

売り場の隅の ボロい「箱」。

陽紅ノ太刀

ちょ…何をするのじゃッ

武器店の店長

見りゃわかるだろ、
“鎖” で繋いでるのさ

陽紅ノ太刀

乱暴に扱うでない!

陽紅ノ太刀

拙者は神話級の選ばれし武具ぞ?

陽紅ノ太刀

せめてのぅ、もそっと
丁重な扱いをじゃな――

武器店の店長

ゴチャゴチャうるせぇ!

――ゴツン

陽紅ノ太刀

んぎゃッ!

いきなり小突く大男。 悲鳴を上げる刀。

武器店の店長

いいか、お前なんか
いつでもスクラップ行きに
できんだぞッ

陽紅ノ太刀

す、すくらっぷじゃと…

武器店の店長

脅しじゃねぇからなッ

武器店の店長

買い手がつくまで
せいぜい大人しくしてろ!

そう吐き捨てた大男は

カウンターの奥へと 入っていった。

陽紅ノ太刀

ふぅ…

陽紅ノ太刀

…兎にも角にも
時間を無駄には出来ぬ

陽紅ノ太刀

かような場所なぞ
一刻でも早く抜け出して

陽紅ノ太刀

勇者殿と合流せねば……

陽紅ノ太刀

…ムム?

陽紅ノ太刀

こッ…この鎖ッ、箱の底に
繋がっておるではないかッ?!

陽紅ノ太刀

ここまで頑丈に拘束されては
逃走など到底無理じゃ…

状況は、想定以上に最悪。

打開しようにも、策が無い。

刀は、途方に 暮れてしまった。

 

――なに
おちこんでんのさ~

陽紅ノ太刀

…む?

 

カマわず話しなさいっ

 

金ナラ取ランヨ!

気さくな口調で 話しかけてきたのは、

刀と同じボロ箱に入れられた 「武器たち」だった。

陽紅ノ太刀

…………

初対面な彼らの優しさに、

刀は、ポツリポツリと 語り始める――

昔々のこと。

遥か遠き島国に、 “偉大な刀匠” が居た。

 

ン? “刀匠”トハ?

 

それはねぇ、
刀を作る職人さん
のことよ★

陽紅ノ太刀

さようでござる…

かの偉大な “刀匠” が 人生の集大成として生み出した 渾身の「一振り」――

――それこそが “陽紅ノ太刀”。

このとき刀匠が 受けた「神託」により、

刀は、異国の「霊峰」へ 奉納されることとなる。

それからというもの刀は、 「勇者と旅立つ日」を夢見つつ、

気が遠くなるほど長い長い時を 孤独に過ごし続けていた。

――100年が 経った今日。

ようやく “運命の勇者”である 「アッシェ・フリーエン」に出会い、

刀は、心をおどらせた。

だが幻想は 一瞬で砕かれる。

あろうことか 勇者は、刀を売却し、

迷うことなく 去ってしまったのだ。

事情を聞いた武器たちは 口々に刀を労った。

 

――まさか勇者に
売られるなんて…

 

…大変だったわねぇ

 

マッタク 安スギアル!
銅貨2枚トカ 子供ノ菓子代ヨ

 

ま、ぼくらも
似たようなもんだけどさ~

 

カマしてるゥ★

ドッと笑う 武器たち。

楽し気な声が響く中、 刀は気づいた。

陽紅ノ太刀

――む?

陽紅ノ太刀

武器にも関わらず、皆
声を出し、語ろうておる…

陽紅ノ太刀

……も、もしや、
貴殿らも拙者と同じく――

 

そうっ!

 

魂と使命を賜った
“神話級ナカマ”よっ

陽紅ノ太刀

やはり只者ではなかったか!

刀は大きくうなずいた。

普通の武具は、 自ら動きしゃべることなど まず不可能なのだから。

陽紅ノ太刀

して、貴殿らの名は?

パープル/鎖鎌

私は鎖鎌の
華紫薇(はなしび)こと
パープルちゃん★

雷龍/三節棍

我ハ 雷龍(レイロン)、
三節棍アル!

蒼翠旋/トンファー

で、ぼくはトンファーの
蒼翠旋(そうすいせん)さ~

雷龍/三節棍

生マレタ時期モ
使命モ 違ウガ、
今ハ 仲良クシテルヨ

パープル/鎖鎌

同じカマの飯を食う
ってやつ?

蒼翠旋/トンファー

だぁな!

和気あいあいと 盛り上がる武器たち。

陽紅ノ太刀

……!

――初めて目にした 自分以外の “神話級”。

この出会いは刀にとって 非常に感慨深いものだった。

と同時に「疑問」も湧き出る。

刀は、遠慮なく 聞いてみることにした。

陽紅ノ太刀

…だが、何ゆえ
かような扱いを受けておる?

陽紅ノ太刀

神話級なれば、もっと丁重に
扱われて然るべきでは?

刀が指したのは、 ボロ箱の上に貼られた

『超激安!!  在庫処分価格』

と書かれた古い値札。

しかも3名とも 刀と同じく「鎖」で 繋がれている。

パープル/鎖鎌

そりゃ~
私らナカマは優秀よ★

パープル/鎖鎌

だけど…

パープル/鎖鎌

…ねぇ?

雷龍/三節棍

周リ 見ルガ 宜シ

蒼翠旋/トンファー

理由が分かるはずさ~

クスクス笑い出す 武器たち。

刀は首をかしげつつ、 周囲をキョロキョロ見渡した。

広い店内には、

ところ狭しと 武器が並ぶ。

大半が大切に飾られており、 雑な扱いは少数派だ。

陽紅ノ太刀

――おや?

陽紅ノ太刀

“そぉど” に “らんす”、
“ぼう” に “あろぅ”
ばかりであるな?

武器の量だけは豊富だが、 その種類は偏っている。

蒼翠旋/トンファー

そういうのが
売れ筋武器さ~

パープル/鎖鎌

私ら異国の武器は
御呼びじゃなくてねぇ

雷龍/三節棍

コレガ現実、
需要ト 供給ハ 正直アル

陽紅ノ太刀

あァ、無情…!

刀は、ガックリ 膝をついた。

パープル/鎖鎌

気持ちは分かるけど
悲観しちゃだめ

雷龍/三節棍

ソヨ!
今ノ生活 楽シイネ

蒼翠旋/トンファー

狭い箱でも、
住めば都なのさ~

陽紅ノ太刀

否ッ!

陽紅ノ太刀

拙者は此処で燻る訳に行かぬ

陽紅ノ太刀

絶対に…絶対に脱出しッ!
勇者殿と再会してみせようぞッ!

パープル/鎖鎌

…だけどね

パープル/鎖鎌

肝心の勇者と
ワダカマリがあったら

パープル/鎖鎌

使命なんか果たせないわよ?

陽紅ノ太刀

それは、そうだが…

雷龍/三節棍

オ主ヲ 売ッタノ、勇者アル

蒼翠旋/トンファー

脱出しても無駄かもさ~

陽紅ノ太刀

……だがそれでも、
拙者は世界を救わねばならぬ

陽紅ノ太刀

拙者には使命があるのだッ!

陽紅ノ太刀

悪しき魔王を破り、
天下泰平を成すとの使命が――

陽紅ノ太刀

――ゆえに
諦める訳には行かぬ

陽紅ノ太刀

この魂ある限り、拙者は
もがき続ける所存ぞッ!!!

彼らの主張は グサリと刺さった。

だが刀は、 曲がることなく 意志を貫いた。

雷龍/三節棍

――ナラ話 早イアル

パープル/鎖鎌

チカマワりさせて
やろうじゃない!

 

だぁな

顔を見合わせ、 うなずき合う3名。

陽紅ノ太刀

――と言うと?

蒼翠旋/トンファー

決まってるさ~

雷龍/三節棍

脱出ネ!

陽紅ノ太刀

なん…じゃと…⁉

意外な「申し出」に、

刀は目を見張った。

――数時間後。

明かりが消え、暗くなる店内。

――しばしの沈黙。

雷龍/三節棍

…………

箱から 顔を出したのは、 三節棍。

三つ折りの体を 真っすぐ伸ばし、

長いリーチで周囲を伺う。

雷龍/三節棍

……店主、2階ノ
住宅ニ 戻ッタヨ

 

あいさ~

パープル/鎖鎌

それじゃあ、コトを
カマえる準備はいいかしら?

陽紅ノ太刀

いつでも参れるが…

陽紅ノ太刀

…脱出は拙者だけで
誠に良いのか?

腑に落ちない顔の刀。

雷龍/三節棍

クドイネ!

蒼翠旋/トンファー

その質問さっきもしたさ~

パープル/鎖鎌

私らは既に
使命を果たした身…

パープル/鎖鎌

残りの余生は
ヤカマしい奴にカマう事無く

パープル/鎖鎌

茶飲みナカマに囲まれて
暮らしたいのよっ★

パープル/鎖鎌

貴方は1人で逃げる…

パープル/鎖鎌

…いいわね?

陽紅ノ太刀

……うむ

渋々ながら 首を縦に振る刀。

満を持して 他の武器らも動き出す。

蒼翠旋/トンファー

…ほいよ~

トンファーが 軽くジャンプし、

箱の上へと 「握り」の部分を 引っ掛けた。

蒼翠旋/トンファー

どいやッ――

飛び降りる勢いのまま、 「鎖の留め具」へ――

全体重を叩き付けるッ! (フライングボディプレス)

蒼翠旋/トンファー

――ふンッ!

――ガチャンッ

捨て身のごとき衝撃で、 刀を縛る「鎖」を粉砕!

パープル/鎖鎌

カマすわよぉッ★

自慢の分銅を ブルンブルンと 振り回す鎖鎌。

ビュルンと飛ばし  カウンターに侵入すると、

裏をゴソゴソ探り始めた。

パープル/鎖鎌

――み~つけたっ

鎖鎌が高々と掲げたのは 入口のスペアキー。

店主が内緒で隠した瞬間を 彼女は見逃さなかったのだ。

パープル/鎖鎌

受け取りなさい★

パープル/鎖鎌

貴方をツカマえるモノは
これで何もないわっ

分銅で巻き取り回収した鍵を、 鎖鎌が、刀へ差しだす。

陽紅ノ太刀

何と礼を申せばよいやら――

パープル/鎖鎌

そうそう、最後に
先輩武具の私からヒントよ★

パープル/鎖鎌

勇者と行動したければ
“彼女の気持ち” を考えなさい

陽紅ノ太刀

気持ち――

陽紅ノ太刀

――で、あるか?

真意が掴めず、 きょとんとする刀。

鎖鎌は涼しい顔で 言葉を続ける。

パープル/鎖鎌

考えるのは後っ★

蒼翠旋/トンファー

もたもたしてると
店主が戻るさ~

雷龍/三節棍

達者デナ!

陽紅ノ太刀

……かたじけない

入口へ向かった刀は、 扉の鍵を開ける。

ふと振り返ると、 3名が笑顔で見送る姿 が見えた。

陽紅ノ太刀

…………

刀は深々一礼し、

夜の街へと 駆けていった。

――逃げること 数十分。

陽紅ノ太刀

ふぅ……

陽紅ノ太刀

ここまで来れば
心配無用かの…

安心したら、どどっと疲れた。

100年ぶりに動き回った 影響もあるだろう。

路地裏に積まれた木箱の陰で、 拾った布袋にくるまり

刀は夜を明かしたのだった。

おいてかないでッ!勇者殿!~聖なる刀は爆炎少女を今日も追う【第1回テノコン特別賞 受賞】

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