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オーブンレンジが、可愛らしい音楽を奏でて

予熱終了を告げた。

僕は、3日も前から準備していた大きな鶏を

熱々のオーブンに入れる。

焼き上がりは

そうだな。

1時間にしておくか

弱火で静かに煮立っている寸胴鍋からは

デミグラスな香り。

前菜は、エビとアボカドのムース。

デザートはもちろん

サンタさんはいないと知ったあの日から10年。

僕の

年齢=彼女いない歴は、今日で終止符を打つ。

……予定。

脱チェリー

そう。

僕は野望を胸に秘め

さくらんぼ色のワインボトルを思わず

ぎゅっと握りしめた。

ハイスペックではないけれど

安心、安全、安定の公務員。

今年の健康診断では身長が去年より伸びて

177センチの記録更新。

顔は……

美人とは言われるけれど

カッコいいとは言われない。

はっ!?

彼女ができないのは、イケメンじゃないから?

いやいやいや。

曲がりなりにも接客業。

清潔感と営業スマイルには自信がある。

額に浮かんだ冷や汗をそっと拭って、ため息をついた。

大丈夫。

暗黒面に堕ちるぎりぎりで

踏みとどまる。

僕だって、夏の海でナンパされたじゃないか、大学生の

……男子に。

待て待て待て。

僕だって男!!ついてるものはちゃんとある。

それに、昨日もお客さんに言われたじゃないか。

ばあちゃん

孫の嫁に来て欲しい

ん?

……よめ?

じゃなくて!!

ほらほらほら。

ファーストキスがあるだろう?

あれは中学3年の秋。

進路が別れちゃうかも知れないからって、同級生の

男に。

ダメだ!

気分を立て直そう。

僕は意味もなく、寸胴で煮込まれたビーフシチューをかき混ぜた。

彼女ができますように

彼女ができますように

彼女ができますように

今日、目指すのは

脱☆チェリー

うん。

再確認は重要だ。

この日のための準備は万端だ。

手の込んだ料理。

特注のケーキ。

女の子に人気ですよとオススメされた

ワインはロゼ。

キャンドルの代わりに、白熱灯の間接照明。

ロマンチックだろ?

ロマンチックじゃないか?

ロマンチック、だよな?

イカンイカン!!

自信を持て!自分!

ドタキャンされても良いように保険もかけた。

それに

クリスマスイブに

一人暮らしの男の部屋に来るなんて

彼女になりますって言ってるようなものじゃないか。

腕の悪い狙撃手だって

数打ちゃひとつは当たるだろう。

もやもやと自問自答を繰り返して

無意味にビーフシチューをかき混ぜ続ける。

可愛らしい音楽を奏でて

オーブンが鶏の焼き上がりを知らせた。

ぴんぽーん

インターフォンと同時に着信。

電話

通話終了

通話
00:00

電話

今タクシーなんだけど、ちょっと渋滞してて、10分くらい遅れそう。

インターフォン

やっほー。ちょっと早く来ちゃった。外、雪だよ!さむーい!

なに?この状況。

思考が一瞬ストップする。

ちょっと、ねえサンタさん?!

確かに僕は

彼女が欲しいってお願いしましたが!!

一人でいいんです、一人で!

二人もいらないんです!

……って

そういえば、さっき

10分で到着するって、言ってなかったか?

10分後には、確実に修羅場が展開されるってことだよな?

保険をかけた僕も悪かったかも知れませんが

サンタさん!

僕はこんなクリスマス、望んでませんよっ。

ぴんぽーん

もう一度、インターフォンが鳴った。

インターフォン

ねえ、ちょっとリョウ君!?あたしの他に女を呼んだの?

画面に映る女の子を見て、僕は戦慄を覚えた。

三人目だ。

居留守を使えば、この状況を脱することができるかも知れない。

だが

今日を逃せば

彼女ができるチャンスは二度と巡ってこないだろう。

マンションのエントランスで

女の子が三人も鉢合わせたなんてウワサになったら

来年のクリスマスは絶望的だ。

確実に。

インターフォン

ちょっとリョウ君?どういうことか、説明して

電話

リョウ君、マンション着いたよ。

電話

なんか。女の子がケンカしてて、ピンポンできないんだけど

神様、仏様、ご先祖様。

サンタなんかに頼った僕がオロカでした。

神様。どうか

この状況を丸く納める方法を

教えてください。

オーブンレンジが

♪やーけまーしたー♪

と軽やかに歌う。

そして

着信。

電話

通話終了

通話
00:00

電話

リョウ君?俺。

電話

どうせ今年のクリスマスもボッチだと思ってさ

電話

誘いに来た。今、マンションの下

電話からは

聞き慣れた同僚の声がした。

その声に、ふっと緊張が解ける。

ヤツとは中学から職場まで、ずっと一緒に歩んできた仲だ。

電話

エントランスでケンカしてる女の子たちは

電話

リョウ君の関係者?

サンタさんに意地悪されてるんだよ

電話

素直じゃないなぁ

電話

リョウ君が助けてって可愛くお願いしてくれれば

電話

俺が何とかしてやろうか?

僕は電話を耳に当てたまま

ぐるぐるとビーフシチューをかき混ぜた。

……

答えられずにいると、電話の向こう側で低く笑った気配がした。

電話

まあいいよ

……

電話

そのかわり

電話

リョウ君がウキウキで準備してるクリスマスディナーは、俺がもらうけど

電話

OK?

僕に選択の余地はない。

僕は息をひそめて

インターフォンの画面越しに同僚の姿を見つめる。

涼しげな目元、笑っているように上がった口角。

文句なしのイケメン

だもんなぁ

どんな魔法を使ったのか

さっきまで、いがみ合っていた女の子たちは

楽しそうな笑みを浮かべて

僕の画面からフェードアウトしていった。

考えてみれば8年前のあの秋。

僕のファーストキスを奪ったのも

ヤツだった。

進路が別れるなんて

大嘘つきやがって

結局今でも、同じ職場にいるじゃないか。

そして、ハッと気付く。

クリスマスのディナーに

ロマンチックな間接照明が照らす部屋。

一人暮らしという名の密室。

ヤツは小一時間もすれば戻ってくるだろう。

8年前に奪われたファーストキス。

僕は途方に暮れる。

ひとつ難を逃れたけれど

さて、これからどうしよう

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