イガラシ
イマナリ、こんな話を知っているか?

イマナリ
何?

イガラシ
日本の犯罪における殺人罪のおおよそ半分が、専属殺人――いわゆる、家族間での殺人だ。

イガラシ
家族ってのは、どこの誰よりも共有する時間が長い。家族なんだから当然だ。

イマナリ
先生、そんなことを言って時間を稼ごうなんて無駄だよ。

イマナリ
これが最終問題なんでしょ?

イマナリ
だったら、早く答えてよ。

イガラシ
イマナリ、今のままなら俺はお前の問題に【2】とは答えない。

イマナリ
は?

イマナリ
何を言ってるの?

イマナリ
それをするってことは、どうなるか分かってるの?

イマナリ
こいつを殺すことになるんだよ?

イマナリはそう言うと、カッターナイフを母親の首元に突きつける。
イガラシ
あぁ、だが殺すのは俺達じゃない。

イガラシ
お前だ。

イガラシ
――本当にいいんだな?

イガラシ
お前は自分の母親を殺すことになるんだぞ。

イシカワ
ちょっと、これ以上刺激をしないほうがいい。

フワ
そうですよ。

フワ
しかも、問題もサービス問題じゃないですか。

フワ
みんなで揃って【2】って答えましょうよ。

イマナリ
だから、口裏を合わせるのはやめて欲しいな。

イガラシ
イマナリ、お前はトリガーが欲しいだけなんだよ。

イガラシ
誰かのせいにして、カッターナイフで首を掻っ切ろうとしているだけなんだ。

イガラシ
でも、実際にやるのはお前であって、俺は罪の意識なんて抱かない。

イマナリ
――なんだと?

イガラシ
当たり前だろ?

イガラシ
お前が言い出したルールなんだ。

イガラシ
俺が問題を間違えて、結果的にお前の母親が死んでしまっても、殺したのはお前だ。

フワ
ちょ、ちょっと――言い過ぎですよ。

イマナリ
そ、そうだ。

イマナリ
俺を刺激したって良いことなんてないからな!

イガラシ
本当にそう思っているなら、やってみろよ。

イガラシ
俺は【2】以外の答えを出す。

イガラシ
仮に他の2人が正解できても、残る刃は3段階。

イガラシ
人を殺すには充分だろ?

イマナリの母親
……や、やめて。

イマナリの母親
お願い。

イマナリの母親
この子を人殺しにはしたくない。

イガラシ
――だってさ。

イシカワ
イガラシ、急にどうしたんだよ?

イシカワ
お前らしくない。

イガラシ
イマナリ、俺は分かってんだよ。

イガラシ
お前は軽微な犯罪をすることで、親を犯罪者の親に仕立てあげようとした。

イガラシ
だから、ネットを使ってナポレオンとなり、年頃の生徒達を誘導した。

イガラシ
思春期の子どもなんて、学校や親、社会に少なからず不満を抱いているものだ。

イガラシ
だから、お前の主張に賛同する者が出てきた。

イガラシ
きっと、お前が思っていた以上に事態が大きくなってしまって、引っ込みがつかなくなったんだ。

イマナリ
そんなことはない――そんなことは。

イガラシ
おいおい、否定するなよ。

イガラシ
お前の目的は分かってるんだ。

イガラシ
お前に母親は殺せない。

イガラシ
最初から殺す気なんてないんだよ。

イガラシ
だから、もう一度だけ確認するぞ。

イガラシ
このままだと、俺は【2】以外の答えを出す。

イガラシ
本当にそれでいいんだな?

イマナリの呼吸が荒くなっているのは、すでにイガラシも気づいていた。
イマナリ
ば、馬鹿にするなよ――。

イガラシ
できないことを偉そうに宣うな!

イガラシ
言葉には責任が生じる、行動にはルールが伴う!

イガラシ
お前はルールを守れるのか?

イガラシ
俺達の誰かが解答を誤ったら、母親を殺すというルールを。

イガラシ
守れるのか?

イマナリ
――うるさい、うるさい、うるさい!

イガラシ
どうせ、そいつは脅しだろ?

イガラシ
やれるもんならやってみろよ。

イガラシ
ほら、母親じゃなくて俺を刺してみろって。

イマナリ
ば、馬鹿にするなよ。

イマナリ
馬鹿にするなぁぁぁぁぁぁ!

激昂したイマナリは母親から離れると、まだ刃が出たままのカッターナイフを握ってイガラシの懐に飛び込む。
イシカワ
危ない!

フワ
イガラシ先生!

イマナリのカッターナイフは、イガラシの腹部を確実に捉えた。