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夜の学校。
昼間は生徒達が行き交い、少しうるさいくらいに感じるのであるが、夜になると嘘であったかのように静まり返る。
簡単だし、一晩のうちに巡回が数度あるだけだから――そんな理由で始めた学校の警備員は、しかし元より怖がりな彼には、いささか荷が重かった。
河合
彼――こと河合秋斗(かわい あきと)は、自分に言い聞かせるかのごとく呟いた。
今日はベテランの先輩と組んでいるのだが、基本的に巡回は一人仕事。
とにもかくにも、お化け屋敷のような校内を見て回るのは、精神的によろしくなかった。
河合
あえて声に出すのは、少しでも恐怖心を和らげたいからだ。
校内は異常なし。
後は学校の周囲を見て回り、何事もなければ事務所に帰還できる。
ここまで徹底するのは珍しいらしいが、警備の仕事が人生初の河合からすれば、これが当たり前だった。
グラウンドも異常なし。
そのまま校舎にそってぐるりと一周すれば巡回も終わりだ。
最終的に正面玄関の施錠を確認し、裏口から警備員室へと戻ればいい。
河合
指差し確認をすると、念のために辺りを確認する。
正面玄関の脇には、用務員が外仕事をする際に使用する道具などを収納する小屋がある。
河合
そこで河合は奇妙なものを見た。
正確には見た気がした。
このまま何事もなかったかのごとく事務所に戻ってもいい。
玄関の施錠は確認できたのだし、警備員としての仕事はした。
しかしながら、気になった方面へと懐中電灯の明かりを向けたのは、警備員としての責任感よりも、河合自身の好奇心が勝ったからであろう。
河合
思わず情けない声が出た。
闇夜にはりつけられた、真っ黒なもの。
それは普段から、なぜか忌み嫌われてしまっている存在。
小さい頃に見た、昆虫の標本であるかのごとく、矢尻らしきものがついた太い針で、小屋に磔(はりつけ)にされているそれは――。
河合
磔にされていたのは一羽のカラスだった。
何本もの針……いや、恐らくボウガンか何かしらの矢で小屋に固定されたカラスからは、ぽたり、またぽたりと血がしたたる。
何よりも河合が不気味に思ったのは、そのカラスの隣に描き殴られたメッセージだった。
ピンク色の蛍光塗料で殴り書きにされたであろうメッセージ。
河合
人間というものは、真に恐怖を感じた時、声など出ないものだ。
気味の悪いメッセージと、無惨にも殺されてしまったカラスの亡骸。
河合はかすれた呼吸を繰り返しながら、詰め所へと駆け出したのであった。
これが後に連続的に発生する【惨殺アイちゃん】事件の発端だとも知らずに。
気分は最高だった。
興奮も冷めやらぬ内にカラオケに寄り、1人で歌を歌った。
本当は良くないことだが、制服姿のままでだ。
受付をした店員の、あの驚いたような視線が面白かった。
この日は休みだから、このままどこか買い物に出てやろうかとも思ったが、さすがに眠かった。
だから、大人しくバスに乗って帰ることにする。
背負っているバッグの中にはボウガン一式が入っていた。
もちろん、このご時世だから、ボウガンの所持は禁止されている。
しかし、ふとしたことで祖父の家に行った際、物置の奥で埃を被ったボウガンを見つけてしまったのだ。
それを見た瞬間、さまざまな衝動が込み上げた。
――ボウガンでカラスを射抜く気分は最高だった。
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カラスをボウガンで射抜いた後、それだけでは味気ないから、玄関脇の小屋に磔にしてやった。
そして、メッセージを残した。
あまりにもとっさで、そして思い付きだったから、思わず【惨殺アイちゃん】なんて名乗ってしまったが、自分の名前に含まれているから、気に入っている。
本名の中にも【アイ】という文字は含まれているわけだから、自己アピールもできるし、我ながら悪くないネーミングだと思う。
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殺人衝動を胸に秘めている――なんて素振りは見せずにバスを降りると、自宅まで徒歩で向かう。
自宅に戻るとシャワーを浴びる。
オールをした後だというのに、気分が高揚していたせいか、眠気はどこかへ吹き飛んでいた。
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洗面所で下着姿のまま、自分の体型をチェックする。
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ダイエットを心に誓いつつ鏡を見ると、そこに映る表情は笑顔に満ちていた。
とても楽しい趣味を見つけてしまった。
――この衝動は抑えられない。
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心の中でも呟くが、まだアイちゃんは知らない。
その学校には、物品の【いわく】から事件を紐解いてしまう、古物商の店主が通っているということを――。