アメリア様
私たちの命は儚く軽いのです。なるべくしてそうなっているのです。
…私がもし、今日、はたまた明日、死んでしまったとしても
あなたは誰も、恨んではいけません。
アメリア
…じゃあ、私が話したらお前も話せよ?
テヘル
え、何を
アメリア
さっきの続き
アメリア
お前のアイザックに対する考えが…私はよく分からん
テヘル
あー、そういう…
テヘル
………んー、まぁ、うん、分かったよ。
アメリア
ん
アメリア
…はぁ〜………
アメリア
これをお前に話すことになるとは思わなかったよ
テヘル
む、なんだよひでぇな
アメリア
…テヘルとは、違うからな、私は。
アメリア
初めはただ殺しが…楽しくて仕方なかったんだ。
ネラ
こら、アメリア様っ!
アメリア
きゃはっ♪
アメリア
…でも
アメリア
もう、今は分かんないんだ
アメリア
私が好きだったのは、殺しだったのか…
アメリア
燃ーえろよ燃えろ〜♪
アメリア
ゴオゴオ燃えろ〜っ
アメリア
(ふふ…今日も、完璧だって言ってくれるかな。)
アメリア
(褒めてもらえるかなぁ。)
アメリア
…ただ、ネラに褒めてもらうことだったのか
テヘル
ネラ?
アメリア
私の召使みたいなもんだよ
アメリア
親は確か偉い人だった。そこそこ伝統ある血筋だってネラが言ってたよ
アメリア
でも私は出来が良くなかったから大切にはされていなかった
アメリア
でもネラだけは、ずっと私の味方だった
アメリア
…それからは
アメリア
殺し屋だったネラに、仕事を教えてもらってた。…生きるために
アメリア
ネラは私を褒めてくれる。たった1人、私に優しい言葉をくれる
アメリア
私はそんな言葉が何より幸福をもたらしてくれると知り…
テヘル
それで…殺しを好きになったのか
アメリア
ああ
テヘル
…ふーん、そっか
テヘル
それで今は?
アメリア
さっきも言ったけど…よく、分からないんだ
アメリア
それで殺しをやめてたんだ、王命が来るまでは
テヘル
王命を受けた理由は?
アメリア
…ネラは
アメリア
ちょっと、テヘルみたいだったんだ
テヘル
?
アメリア
殺しをするときはするけどさ
アメリア
…根本には、自分の意志がちゃんとあって…命の価値を、ちゃんと見ていた
アメリア
…いや、なんの罪滅ぼしにもならないけどさ
アメリア
それでもネラは、いい殺し屋だったんだ。
アメリア
騙したり嘘をついたりはしないし、真っ当に生きた者は殺さなかった
アメリア
…私は殺したけど。
テヘル
…
アメリア
そういうの全部、ネラが死んでから気づいちまって
アメリア
怖くなって殺せなくなって…でも、あの王の依頼を受けたとき
アメリア
真っ先にネラが浮かんだ。ネラならこれは、やるって。
アメリア
でもネラが死んでから私は…楽しいなんて思えたことがなかったのに
アメリア
…今は少し…メラたちといるのが楽しいと思ってしまって
アメリア
だからずっと、怖いんだ…それも。
テヘル
大切なら大切にすりゃいーじゃん
アメリア
違うよ…テヘル、誰もがお前のような心を持っているわけじゃない。
アメリア
お前がもし誰かを殺す日が来ればわかるよ
アメリア
「人の命に手をかける限り、私たちは死を受容しなければならない」
アメリア
…ネラはいつもそんなことを言っていた
アメリア
私がもし自分がメラたちを殺さなければならなくなっても
アメリア
誰かがいきなり殺されても
アメリア
…私は涙一つ流しちゃ駄目だと、思ってる。
テヘル
そんな───
アメリア
だから
アメリア
…ある程度の線引きは、しなきゃなんないって…思うんだけどなぁ…。
テヘル
………できなくて、今困ってるのか
アメリア
ま、そゆとこ
テヘル
…そっか
テヘル
アメリアは今、ただ殺しをしたいとかじゃないんだな
アメリア
ちょっとは怖くなくなったか?
テヘル
…まぁ。
アメリア
で、お前は何が怖くて…アイクに何を感じてる
テヘル
…誰でもいいから命を奪いたくて、それを平気でできるのが怖い
テヘル
特にアイクみたいな、何考えてるかわかんねえときがあるやつって
アメリア
私はいつも分からんけどな
テヘル
情を感じるのかも分かんねえし
テヘル
いつ、矛先が俺に向くかわからねえだろ
アメリア
!
アメリア
お前…そんなところに頭回ってたのか
テヘル
はぁ?バカにしてる?
アメリア
いや…でも、盲目なのかと思ってた
テヘル
…そこは、否定できねえよ
テヘル
俺はもう、大事になっちまってるから。
テヘル
アイクにもし裏切られても、俺はアイツには手を出せない。
テヘル
考えてることとか、心の底の理念、理性とか、そういう"ソイツの理屈"が分からないのは怖いよ
テヘル
そういうの、アイツが初めてだから
テヘル
…まあ、だから、おもしろいんだけど。
アメリア
理屈?
テヘル
アイクはきっと今はまだ、殺していい人を"選んでる"。
テヘル
理由を"探して"殺してる。俺に、世話とか面倒見てもらって楽に生きるために。
テヘル
だけど…本当にいつか、アイツが見境なく殺しをやる可能性を、俺はどうして否定できる?
テヘル
俺が大切にしてきたアイツは…俺のことをなんだと思ってる?
テヘル
俺が今、まだアイツといる意味ってなんだ?
テヘル
…って、思うと、なんか…
テヘルの言葉はそこで途絶える
アメリア
(…ああ、そうか、そうだよな)
アメリア
(それでも一緒にいたいから…どうしていいか分かんないんだ)
アメリア
(自分の怖いものなのに、相手にも大切にされてなんてないかもしれないのに)
アメリア
(それでも一緒にいたいと思ってしまうから…苦しいんだ)
アメリア
(…そしてそれがいつか未来)
アメリア
(アイザックが本当に自分の嫌悪するものになってしまったとき)
アメリア
(この問題と向かい合わなくちゃならなくなることを…恐れている。)