獅子頭連・"オリ" 前。
心地よい風とともに、 遠くからかすかに 風鈴の音が聞こえる。
照りつける太陽。
滲む汗。
十亀 条
獅子頭連 副頭取・十亀 条は、 呑気にそんなことを考える。
十亀 条
この辺でいいかなぁ
ドカッ、と大きな音をたてて その手から下ろされたのは、 クーラーボックスである。
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーB
このでっかい
クーラーボックス…
十亀 条
十亀 条
十亀 条
獅子頭連メンバーA
って、めちゃくちゃ
ありますね…
十亀 条
昨日銭湯の人がさ、
皆で飲んでって言って
オレにくれたんだぁ。
獅子頭連メンバーB
十亀 条
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーB
十亀 条
銭湯の人たちに、だよ
獅子頭連メンバーA
…今度またあそこの
銭湯行くか!
獅子頭連メンバーB
うんうん、と 十亀はゆっくり頷く。
獅子頭連メンバーB
行きます
十亀 条
十亀の振った手が下りる頃には、 二人は見えなくなっていた。
ラムネをもらった二人は、 呑み屋だらけの道を歩いていく。
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーA
柔らかくなったよな
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーA
ねぇからな??
こう、言葉?態度?
っつーか…分かるか?
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーA
そりゃ強いもんは
強かったけどよ…
獅子頭連メンバーB
なさそうだったよな
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーA
しなかったなって
思わねぇ?
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーB
獅子頭連メンバーB
獅子頭連、楽しいよ
獅子頭連メンバーA
獅子頭連メンバーA
“前” の獅子頭連。
あの時は、己の『皮』が いつ剥がされるか分からない、 そんな恐怖がいつもそばにいた。
弱肉強食、という言葉が よく似合う。
恐怖により縺れた四肢は、 あらぬ方向へと進みはじめた。
しかし…
二人が去ってから間もなくして、 客は訪れた。
犬上 照臣
十亀 条
十亀 条
犬上 照臣
こんなとこに
しゃがみこんで
どうしたんすか?
十亀 条
ラムネ売ってんのぉ
よいしょ、と十亀は腰を起こす。
十亀 条
犬上 照臣
あざーす!!
ラムネを受け取った犬上は、 力いっぱい栓の部分を 捻りはじめた。
十亀 条
犬上 照臣
犬上 照臣
十亀 条
十亀 条
半ば呆れつつ、十亀は ラムネを受け取り開栓した。
ポン、と心地よい音がする。
犬上 照臣
そうやるんすね!
犬上 照臣
スマートっす!!
十亀 条
分かんないけどね…
はい、どーぞぉ
犬上 照臣
十亀 条
十亀 条
あけようとする人、
いるんだなぁ…)
近い未来もう一人見ることに なるのを、この時の十亀は まだ知らない。
犬上 照臣
十亀さん十亀さん、
ビッグニュースっす!
十亀 条
犬上 照臣
十亀 条
犬上 照臣
犬上 照臣
甘党らしいっす…!
十亀 条
初耳だ。
しかし何ともコメントしづらい ビッグニュースである。
十亀 条
聞いたの?
犬上 照臣
犬上 照臣
ケーキ屋行くのを
見たんすよ
犬上 照臣
十亀 条
犬上 照臣
皆には秘密だって
どやされました!
十亀 条
十亀 条
いいやつなの…?
犬上 照臣
どうやら今気づいたようだ。
犬上 照臣
隠すんすかね??
犬上 照臣
もらえるかもしんない
じゃないすか!だから
皆に知ってもらってた
ほうがいいなーって
思うっすよオレは!!
犬上 照臣
誕生日は12月の
2日っす!!
十亀 条
犬上 照臣
教えてくれたんす!
よほどしつこく聞いたのだろう。
まぁ佐狐の後輩には そのくらい図太いやつが 必要だよね、と十亀は苦笑する。
犬上 照臣
佐狐さんに甘いの
買ってみようと
思ってたんすよ!
十亀 条
犬上 照臣
オレ行きます!
犬上 照臣
うまかったです!
走り出しながら手を振り、 犬上は颯爽と姿を消した。
とりあえず、佐狐の誕生日には 甘いものを買おう。
ぼんやりとそんなことを考え、 十亀は再びしゃがみこんだ。
1時間くらい経っただろうか。
“オリ” の落書きをぼーっと 見つめていた十亀のもとに、 今度は二人の客が訪れる。
有馬 雪成
鹿沼 稔
十亀 条
鹿沼じゃん
十亀 条
一本どうぞぉ
有馬 雪成
鹿沼 稔
二人は同時にポン、と音をたてて ラムネをあけた。
有馬 雪成
鹿沼 稔
気がするよ
十亀 条
喜んでもらえて
何よりだよぉ
有馬 雪成
好きだもんな
有馬 雪成
あるといいんじゃね?
鹿沼 稔
ジュースとか?
十亀 条
冷やしておくよぉ
鹿沼 稔
有馬 雪成
今日も銭湯で将棋
相手してくんねぇ?
十亀 条
負けないけど
有馬 雪成
鹿沼 稔
楽しいの?
十亀 条
鹿沼にも今日
教えようか?
鹿沼 稔
それなら、やってみよ
有馬 雪成
お前は弱いと思うぞ笑
鹿沼 稔
絶対見返してやる…
鹿沼 稔
有馬より強くなる
から!
十亀 条
じゃあスパルタで
教えちゃおうかなぁ
有馬 雪成
ぜってー怖えぞ、
いいのかぁ鹿沼?
鹿沼 稔
よろしく、十亀!
十亀 条
あとでね〜
有馬 雪成
鹿沼 稔
タタタタタ…
有馬と鹿沼が去ってすぐ、 その足音は聞こえた。
佐狐 浩太
佐狐 浩太
十亀 条
十亀 条
息切らして
十亀 条
たくさん荷物抱えて…
佐狐 浩太
でしたか…!?
十亀 条
佐狐 浩太
十亀 条
十亀 条
ここでラムネ飲んでた
けど…なんで?
佐狐 浩太
佐狐 浩太
変なこと言ってません
でしたか…?
十亀 条
こととか一一一
佐狐 浩太
佐狐 浩太
それはですね…
十亀 条
けど、それそんな
恥ずかしがることじゃ
ないと思うよ〜?
佐狐 浩太
しれないですけど…
佐狐 浩太
そう言って佐狐は持っていた荷物を 十亀の目の前に突き出した。
十亀 条
十亀 条
佐狐 浩太
スイーツが好き、って
ことを周りのやつらに
言いふらしてて
佐狐 浩太
オレにくれた、
やつです…
十亀 条
そういうことかぁ
佐狐 浩太
です…!
佐狐 浩太
面倒くさいんですよ…
十亀 条
佐狐もラムネいる?
佐狐 浩太
十亀 条
佐狐 浩太
佐狐 浩太
十亀 条
佐狐 浩太
どうあけるんですか
十亀 条
佐狐 浩太
十亀は佐狐から受け取ったラムネを 犬上曰く「スマートに」開栓した。
十亀 条
知らないやつ多いねぇ
佐狐 浩太
佐狐が首を傾げる。
十亀 条
十亀 条
捻ってあけようとして…
佐狐 浩太
佐狐 浩太
すみません十亀さん
オレ行きますね
佐狐 浩太
ございました
そう言い残して、佐狐は再び 走っていった。
十亀 条
あげなよ〜…って、
もう聞こえないか…
日が沈み始めている。
十亀 条
店じまいかなぁ
滲んだ汗を腕で拭い、 十亀はそう思った…
そのところに。
ダダダダダ…
先程の佐狐よりも力強いが、 どこか軽やかな足音が聞こえた。
十亀 条
十亀の予想通り、少し遠くの方に 獅子頭連 頭取・兎耳山 丁子が 走っているのが見えた。
十亀 条
兎耳山 丁子
兎耳山も十亀に気がついたようだ。
こちらに走ってくる。
そのまま話しかけてくる、 と思いきや。
軽快な足取りで、ぴょん、と 十亀の背後を取った。
十亀 条
兎耳山 丁子
十亀 条
兎耳山 丁子
だいせいかーい!
十亀 条
来た人はしないよ?
兎耳山 丁子
思ったのに…
十亀 条
ラムネいる?
兎耳山 丁子
ありがとー!
兎耳山はもらってすぐ ポン!と大きな音を立てて ラムネを開栓した。
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
瓶だよね!
十亀 条
兎耳山 丁子
ここにいたの?
さりさりさり…
十亀 条
ラムネ売ってた
十亀 条
ず〜っといたよぉ
十亀 条
店じまいかなぁ、って
思ってたところ
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
オレもやりたい!!
さりさりさり…
十亀 条
明日もやろうかなぁ
十亀 条
他のも飲みたいって
言われたしぃ
兎耳山 丁子
甘いのも売る!?
さりさりさり…
十亀 条
帰り、一緒に買い出し
行こうかぁ
兎耳山 丁子
さりさりさり…
十亀 条
十亀 条
やってるの?
兎耳山 丁子
さりさりさり…
兎耳山はラムネを飲み干してから ずっと、十亀の襟足部分を 触っていた。
十亀 条
兎耳山 丁子
十亀 条
十亀 条
かゆいかなぁ
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
十亀 条
そう言いながら、 十亀は自分の襟足部分に触れる。
風鈴とのタイマン後、 髪を切った。
縛るものは、もう何も無いから。
兎耳山 丁子
すごい似合ってるよ!
十亀 条
兎耳山 丁子
十亀 条
兎耳山 丁子
十亀 条
ちょーじ待って!という十亀の 引きとめも虚しく、兎耳山は 消えていった。
兎耳山 丁子
ハサミを持った兎耳山が ぴょん、と跳んでくる。
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
そう言いつつ、兎耳山は 慣れない手つきで自分の頭に 刃を向ける。
十亀 条
オレがやる、やるから
ちょっとやめて!!
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
十亀 条
危なっかしいよ…
十亀 条
ほら、こっち来て
兎耳山 丁子
兎耳山がまたぴょん、と 跳んで十亀の前に来る。
十亀 条
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
楽しそうに笑いながら、 兎耳山は十亀に背を向けた。
十亀 条
やったことないからね
十亀 条
難しいよ?
兎耳山 丁子
でもオレも切る!
十亀 条
十亀は、手入れされていない 兎耳山の髪の毛に刃を入れた。
チョキ、チョキ…
十亀 条
切りたい、って
思ったの?
兎耳山 丁子
話しかけられた兎耳山は、 振り向こうとする。
十亀 条
じっとしててよぉ
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
十亀 条
髪の毛切りたいの?
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
亀ちゃんがオレに
言ってたじゃん
兎耳山 丁子
一緒だよ!
十亀 条
十亀 条
縛るものは、もう何も無いから。
十亀 条
そうだよねぇ
兎耳山 丁子
十亀 条
感じかな?
兎耳山の襟足部分の髪の毛を 切り終えた十亀は言った。
兎耳山は、自分の襟足部分に 手を伸ばす。
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
十亀 条
兎耳山 丁子
兎耳山 丁子
変わった気がする!
十亀 条
なかったから、
そんなに変化は
ないけど…
兎耳山 丁子
だってオレ…
兎耳山 丁子
髪型じゃない?
“前” 。
間違いを犯す、“前” 。
獅子頭連が腐る、“前” 。
兎耳山の髪の毛が 伸びていく間に、
何枚も、仲間の『皮』を剥いだ。
四肢は縺れていった。
十亀 条
しかし。
兎耳山 丁子
思うんだ!
頭は、前を向いている。
四肢は、正常に動き始めている。
十亀 条
十亀 条
獅子はまた、歩き出した。
『力の絶対信仰』のもとに。
十亀 条
これ片付けたら一緒に
銭湯行く?
兎耳山 丁子