暗黒街某所にて、長い鎖が頭上を蛇のようにうねり、先に付いている鉄の塊が真っ暗な”世界”で見えもしない相手に致命傷を与える男がいた。
ドガァン!
桜木 壱茶
桜木 壱茶
その男の名は桜木壱茶(いっさ)。 全盲であるが、エコーロケーションで周囲の物の距離や密度を把握することができることで、”逆戟”(さかまた)という異名を持つ、分銅鎖を扱う”IBUKI”所属の殺し屋だ。
桜木 壱茶
敵を倒しながら文句を言う壱茶。その少し離れた所にいるのは、一見細く見える身体で二刀流の大きめの刀を豪快に振り回すのは黄色の羽織をはばたかせる度に包帯を巻いた細い腰をチラつかせる、少し女顔な男。
狼石 悟郎
狼石 悟郎
名は狼石(みだいし)悟郎。 あどけなさが残る顔立ちや天然な性格とは裏腹に、老人口調で喋る侍のような見た目をしている。”IBUKI”所属前は ある組織の暗殺を目の当たりにした康一を容赦なく殺しに追い回した、根っからの ”裏の世界”の人間である。
そして、二重人格を理由に ”狼男”の異名を持っている。
ヤクザ達
ヤクザ達
狼石 悟郎
桜木 壱茶
ため息混じりに言う悟郎に壱茶はからかうように言った。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
コッ コッ !
すると壱茶はリズムを打つようにローファーの踵で床を鳴らした。
分銅鎖を振り回すこの体勢を維持しままま耳をすまし、集中する。そして敵との距離と人数をはかる。
(11時の方向に1人、2時の方向に2人…いや、3人か)
(距離は大体4mか… 真後ろでもっと離れてるのは悟郎くんか)
(派手にやってやがるなぁ!)
ジャラァ!
ドゴッ!ドゴッ!
ドゴォン!!
壱茶は敵の位置を把握した直後、分銅鎖を力いっぱい振りかざし なぎ倒した。
ヤクザ達
ヤクザ達
ヤクザ達
ヤクザ達
ヤクザ達
ヤクザ達
ザシュザシュ ザシュッ!!
パニックになり始めるが、それは油断に過ぎない。残党達はその隙に悟郎によって首を切り落とされた。
狼石 悟郎
狼石 悟郎
悟郎は敵を斬り捨てながら、疑義の念を抱いていた。いつか朱音のBARを訪れた際に出会った全盲の同僚。(※第10話『逆戟』参照)
ヤクザ達
ヤクザ達
ヤクザ達
ザシュッ!
狼石 悟郎
狼石 悟郎
悟郎の正体に勘づいたその男は悟郎に耳を傾かせることもなく首と体がお別れになった。
ヤクザ達
すると背後から3人、敵が各々の武器を振り上げて飛びかかった。
狼石 悟郎
狼石 悟郎
悟郎はすぐに振り向き、二刀の刀を構え体勢を整えようとする……が、
ブチンッ!
狼石 悟郎
タイミングが悪いことに、突然 悟郎が履いている下駄の片方の鼻緒が切れてしまい、バランスを崩しかけた。
狼石 悟郎
ゴッ!
その時だった。まだ少し息がある敵が巻かれた鎖が、悟郎の目の前にいる敵を巻き込むように飛んできた。
ブォン!
狼石 悟郎
ドガッドガッ!
ガシャーン!!
そして壱茶を中心に、己の腕力と遠心力と利用して、周りにある物や人にはお構いなく、円を書くように敵ごと鎖を振り回した。
悟郎は運が良かったのか悪いのか、鼻緒が切れてバランスを崩したことで、背中から倒れたついでにギリギリ避けることができた。が、実際は頭を少し掠った。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
むくりと起き上がって反発する悟郎に軽い口調で謝った。
桜木 壱茶
〜商店街〜
帰り道。処理班に任務完了の連絡をした後、悟郎と壱茶は任務に行く道中にとおった商店街を歩いていた。この商店街は犯罪係数日本一で危険と言われている暗黒街で、最も栄えており人も多い場所だ。今日もここだけは賑わっている。
桜木 壱茶
狼石 悟郎
狼石 悟郎
白杖を持って歩く壱茶の誘いを申し訳なさそうに断った。切れた鼻緒は羽織を千切って直したから、普通に歩けている。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
壱茶は悟郎の刺青を思い出して言った。
悟郎には、両方の肩と二の腕にかけて、蔓を巻いたような刺青が彫られていた。これは悟郎が生まれ育った山吹村の村長及び後継者の象徴で、彼が10歳の頃に彫られたものだった。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
狼石 悟郎
悟郎は目を丸めて言った。
桜木 壱茶
※第11話『狼男の変身』参照※
桜木 壱茶
狼石 悟郎
桜木 壱茶
狼石 悟郎
悟郎は愛想笑いをして言った後、目を見開いて言った。その表情には嬉しさも含まれており、目も輝いていた。
桜木 壱茶
狼石 悟郎
桜木 壱茶
桜木 壱茶
狼石 悟郎
壱茶は左の手袋を半分まで外して見せた。何をしたらそうなったのか、腕どころか手までが火傷で赤くなっていた。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
狼石 悟郎
狼石 悟郎
悟郎は口元と繋がって包帯が巻かれた首に手を添えた。刺青で銭湯に入れないとは言ったが、本当はそれだけじゃない。壱茶と同じように、隠したい傷があって入れない。そのような事を脳裏に浮かべた。そして、”それら”の傷が痛んだ。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
女子高生達
狼石 悟郎
気付いたら壱茶が悟郎から少し離れたところで女子高生2人にナンパしていた。
女子高生たちはナンパする壱茶に引きながら立ち去った。無理もない。こんな胡散臭い格好をした身長180cmのでかい男がナンパしてくると普通に怖い。
女子高生達
女子高生達
桜木 壱茶
桜木 壱茶
耳が人一倍良い壱茶は、去っていた女子高生の会話が聞こえ、今ナンパした相手が未成年だったことに気づいた。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
桜木 壱茶
逆になんでだと疑問に思っているような口ぶりでそう答えた。しかし確かに先程の女子高生は本当に可愛かった。実際に美女に弱い悟郎が目を逸らしていた。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
しかし、先程の壱茶のナンパには流石に悟郎も引いていた。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
壱茶は女子高生の言葉を 思い出して言った。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
しばらく歩いて商店街から通り抜けた所まで来た。一気に人の気配が無くなったことで、壱茶は商店街を通り抜けた事と、ここで悟郎と別れる事を察した。
桜木 壱茶
狼石 悟郎
すると壱茶は、何かを察知したかのように立ち止まった。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
狼石 悟郎
少し黙り込んでからそう呟いた壱茶に、悟郎は首を傾げた。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
壱茶は遠くを見つめるような素振りで言った。何かを感じるらしいが、全く分からない。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
狼石 悟郎
この犯罪がとにかく多い暗黒街、もちろん通り魔も多い。特にこの時間帯にはもっと多く、商店街以外で一般人が出歩くことが少ない。
桜木 壱茶
桜木 壱茶
狼石 悟郎
狼石 悟郎
桜木 壱茶
桜木 壱茶
壱茶は背を向けたまま、 悟郎に手を振って立ち去った。
狼石 悟郎
桜木 壱茶
壱茶と別れてしばらくした。悟郎は誰も通らない路地裏を通っていた。
狼石 悟郎
狼石 悟郎
???
???
狼石 悟郎
すると突然、背後から男の声がした。
狼石 悟郎
???
???
狼石 悟郎
悟郎は振り向かず、警戒して尋ねた。
???
???
ゾワッ
狼石 悟郎
狼石 悟郎
”妙な気配”の意味がわかった。しかしそれは何か少し馴染みのあるものだった。悟郎は警戒心が高まり、いつでも仕込んでいる二刀流の刀を出せる心構えをした。そして何故か鼓動が早くなった。
しかしなんじゃ?この胸騒ぎは…… なぜこんなに平然といられないかがわからなかった。嫌な思い出を思い出す時のあの感覚に近かった。
???
???
???
ドクンッ!!
狼石 悟郎
その言葉で心臓が止まるぐらいに大きく高鳴り、思わず振り向いた。目の矢先には和服姿の男。浪人笠で顔が見えない。
その姿を見る前に悟郎は青ざめていた。 そうか、”妙な気配”……か、”同族”だから気付かなかった。今あるこの感情は 恐怖か、驚愕か、いや……それとも、
罪悪感、か
???
???
「”若殿”」
狼石 悟郎
狼石 悟郎
1週間後
百峰 桃音
ここは”IBUKI”本部の暗殺部室。 談話室のような会議室のような部屋で桃音はソファに座って、さっきコンビニで買った赤いパックの紅茶を飲んでいた。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
さっき暗殺部室に入ってきた相棒の凜々愛がスマホを片手に言った。
百峰 桃音
百峰 桃音
神楽 凜々愛
凜々愛はそう言って携帯の画面を見せた。LINEのトーク画面だ。確かに凜々愛が送るメッセージの吹き出しがいくつも並べられていた。
百峰 桃音
百峰 桃音
桃音はパックの紅茶をテーブルに置いた後、ソファにもたれかかって首を傾げた。凜々愛の表情を見るとかなり心配そうに見えた。無理もない。生まれが同じである幼馴染みが急に連絡がつかなくなるとそりゃ不安になるだろう。
百峰 桃音
神楽 凜々愛
百峰 桃音
トゥルルルルル📞
百峰 桃音
すると暗殺部室の端に置いてある電話機が鳴った。この組織本部だけで繋がれているもので、他の部か店長からの連絡だと察した。桃音は立ち上がり、電話機の方へ歩いた。
ガチャッ
百峰 桃音
百峰 桃音
百峰 桃音
百峰 桃音
百峰 桃音
百峰 桃音
カチャン
百峰 桃音
電話を切った後、桃音は凜々愛に声をかけた。店長からの連絡だった。
百峰 桃音
神楽 凜々愛
凜々愛は何か考え込んでいるのか、黙っているだけで返事はしない。
神楽 凜々愛
百峰 桃音
ようやく口を開いたが、それは桃音にとって1番凜々愛の聞きたくない言葉だった。もはや予知能力なのか、彼女の勘はやたら的確に当たるので、この一言で毎度こっちまで不安になりがちだ。
百峰 桃音
桃音は凜々愛の手を引いて 暗殺部室を出た。
〜店長室〜
百峰 桃音
店長
桃音と凜々愛の前にいるのはデスクに座った血のような赤髪に片目だけ出したスカルマスクの男、”IBUKI”の店長だ。
店長
店長
店長は凜々愛の方を見て言った。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
店長
店長
百峰 桃音
凜々愛と店長の会話に首を傾げる桃音。なんの話しなのか全くわならない。
店長
店長
そう言いながら店長は任務についての資料を置いた。その資料には……
百峰 桃音
神楽 凜々愛
行き先が山吹村で、標的が山吹族数人とその他数十人が書かれていた。
山吹村とは、悟郎と凜々愛、そして今は亡き彼女の双子の弟 璃玖斗が生まれ育った、この暗黒街から少し離れた田舎を山を1つ越えた場所に位置する政府非公認の村。村自体が暗殺組織になっていおり、無論 村人は全員殺し屋で、そこで生まれた者は殺し屋になるのが掟。この村は都市伝説として扱われて、表社会には存在すら知られていない。
また、山吹村の殺し屋を裏社会では”山吹族”と呼ばれている。裏社会から見ると戦闘民族のようなものだからだ。
百峰 桃音
店長
百峰 桃音
神楽 凜々愛
桃音は凜々愛の顔を見て言ったが、黙ったままだった。
神楽 凜々愛
すると凜々愛がようやく口を開いた。
百峰 桃音
その言葉で納得した。抗争や逮捕などによって崩壊した組織に偶然1人か2人が生き残り、その残党が人を集めて再結成して新しい組織ができる事例も、暗黒街では当たり前のようにある。
店長
店長
神楽 凜々愛
店長の独り言に、凜々愛が驚愕した。
店長
店長
「復讐かもしれません」
百峰 桃音
店長はデスクに肘をついて言った。 残党の再結成して新しい組織を作り上げる理由は様々だが、最もよく聞くのは崩壊に陥れた者への復讐だ。
神楽 凜々愛
百峰 桃音
凜々愛はますます青ざめていた。桃音も嫌な予感しかしていないが、勘がいい凜々愛が口にするとこっちが怖くなってくる。 いや、それより……
百峰 桃音
桃音は店長がまるで知ったかのような口振りに違和感を感じた。
店長
店長
右目しか見えないから表情は見えないが、店長は微笑んで言った。
神楽 凜々愛
神楽 凜々愛
店長
店長
神楽 凜々愛
キョトンとした顔になる凜々愛。この子最近やたら正体がバレがちだな。
店長
何を当たり前なことを聞くんだとばかりの表情で言う店長。凜々愛もあっそうだったと言ってるような表情をした。
店長
百峰 桃音
店長
店長は気持ちを切り替えて言った。
百峰 桃音
百峰 桃音
店長
店長
「「了解!」」
本来ならば山吹族2人ではずだった任務。
しかし一週間で変わった。
音信不通になった理由は?
あの時、路地裏で 何があった?
あの浪人笠をかぶった 和服姿の男は一体?
壱茶が言う”妙な気配”とは?
山吹村が崩壊した理由は?
そして悟郎の行方は?
『暗黒街の銃声』 〜山吹村編〜 開幕!!
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