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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

〜”IBUKI”本部 連絡通路〜

百峰 桃音

あと2人…

百峰 桃音

誰がええかなぁ

桃音と凜々愛は店長室を出た後、店長からの勧めで武器管理部へ向かう地下の連絡通路を歩きながら、任務に同行する2人を誰にするかを考えていた。

ここまでのあらすじ。 凜々愛は悟郎と2人の任務についての話がしたかったが、ここ一週間悟郎とは音信不通になったため、店長の命令により、桃音と他2名で行くことになった。

そして、一週間前に悟郎が路地裏で何者かと出くわしたことに、この時彼女たちに知る由もなかった。

神楽 凜々愛

……瑠花

百峰 桃音

え?

すると店長室を出てから一言も喋っていない、不安そうな表情をした凜々愛が呟いた。

神楽 凜々愛

……瑠花、連れてってあげると、いいかな

神楽 凜々愛

……あの子、この前のカルト教団の任務で、全然役に立ってなかったって、落ち込んでたから

いつものゆっくりとした口調で言う凜々愛。確かに前章のカルト教団編での瑠花は、 早くも敵に捕まり、拷問されただけで唯一殺したのは”教祖”の影武者だけだった。

百峰 桃音

全然頑張ったと思うでウチは〜?

百峰 桃音

まぁ確かに気にしてそうやな

桃音は、あの時の瑠花を思いだしながら言った。何故か凹んでる瑠花しか思い出せない。

神楽 凜々愛

……今日、恵留いるかな?

百峰 桃音

恵留?

少し沈黙を挟んでから凜々愛は言った。恵留は武器管理部の武器職人で凜々愛と同い年の男勝りな女だ。

百峰 桃音

さぁ〜?

百峰 桃音

行ってみなわからんな

神楽 凜々愛

……それと、桃音も銃以外の武器、持っておいた方が、いいかも

百峰 桃音

?なんでなん?

神楽 凜々愛

……念の為

百峰 桃音

わかった…?

真剣な顔で言う凜々愛。行ったらわかるって言ってるような表情だった。

〜武器管理部室〜

百峰 桃音

邪魔すんで〜!

天照 恵留

邪魔するんだったら帰れ!

百峰 桃音

はいよ〜(踵を返す)

百峰 桃音

………

百峰 桃音

いや誰が帰るか!(振り返る)

神楽 凜々愛

……???

モブ武器職人

何してんすか あんたら

早乙女 瑠花

え〜何それー?笑

武器管理部室に入る時、たぶん関西人しか分からないであろうローカルネタをしたら思いのほか恵留が乗ってくれた。横にいた凜々愛の頭の中は?マークだらけだった。元ネタを知らない武器職人に関しては呆れていた。

百峰 桃音

あ、瑠花!

神楽 凜々愛

……ちょうどいい時に、いた

恵留がカウンターで武器を磨いていた向かいに紫のバンダナと赤い目をしたボッキュッボンナイスバディの外見が特徴のサイコパス殺人鬼の瑠花がいた。

百峰 桃音

ていうか恵留なんで
吉●新喜劇知ってんねん

天照 恵留

姉御から聞いた

百峰 桃音

姉御って?

天照 恵留

お前の姉ちゃんだよ
ほらバーテンダーの

百峰 桃音

アンタ知らん間にお姉ちゃんと知り合ってたん!?

早乙女 瑠花

アタシがBARに誘ったの!

天照 恵留

マジで桃子と顔そっくりだったぜ

百峰 桃音

桃音な?ウチ

神楽 凜々愛

……桃音、それより…

百峰 桃音

あぁ!そうやった!

凜々愛が口を開いてハッとした。そうだ。こんなしょうもない事してる場合じゃなかった。

天照 恵留

そうだ お前ら
何しに来たんだよ

天照 恵留

話の脱線がすげぇぞ
まだなんも話してねぇけど

神楽 凜々愛

……武器の強化

神楽 凜々愛

……店長からの勧めで

凜々愛から説明した。描写は無かったが桃音たちは店長室を出る前に、店長から武器管理部の恵留に武器を強化してもらいに行く方がいいと言われたのだ。

天照 恵留

あ?店長のとっつぁんが?

((((とっつぁん!??))))

モブ武器職人

(姉貴あの人のこと とっつぁんとか言ってるのか!?)

ここにいる皆が衝撃を受けた。恵留は人の名前を覚えるのがとにかく苦手だからか、勝手にあだ名をつけがちなのだ。

例えば大輝だったら 情報屋or情報屋の旦那、 凜々愛だったらリリー 壱茶だったらシャチor盲目の旦那 悟郎だったら侍くん……など

そして店長はとっつぁんだそう。ちなみにこれは流石に本人の前では言わない。

百峰 桃音

そうやねん

モブ武器職人

(いやツッコまねぇのか!?)

百峰 桃音

山吹族ってのは知ってる?

天照 恵留

知ってるも何も…

「うちのお得意様だったぜ」

その一言で再び室内を驚愕させた。恵留の実家である天照武器商店は裏社会の武器職人のトップが集う一流の武器商店だ。恵留がこの武器管理部で最も腕がいいのも納得がいく。

百峰 桃音

そうなん!?

神楽 凜々愛

……うん

神楽 凜々愛

……天照さんにはいつも、お世話になってた

桃音が目を丸めると、その隣で部屋の壁に掛けられた武器や職人が使う道具を眺めていた凜々愛が静かに口を開いた。

天照 恵留

”お世話になってた”だぁ?

天照 恵留

……

天照 恵留

…なぁ、まさかと思うけどよぉ

凜々愛の一言にひっかかり、しばらく沈黙を挟んでから疑うように言った。

天照 恵留

リリーお前、山吹族か!!?

大声で言った。

早乙女 瑠花

山吹族〜?何それ?

百峰 桃音

瑠花知らんの?

早乙女 瑠花

うーん…

早乙女 瑠花

なんだっけ?

首を傾げる瑠花。かつて様々な組を潰してきたヤクザ界のキングとも呼ばれた”早乙女組”の娘なら聞いた事があるかもしれないが、家族を奪われたせいで人生の大半を復讐のために生きていたから多少世間知らずな所があるため、知っててもうろ覚え程度かもしれない。

百峰 桃音

凜々愛と悟郎が生まれ育った殺し屋の村や

早乙女 瑠花

あ!知ってる!

早乙女 瑠花

”裏社会の戦闘民族”でしょ!

桃音が簡単に説明した後、 瑠花はあぁそうだと思い出して言った。

百峰 桃音

知ってたんや

早乙女 瑠花

もちろん!

天照 恵留

なぁ、まさかだと思うが…

天照 恵留

山吹族が標的なのか?

百峰 桃音

これや

首を傾げる恵留に桃音は店長から貰った資料を渡して見せた。恵留は受け取って目を通した。

天照 恵留

…………

天照 恵留

なぁ、アタイの記憶が正しかったらよぉ

しばらく黙って読み込んだ後、 恵留は顔を上げた。

天照 恵留

山吹村ってアタイが高校の時にスケバンしてた頃に崩壊したんだよな?

百峰 桃音

アンタのスケバン事情は
知らんけど、多分せやな

神楽 凜々愛

(……スケバン…昭和みたい)

天照 恵留

つーか、コイツらほんとに山吹族なのか?例えばこの辺、絶対違ぇツラだろ

恵留は資料の顔写真に指をさして言った。まるで最新の映画やドラマのキャストをチェックしているようだった。推している俳優がいなくて萎える時のように、少し不満げそうだ。

天照 恵留

あ、そういや侍くんは?

天照 恵留

アイツ最近全然見てねぇぞ?

百峰 桃音

あぁ、それが…

百峰 桃音

ここ一週間連絡が着かへんらしいわ

天照 恵留

あぁ!?

早乙女 瑠花

え、マジ!?

瑠花と恵留は目を丸めた。すぐそこにいるモブ武器職人もこちらを向いた。

天照 恵留

いや…それより、どういう事だ?

天照 恵留

7年前に崩壊した山吹族がなんで今更?

天照 恵留

…ちょっと待て、そういや
侍くんの苗字って………

恵留は凜々愛の方を見た。

百峰 桃音

狼石(みだいし) や

代わりに桃音が答えた。

天照 恵留

だよな?てことは…

神楽 凜々愛

……悟郎、村長の孫だよ

モブ武器職人

ふあぁ!!?

頷いて言った凜々愛の方を、 モブ武器職人が向いた。

天照 恵留

マジかよ…

百峰 桃音

本来なら悟郎と凜々愛の2人で行くはずやったんやけどな、ウチと凜々愛とあと2人で行くことになってん

天照 恵留

一週間…?

天照 恵留

そういや、二週間前にウチに山吹族みたいなやつから依頼に来たな。

天照 恵留

確か…和服着てたな

恵留はふと思い出して言った。ウチとは実家である天照武器商店のことだ。恵留は一人暮らしをしている桃音たちとは違って、この物語で唯一実家で家族と住んでいる。その訳は”家族”がいるのと、 ”家族”全員が過保護だからだ。

神楽 凜々愛

……!悟郎と連絡とれなくなった日から、さらに一週間前…!

恵留の言葉にハッとした凜々愛はいつもより少し大きめの声で言った。

天照 恵留

じゃあなんだ?

天照 恵留

侍くんはいねぇわ、
なんかそれっぽい奴が
ウチに来るわ……

天照 恵留

んでもって崩壊はずの
山吹族が標的ってこたぁ……

察した恵留。彼女も裏社会で生きた者だ。ここまで来たらもはや裏社会の一般常識かもしれない。

天照 恵留

コイツら残党による再結成か

百峰 桃音

そゆこと

神楽 凜々愛

……この任務、悟郎と関係があるかも

凜々愛は恵留を真っ直ぐ見つめて言った。恵留もその眼差しを見て確信した。

天照 恵留

なるほど…納得したぜ

天照 恵留

よし、武器よこせ
速攻強化してやる

百峰 桃音

頼むで

神楽 凜々愛

……お願い!

桃音達は各々の武器を恵留に渡した。

早乙女 瑠花

ふーん…まさか かの有名な
”裏社会の戦闘民族”相手かぁ

桃音たちの会話を静かに聞いていた瑠花は、口角を上げて言った。

百峰 桃音

瑠花も同行やで(強制)

早乙女 瑠花

やったー!

早乙女 瑠花

今回は捕まらずにやるからね!

百峰 桃音

(やっぱ気にしてたんや…)

神楽 凜々愛

(……意外と、繊細)

瑠花は飛び跳ねて喜んで言った。やはり前回のカルト教団の件を気にしていた。

神楽 凜々愛

……これで、3人

天照 恵留

じゃあ残り1人は…

「この自分が行くぜぇ」

すると鍛冶場の入口から男の声がした。そこにいるのは大正ロマンを思い浮かばせる服装に丸いレンズのサングラス、白杖を持った男。

百峰 桃音

壱茶!

早乙女 瑠花

いたんだ!

桜木 壱茶

おう、話は聞かせて貰ったぜぇ

壱茶の手には煙管があった。恐らく待っている間に吸っていたのだろう。

百峰 桃音

盗み聞きかい

桜木 壱茶

へっへ、耳が良すぎるもんでなぁ

百峰 桃音

でもまぁ話が早いからええわ

桃音は呆れながら言った。

桜木 壱茶

ちょうど一週間前に自分、悟郎くんと任務言ってたんだぁ

百峰 桃音

!そうなん!?

神楽 凜々愛

……壱茶って、単独のみだよね?

桜木 壱茶

店長の判断だよぉ

不思議そうな顔をする桃音と凜々愛。しかし最後に悟郎と会っていた人が任務に同行だと何か掴めるかもしれない。

天照 恵留

怪力娘と盲目の旦那がいりゃ何とかなんだろう

天照 恵留

ゴリラ2人いたら心強ぇだろ

恵留はせっせと準備をしながら言った。

早乙女 瑠花

ちょっと誰がゴリラよ!

百峰 桃音

いやアンタの馬鹿力は
ゴリラ越してるから

天照 恵留

それと赤ジャケ、
ついでに靴貸せ

赤ジャケ(赤いジャケット)は 桃音のことだ。

百峰 桃音

なんでや?

天照 恵留

このブーツ、仕込みナイフか仕込み銃にしてやるよ。どっちがいいかい?

百峰 桃音

いやええわ!
これお気に入り!

天照 恵留

なんだよ、初期のお前は仕込みナイフあったじゃねーか

百峰 桃音

その時期アンタまだおらんやろ!!

天照 恵留

じゃあ前にX(旧Twitter)で主の相互が言ってた仕込み銃か?

百峰 桃音

その頃はアンタおったな

早乙女 瑠花

超メタ発言じゃん笑

※2020年版の桃音は マジで仕込みナイフあった※

天照 恵留

ほらよ、完成だ

しばらくして、武器の強化が終わった。

百峰 桃音

うん…
おおきに…

神楽 凜々愛

……ありがとう

桜木 壱茶

おぉ!こいつぁ上等だなぁ!

各々が武器を受け取った。桃音は銃を回して構えてみたり、凜々愛は少し距離を置いてから軽く振ってみる、壱茶は目の前で鎖を両手で引き合った。

天照 恵留

それと怪力娘は…まぁ大丈夫とは思うが一応これ持っとけ

すると恵留は短刀を瑠花に渡した。 鍔の付いていない護身用の物だ。

早乙女 瑠花

あ、ドスじゃん!

百峰 桃音

ドスって言い方…

桜木 壱茶

へっへ、さっすがヤクザの姫だぜぇ

天照 恵留

お前の怪力に耐えられるようにできるだけ頑丈にしたぜ

天照 恵留

その分ちっとばかし重ぇけど、お前にとっちゃ軽いもんだろ?

早乙女 瑠花

うん!いつも2kgの鉛入った
グローブ付けてるから平気!

百峰 桃音

え?それって両方で2kg?

早乙女 瑠花

ううん?片方で2kg!

百峰 桃音

やっぱり…

神楽 凜々愛

……前に言ってたね、それ

※第4話『殺戮の悪魔』参照※

早乙女 瑠花

ちなみにこの指のやつはメリケンサックになってるの!

百峰 桃音

それメリケンサックやったん!?

瑠花はグローブに付いた指輪を見せて言った。片方2kgの鉛は手首の部分に付いているらしい。つまり計4kg。

天照 恵留

やっぱゴリラじゃねぇか

百峰 桃音

アンタが言うな
マウンテン・メスゴリラ…

早乙女 瑠花

それに!アタシ生まれて
初めてエモノ持ったわ!

恵留が呟いた後、瑠花は短刀を手に取って目を輝かせていた。

百峰 桃音

初めて?

早乙女 瑠花

うん!アタシ昔からエモノとか持たせてもらったことなかったんだ

瑠花が短刀を握りながら言う姿を見ると、少し恐ろしく思えた。聞くところ瑠花は両親の怪力の遺伝子と幼少期からのプロの格闘家による鍛錬で化け物並の とんでもない怪力に育ったらしい。彼女が武器を持つなと言われた理由がわかる。鬼に金棒かもしれない…

百峰 桃音

(早乙女組の組長も
確信したんやろな…)

神楽 凜々愛

(……すごい嬉しそう)

早乙女 瑠花

いぇーい!
恵留サイコー!
ありがと!

瑠花は飛び跳ねて恵留に礼を言った。 子供のように無邪気な笑顔だった。

天照 恵留

いいってことよ

神楽 凜々愛

……じゃあ、ボク達行くね

百峰 桃音

い、行こか…

桃音達は任務へ行こうと、武器管理部室の出入口の方へ歩いた。

天照 恵留

おい待て!

百峰 桃音

!なんや?

すると恵留が呼び止め、桃音達は立ち止まり振り返った。

天照 恵留

再結成とは言えど、
相手は山吹族だ

天照 恵留

…気をつけろ。
馬鹿みてぇに強ぇらしいぜ

恵留は真剣な顔で言った。 かつて山吹族とは契約していた天照武器商店、そしてその娘である彼女はかなり言い聞かせれていたはず。だからこそ、そう言えるから説得力がすごい。

百峰 桃音

…大丈夫大丈夫

百峰 桃音

こっちには”本物”の山吹族がおるからな

桃音は凜々愛に目を向けて余裕そうな口調で言ったが、その表情からは覚悟を決めたことが見えた。

天照 恵留

そうか

天照 恵留

健闘を祈るぞ

百峰 桃音

うん

そして桃音たちは武器管理部室を出た。

……凜々愛を先頭に。

天照 恵留

……

天照 恵留

…死ぬなよ、お前ら

~商店街~

百峰 桃音

アンタら結構人多いとこ通ったんやな

昼間の商店街。桃音たちは任務に行く前に、悟郎の行方を追うために、何か手がかりになるような物を探すことにした。夜ほどは賑わっていないが、それでもこの時間帯は人はそこそこいる。

桜木 壱茶

こっちの方が近道だったからよぉ

桜木 壱茶

確かあの時……

桜木 壱茶

途中まで悟郎くんと
帰ってたんだよなぁ

桜木 壱茶

ここ通ってな

長い商店街を歩く桃音たち。おそらく誰もが経験したであろう、店を出たらどっちから来たか、左右どっちが目的地の方面なのか分からなくなるあの現象がおこりそうだった。

百峰 桃音

ふーん

早乙女 瑠花

てゆーかココ、この前サツ狙ってた時の商店街じゃん!

※第13話 『警視庁公安部暗黒街課』参照※

※愛美と沙友理が通ってたのと 同じ商店街です※

百峰 桃音

あ~、そういえば

神楽 凜々愛

……あの時、ボク達 路地裏通ってた

神楽 凜々愛

(……!路地裏?)

すると凜々愛は何かに引っかかったように、ふと思い出した。

神楽 凜々愛

……ねぇ、壱茶

神楽 凜々愛

……悟郎とは、どこで別れたの?

桜木 壱茶

あぁ、そいつぁ…

桜木 壱茶

この辺りだぁ

凜々愛の問いに答える時、ちょうど商店街を抜けた。1週間前、壱茶が悟郎と最後に会話した場所に着いた。

神楽 凜々愛

……ちょうど、着いた

百峰 桃音

んで、こっから悟郎が
どこ向かったか覚えてるん?

桃音は隣に立っている自分と身長差がある壱茶を見上げて尋ねた。

桜木 壱茶

自分は真っ直ぐこっちに行ったからよぉ

桜木 壱茶

たぶん悟郎くんはあっちに
行ったんだと思うぜぇ?

壱茶は自分が行った方の道と悟郎が行ったと思われる方の道を白杖で指して言った。どうでもいいが、人が少ないからいいけど白杖を振り回すなお前。

早乙女 瑠花

あのさー、

早乙女 瑠花

誰か悟郎の家行ったことある?

すると瑠花が口を開いた。山吹族という標的を前にするのが待ち遠しのか、すごいニコニコしている。彼女は常に口角が上がっているが、今の彼女は嬉しいという感情が見えた。

桜木 壱茶

あぁ~、ねぇな

百峰 桃音

ウチも

神楽 凜々愛

……ない

全員なかった。幼馴染みである凜々愛でも悟郎の家に行ったことがないのは少し意外だったことは、他3人も思った。

桜木 壱茶

…そういやぁ、

桜木 壱茶

あの時、一瞬だけ”妙な気配”
感じたんだよなぁ?

百峰 桃音

”妙な気配”?

早乙女 瑠花

何それ?

壱茶が見渡すような素振りをして言うと桃音と瑠花が首を傾げた。

桜木 壱茶

なんかこう…

桜木 壱茶

誰か居そうで…
居ないような感じのぉ…

百峰 桃音

ごめん全っ然わからへん

しどろもどろに言う壱茶。桃音と瑠花にはさっぱりわからなかった。凜々愛はただ冷静に聞いているだけ。

桜木 壱茶

上手く言えねぇよぉ
こんなもん

桜木 壱茶

なんでか分からねぇが桃音ちゃん達みたいに”そこに居る”って確信できねぇんだよ

神楽 凜々愛

……!

百峰 桃音

幽霊かなんかそれ…?

百峰 桃音

…って あれ?凜々愛は?

ふと凜々愛がいた方を見ると、彼女の姿がなかった。キョロキョロと見渡すと路地裏へ入る凜々愛の後ろ姿を見つけた。

百峰 桃音

どこ行くねん?

桜木 壱茶

悟郎くんもそうなんだけどよぉ

桜木 壱茶

凜々愛ちゃんも気配消すの上手すぎて分かりずれぇんだよなぁ

壱茶は凜々愛について行くように、 路地裏の方へ歩きながらそう呟いた。

百峰 桃音

え…?

百峰 桃音

壱茶、今なんてゆーた?

すると桃音は何かに引っかかったかのような反応をして訪ねた。先程の凜々愛のようだった。

桜木 壱茶

?いや、だからぁ…

桜木 壱茶

気配消すの上手すぎて
分かりずれぇって……

百峰 桃音

それや!

桃音は壱茶と瑠花を追い抜いて 路地裏へ駆け出した。

桜木 壱茶

あぁ…(察し)

~路地裏~

入った路地裏の奥を進んでいき、ついに誰も通らないような、昼間なのに薄暗い不気味な所まできた。するとそこに、凜々愛の後ろ姿が見えた。

百峰 桃音

凜々愛!ここにおったn…

百峰 桃音

っ!?

早乙女 瑠花

!?

桜木 壱茶

…!

凜々愛に声をかけようとしたが、 その光景に息を呑んだ。

百峰 桃音

何これ…?殺人現場?

目に映るのは豪快に壊された周りに置かれていた物の数々、傷つき凹んだ壁や地面。それだけじゃない、壁に染み付いた黒くなって、べっとりと付いた大量の血が付いていた。手形の血が荒れ果てたこの空間により恐怖を感じさせた。

まさに殺人現場そのものだった。

百峰 桃音

(´・-・`)ジッ…

早乙女 瑠花

いや!アタシじゃないよ!

百峰 桃音

…り、凜々愛?

凜々愛は壁の方を向いて俯いていた。桃音は心配そうに駆け寄った。

神楽 凜々愛

……こ、これ…

凜々愛の目線の先には赤黒く汚れた 片方の下駄だった。

百峰 桃音

これって…悟郎の下駄ちゃうん?

百峰 桃音

てか…え、血?

神楽 凜々愛

……し、しかも…
鼻緒が切れてる

その下駄の鼻緒は見覚えのある黄色い布を代わりとして結ばれていたが、 それも千切れていた。

桜木 壱茶

鼻緒…

桜木 壱茶

そういや悟郎くん、あの時の任務で鼻緒が切れてたなぁ

壱茶は煙管に火をつけながら、 その時を思い出して言った。

鼻緒が切れることは不吉なことが起きる”ジンクス”であるのは凜々愛はもちろん、ここにいる皆が知っていた。さらに任務の時にブチンと切れて、そしてここにある補強した鼻緒もまた切れている。

桜木 壱茶

(2連続で鼻緒が切れることあんのか?)

桜木 壱茶

(すげぇ嫌な予感がするぜぇ…)

早乙女 瑠花

ねぇ!これって…!

瑠花が駆け寄って言った。その手に持っている物は真っ黒な画面がバキバキに 割れたスマホだった。

神楽 凜々愛

……!これ、悟郎の!

凜々愛は瑠花からスマホを奪い取って言った。壊れて電源が付かないスマホを 持つその手が震えていた。

百峰 桃音

悟郎やっぱ携帯落としたんやな

桜木 壱茶

通り魔っていうレベル
じゃあなさそうだなぁ

百峰 桃音

通り魔?

桜木 壱茶

先週悟郎くんと別れる時よぉ、さっきの通りで通り魔の話してたんだよぉ

桜木 壱茶

妙な気配感じたし、この辺じゃ通り魔も普通にいるから用心しろって言ったんだ

壱茶は遠くを見るように言った後、 煙管を吸って吐いた。

桜木 壱茶

何せよぉ、聞くところ悟郎くんって女顔らしいしよぉ

早乙女 瑠花

うーん、確かに可愛い顔してるけど!

百峰 桃音

そもそも悟郎が通り魔に
負けるわけないやろ

百峰 桃音

なんならここにおる全員が
返り討ちにしたるやろ

桃音は苦笑いをして言った。確かに、仮に通り魔がここにいる全員を襲いかかるとどうなる?早撃ちで頭に風穴開けられるか、頭と身体がお別れするか、見るにもおぞましい姿にされるか、分銅で強打もしくは鎖で絞められるかだ。

桜木 壱茶

あ、そういやぁ悟郎くん自分で通り魔に は殺られないって言ってたなぁ

百峰 桃音

めっちゃ死亡フラグやん

早乙女 瑠花

それにしても、
ここで何があったの?

早乙女 瑠花

狭い場所で派手に
殺り合ったのかな?

瑠花が辺りを見渡して言った。瑠花にとってはいつもの殺戮と書いて”お楽しみ”と読むことそのものだが、自分ではなく、仲間と関係があるであろう、この酷い有様を見て緊張感が増した。

百峰 桃音

うん…

百峰 桃音

っていうか悟郎もなんでわざわざこんな変なとこ通ったんや!?

百峰 桃音

方向音痴やからか!?

桃音は少し声を上げて言った。

神楽 凜々愛

……いや、悟郎方向音痴だけど、山吹村や自分の家に行く道は、絶対に間違えない。

神楽 凜々愛

……あと、本部も

桃音に反応した凜々愛は静かに言った。

百峰 桃音

さすがにそこは覚えてるんや…

神楽 凜々愛

……でも、たまに迷子になる

百峰 桃音

やっぱアカンやんけ!

早乙女 瑠花

ね~…

早乙女 瑠花

どっちにしろコレって
超ヤバいんじゃない?

瑠花が壁の血痕を見ながら言った。

百峰 桃音

せやな…

百峰 桃音

これやったん多分、
山吹族なんやろな

百峰 桃音

壱茶が言う”妙な気配”って、たぶん山吹族特有のやつやろ?

桜木 壱茶

あぁ、間違いねぇ

桜木 壱茶

今思うとあの時感じた気配、悟郎くんや凜々愛ちゃんのと似ているぜぇ

百峰 桃音

百峰 桃音

それとこの切れ端も…

壱茶に続いて桃音がそこに落ちていた布の切れ端を拾って見せて言った。

神楽 凜々愛

……!この生地、和服だ

凜々愛が桃音からその切れ端を震えた手で取って言った。

百峰 桃音

…そういや、恵留ゆーてたな

「そういや、二週間前にウチに山吹族みたいなやつから依頼に来たな。 確か…和服着てたな」

桃音は数十分前の恵留の言葉を思い出して言った。壱茶曰くの”妙な気配”と この血のついていない和服の切れ端、 手がかりはこれで揃った。

百峰 桃音

うん、間違いなく山吹族やな

早乙女 瑠花

悟郎も頑張って反撃はしたのかな

早乙女 瑠花

じゃあ…悟郎ここで…

「殺された…とか?」

百峰 桃音

なっ…!

桜木 壱茶

!!

神楽 凜々愛

……っ!!

瑠花の言葉に背筋が凍った。この陽の光も少ない場所でこの有様から、彼がどれだけ酷いことをされたかがわかる。

百峰 桃音

じゃあ…この手形は……

百峰 桃音

悟郎の?

桃音は手形の血痕を見て言った。そこには手形から下へずり落ちた痕もあった。

百峰 桃音

残党による再結成…

百峰 桃音

やっぱり店長が言うてた
通り、復讐のため?

神楽 凜々愛

………

百峰 桃音

考え込む桃音は、俯いた凜々愛の暗い表情を見てハッとした。

百峰 桃音

いやでも!

百峰 桃音

悟郎は言うても村長の孫なんやったら、ただの村人に負けるわけないやろ!

百峰 桃音

なぁ!凜々愛!

神楽 凜々愛

………

桃音が気を使ってフォローするように慌てた口調で言うが凜々愛は黙ったまま。

桜木 壱茶

けどこれだけは言えるぜぇ

桜木 壱茶

こいつぁ思ったより
厄介かもしんねぇなぁ

壱茶は煙管を吸って、煙をふぅと吐き出してからそう言った。

桜木 壱茶

なんなら悟郎くん、無事かどうかも怪しいぜぇ?この有様だと

桜木 壱茶

自分にゃ見えねぇが
そんな気がするぜぇ

百峰 桃音

うーん…

百峰 桃音

結構重傷なんかもしれへんな

早乙女 瑠花

でも1週間も経ったんだよ?

早乙女 瑠花

もう手遅れになってんじゃ……

神楽 凜々愛

……いや!悟郎は生きてる!

不吉な予感がする中、 凜々愛が1人顔を上げて言った。

百峰 桃音

!?

神楽 凜々愛

……大丈夫、悟郎は
この程度じゃ死なない

神楽 凜々愛

……ボクが1番、
分かってるから!

凜々愛は自分の信念を貫くような 真っ直ぐな眼差しで言った。

百峰 桃音

この程度…て

百峰 桃音

流石にこれは死ぬやろ

神楽 凜々愛

……悟郎って、
意外と頑丈だよ

百峰 桃音

頑丈…

ドカーン…!

百峰 桃音

………

桜木 壱茶

………

”頑丈”と聞いて桃音と壱茶は、いつかの任務の記憶が、敵の手榴弾の爆発音と共に脳裏に浮かんだ。

百峰 桃音

そういや悟郎、前に手榴弾間近で食らっても死ねへんかったな

桜木 壱茶

確かに気絶だけで
済んでたなぁ

早乙女 瑠花

え、そうなの?

※第11話『狼男の変身』参照※

神楽 凜々愛

……でも、この手形はたぶん悟郎だね

百峰 桃音

そこは否定せーへんのか

凜々愛は手形の血痕を見て言った。 てかなんで分かるんだよ。

桜木 壱茶

まぁこれで…

桜木 壱茶

ただ殺すだけじゃ
済まなくなったなぁ…

壱茶が煙管を握り締め、威圧感のある 低いトーンでそう呟いた。

百峰 桃音

せやな…

百峰 桃音

こんでハッキリしたわ

ここにいる皆が同じ思いだった。 いつもなら仕事として標的をただ殺すだけだった。でも今回は違う。

悟郎をこんな目にあわせた奴が今回の標的である。そしてきっと悟郎がどこにいるのかも知っているはず。

これはただの抹殺だけではない。 悟郎の安否確認及び救出だ。そして……

早乙女 瑠花

悟郎の仇…

早乙女 瑠花

ただ殺すだけで済ませないわね!

瑠花がや(殺)る気に満ちた笑顔で、両手で拳を握りしめて言った。

百峰 桃音

せやけど勝手に殺すなや

神楽 凜々愛

……悟郎の死は、
無駄にしない!

百峰 桃音

さっきまで死んでへんって
言うてたアンタが言うな!

百峰 桃音

アンタほんまに悟郎が
生きてるって信じてるん!?

〜東京都某所〜

桃音たちは悟郎の仇討ち…

百峰 桃音

ん''んっ!(咳)

ではなく、任務を遂行すべく山吹村周辺まで来た。ここは暗黒街から少し離れた田舎を山を1つ越えた所だ。

百峰 桃音

すんごいとこに来たな

早乙女 瑠花

ほんっとね〜

早乙女 瑠花

学校とかどうしてたの?

当たりを見渡す桃音の横で瑠花が尋ねた。暗黒街からここに来るまで、先程の商店街のすぐ側にあった駅で電車に乗り、さらにバスで山を越えた。

神楽 凜々愛

……さっきの田舎の学校に、行ってた

凜々愛は思い出しながら答えた。確かに先程の山を越える前の田舎には小、中、高校があり、店がちらほらあった。 そして、山添には霊園があった。

百峰 桃音

あ〜、やっぱ地元か

早乙女 瑠花

悟郎も通ってたの?

神楽 凜々愛

……ううん

神楽 凜々愛

……通ってたのはボクと
璃玖斗と、他の村人だけ

神楽 凜々愛

……悟郎は、村長の家の子だから、村からは出ず、本拠地で教育を受けてた

凜々愛の言葉に、桃音たちは彼女と悟郎が同じ地元生まれで山吹族、それに加え幼馴染みなのに、なぜ感性が違っているのか、ついでに悟郎が方向音痴だという理由が何となくわかった気がした。

百峰 桃音

そんであの現代社会と離れた感性か

桜木 壱茶

へっへ、”都市伝説の中で
生きた男”だなぁこりゃ

百峰 桃音

なんやソレ

神楽 凜々愛

……まぁ、ほぼ虐待だったけど

百峰 桃音

…!

凜々愛の呟きに全員が息を呑んだ。次期村長のプレッシャーや村で最も強くならなくてはならないからこそ、No.2の家の子である凜々愛や他の村人とは違って、厳しくされていたのだろう。裏の世界で生きているからこそ、桃音たちはこういう事に理解が追いついた。

早乙女 瑠花

そっかー…

早乙女 瑠花

ねぇ!アレが本拠地?

瑠花がこの重くなった空気を切り替えようと、明るい声で指をさして言った。その先には古い城らしき建物が木々の間から覗かせていた。

神楽 凜々愛

……いや、違う

神楽 凜々愛

……村は、あっち

凜々愛は指をさす瑠花の手を前の方に 向けさせながら言った。その矢先を見ると錆びたスライドゲートが見えた。

早乙女 瑠花

あれ…入口?

神楽 凜々愛

……そう

神楽 凜々愛

……村が崩壊してから、ゲートで立ち入り禁止にされたんだと思う

百峰 桃音

前はあのゲートなかったん?

神楽 凜々愛

……うん。村の崩壊は、メディアでは山火事ということにして、隠蔽された

百峰 桃音

なんで崩壊したん?

神楽 凜々愛

…………

神楽 凜々愛

……実は、

神楽 凜々愛

ーーーーーーー

凜々愛は村の崩壊の理由を話した。

百峰 桃音

え…っ

神楽 凜々愛

……村人以外が入るのは、
桃音たちが初めてかも

桃音たちはゲートの前まで来た。腐敗した鉄の門扉に鎖と南京錠が掛けられ、同じくらいに錆びた「立ち入り禁止」と書かれた看板が倒れていた。

百峰 桃音

せやろな

百峰 桃音

てかこんな近くまで
来て大丈夫なん?

桃音は声を少し小さくして言った。

神楽 凜々愛

……大丈夫。さすがに気づけない

桜木 壱茶

桃音ちゃん村人を野生動物か何かと間違えてねぇかぁ?

早乙女 瑠花

それ壱茶が一番言っちゃダメ

次回『入村』

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