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どこもかしこも砂糖菓子で出来ているような、白とピンクにあふれた部屋の中。
つばき
姿見の前では、スマートフォンからの無機質なシャッター音が、不規則になり続けていた。
つばき
カシャ!
つばき
カシャ!
自撮りの写真は、続々と機体のストレージを圧迫していく。
それを気にもせず、自撮りに夢中な少女、つばきはうっとりとした笑顔を浮かべていた。
つばき
つばき
つばき
カシャ! カシャ!
こうして10分程度は、カメラとにらめっこをしただろうか。
スマートフォンの表示時刻が、夕方の5時を静かに知らせると、つばきは我に返った。
つばき
つばき
つばき
つばき
つばきはスマートフォンを置いて、衣装箪笥から部屋着を引っ張り出した。
白いシフォンスカートを、黒のスウェットパンツへ履き替える。 袖にリボンが編み込まれた、ピンクのセーターは脱ぎ捨てて、意味のわからない英字が並ぶグレーのTシャツを頭から被る。
そうして鏡に映るのは、すっかり無彩色に身を包んだ、あどけなさが残る少女であった。
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
写真加工アプリを開いたまま、つばきはセラーノベルのアプリを開く。
本来は小説投稿サイトであるはずのそこには、ずらりと雑談のタグが付けられた投稿が並ぶ。
彼女もまた負けじと、 #雑談 #実写 の2つのタグを付けて、投稿物の新規作成画面へと進むのであった。
つばきが自撮りを終えてから、数十分後。
セラーノベルにおける彼女のアカウント、『二ツ森(ふたつもり)メリー』の雑談投稿ページに、新作が投稿された。
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
当然、アップロードされた写真は、先程何枚と撮って加工した、例の自撮りである。
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
二ツ森メリー
勢いよく吹き出す水のように、コメントが続々と彼女の投稿に寄せられていく。
それに充足感を得たつばきは、薄暗い自分の部屋の中で、顔を綻ばせていた。
二ツ森メリー
二ツ森メリー
フォロワー
フォロワー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
二ツ森メリー
二ツ森メリー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
二ツ森メリー
こうして、SNSと化したノベルサイト上で、彼女はフォロワーとのやりとりを楽しむのである。
たとえそれが原因で――
つばき
つばき
先程の投稿が、その日のうちに非公開にされようとも。
つばきの顔はまるで焼いた餅のようにふくれ、悲しみ……というより、怒りで赤くなっていた。
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
ふくれっ面でそう言うものの、彼女が投稿を非公開にされたのは、これが初めてではない。
この投稿を含めて5回程、つばきの実写投稿……自撮り写真の投稿は、利用規約に違反しているとして、非公開にされている。
そればかりか、どうして非公開にされたのかを、ろくに知ろうともしない。
彼女は反省しようとすらせず、懲りてもいないのだ。
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
つばき
現在の時刻は8時45分。スマートフォンを取り上げられるまで、あと15分しかない。
毒づきながらも、先程と同じ内容の投稿をするつばきの顔は、すっかりいつも通りに戻っていた。
つばき
つばき
つばき
つばき
かわいいとこちらを賞賛するコメントに交じる、心配するようなコメントに、つばきはにんまりと笑みを浮かべる。
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー
つばき
つばき
フォロワー
フォロワー
フォロワー
フォロワー同士で盛り上がっている様は、傍から見ればお気楽そのものだ。
運営のアカウントをブロックしても、この投稿サイトがその『運営』によって作られているのだ。意味がないと知っている者はいるのだろうか?
第三者の目を気にすることなく盛り上がるフォロワー達に、つばきはにんまりと笑みを浮かべる。
つばき
つばき
誰もが彼女の味方を名乗り、お姫様へのご機嫌伺いのように、つばきへ優しい言葉をなげかける。
――つばきの承認欲求が歓喜で満たされるのは、なんとも簡単なことであった。
つばき
つばき
つばき
お母さん
つばき
お母さん
お母さん
つばき
つばき
お母さん
お母さん
お母さん
つばき
お母さん
つばき
つばき
お母さん
つばき
つばき
つばき
お母さん
部屋に戻るつばきを見送って、母親は満足そうに廊下を去った。
まさか聞き分けのいい愛娘が、安全なはずの小説投稿サイトで、全世界に自分の写真を発信してしまっていることなど……
彼女は、まだ知らない。