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どこもかしこも砂糖菓子で出来ているような、白とピンクにあふれた部屋の中。

つばき

今日の主役はコートだから、こうして、ポーズをとって……

姿見の前では、スマートフォンからの無機質なシャッター音が、不規則になり続けていた。

つばき

次は女の子座りで……

カシャ!

つばき

首もコテンってして、あざとい感じで……あ、ぬいぐるみも膝の上に乗せちゃお!

カシャ!

自撮りの写真は、続々と機体のストレージを圧迫していく。

それを気にもせず、自撮りに夢中な少女、つばきはうっとりとした笑顔を浮かべていた。

つばき

いいね。いいよ、いいね。今日も可愛いね!私、サイコーだね!

つばき

やっぱりママの買ってくれたショートコート、めちゃ可愛い〜!

つばき

オーバーサイズで指先だけ出るのが、たまらんっ!

カシャ! カシャ!

こうして10分程度は、カメラとにらめっこをしただろうか。

スマートフォンの表示時刻が、夕方の5時を静かに知らせると、つばきは我に返った。

つばき

はあぁ……いけない!
加工する時間が無くなっちゃう!

つばき

夜ご飯までには宿題を終わらせないといけないし、夜の9時にはスマホ取り上げられちゃうし!

つばき

急いで仕上げて、今日の投稿をしないと!

つばき

フォロワーさんを待たせるわけにはいかないよぅ!

つばきはスマートフォンを置いて、衣装箪笥から部屋着を引っ張り出した。

白いシフォンスカートを、黒のスウェットパンツへ履き替える。 袖にリボンが編み込まれた、ピンクのセーターは脱ぎ捨てて、意味のわからない英字が並ぶグレーのTシャツを頭から被る。

そうして鏡に映るのは、すっかり無彩色に身を包んだ、あどけなさが残る少女であった。

つばき

やっぱりパパの買ってくれたお洋服、ダサいな……でも、寒くはないんだよな……

つばき

つばき

さ、加工加工っと!

つばき

前はピンクとハートのフィルターを掛けたから、今日はクリーム色にしようかな

つばき

スマホで隠しきれなかった顔は、可愛いスタンプで隠して、エステ加工でやせて見えるようにして……

つばき

あ、キラキラのエフェクトも入れちゃお

つばき

つばき

よっし、出来た!かぁわいい〜!!

つばき

フォロワーさんたちはこういうのが好きなんだよね!かわいいって言ってくれるもんね!

つばき

後はセラーノベルに投稿だ!

つばき

……って、時間!後ちょっとしかない!!

つばき

早くアップしちゃお!

写真加工アプリを開いたまま、つばきはセラーノベルのアプリを開く。

本来は小説投稿サイトであるはずのそこには、ずらりと雑談のタグが付けられた投稿が並ぶ。

彼女もまた負けじと、 #雑談 #実写 の2つのタグを付けて、投稿物の新規作成画面へと進むのであった。

つばきが自撮りを終えてから、数十分後。

セラーノベルにおける彼女のアカウント、『二ツ森(ふたつもり)メリー』の雑談投稿ページに、新作が投稿された。

二ツ森メリー

みんなおまたせぇ!

二ツ森メリー

一軍女子の子に絡まれてたら、こんな時間になっちゃった(汗

二ツ森メリー

あの子になにかしちゃったかなあ……したなら謝らないといけないよね

二ツ森メリー

でもそれより今は、フォロワーさんといちゃいちゃしよー!

二ツ森メリー

というわけで、これ見てほしいの!『新しくママがくれたコート』!

当然、アップロードされた写真は、先程何枚と撮って加工した、例の自撮りである。

二ツ森メリー

ふわふわで、すごいかわいいコートでしょ?

二ツ森メリー

シフォンラベル ってブランド物なんだって!超オシャレだよね〜!

二ツ森メリー

特にこのコートは、ちょっとした仕草をすれば、更にかわいい自分になれるんだ!

二ツ森メリー

お袖で口元を隠せば、あっという間に、あざとかわいい女の子のか〜んせい!

二ツ森メリー

女子ってそうゆうのを気にしてこそ、かわいいって思われるんだと思う!

二ツ森メリー

本当は全部見せてあげたいんだけど、お顔をスタンプで隠してるのは許してね……

二ツ森メリー

二ツ森メリー

ってな感じで、かわいいを作れるコートを貰った話でした!ママに感謝!

二ツ森メリー

みんなもオーバーサイズのコートでやってみて!

二ツ森メリー

おっつおっつ☆

フォロワー

フォロワー

メリーちゃん、おっつ☆

フォロワー

今日もかわいいよ!

フォロワー

顔出てなくても可愛いとか、最強では?

フォロワー

きっとその一軍女子、メリーちゃんがかわいいから、しっと?してたんだよ!

フォロワー

メリーちゃんのお洋服って、いつも可愛くて羨ましいな〜!

二ツ森メリー

そうかなぁ?そう言ってくれると、すご〜く嬉しい!

勢いよく吹き出す水のように、コメントが続々と彼女の投稿に寄せられていく。

それに充足感を得たつばきは、薄暗い自分の部屋の中で、顔を綻ばせていた。

二ツ森メリー

みんな、コメントありがとう!

二ツ森メリー

お友達に褒めてもらったって、ママにお礼を言わないと!

フォロワー

こんな可愛いお洋服買ってくれるんだ、いいお母さんだね!

フォロワー

メリーちゃん!調べても出てこない!ブランドのURL欲しいよー!

二ツ森メリー

ほらこれだよ〜↓

二ツ森メリー

http://FchiffonlAbElK...

フォロワー

ありがとう!ちょっと見てくる!!

フォロワー

フォロワー

うわあ!どれもめっちゃ可愛い服ばっかり!

フォロワー

お値段は……可愛くないけど……

二ツ森メリー

可愛くないお値段ワラ

二ツ森メリー

確かにちょっと高いかもね

フォロワー

でもその分、センスいい!

フォロワー

これを着こなせるメリーちゃんすごい!

フォロワー

絶対美少女じゃ〜ん、いいな〜!

フォロワー

リアルでお友達になりたい人生だった

フォロワー

ほんと!わたしもメリーちゃんみたいに可愛くなりたい!

二ツ森メリー

えへ!ありがと〜!

こうして、SNSと化したノベルサイト上で、彼女はフォロワーとのやりとりを楽しむのである。

たとえそれが原因で――

つばき

なっ……!

つばき

な、なんでよぉおお!!

先程の投稿が、その日のうちに非公開にされようとも。

つばきの顔はまるで焼いた餅のようにふくれ、悲しみ……というより、怒りで赤くなっていた。

つばき

「利用規約に基づき『可愛いコート☆』を非公開にしました」……?

つばき

意味わかんない、どうしてこの投稿だけそんなことするの?

つばき

そんなものがあるなら、どこにこう書いてありますよって教えてよ!

つばき

規約とか、存在自体知らないし!

つばき

そんな中で、いちいち規約の何条とか、探しになんて行けないよ!

つばき

運営さーん、意地悪しないでよー!

つばき

後出しなんて、いけないんだー!

つばき

つばき

今回だけは、画面越しに怒られるだけで許してあげる!

つばき

こっちは写真撮るので忙しいんだから、もうこんな事しないでよね!

ふくれっ面でそう言うものの、彼女が投稿を非公開にされたのは、これが初めてではない。

この投稿を含めて5回程、つばきの実写投稿……自撮り写真の投稿は、利用規約に違反しているとして、非公開にされている。

そればかりか、どうして非公開にされたのかを、ろくに知ろうともしない。

彼女は反省しようとすらせず、懲りてもいないのだ。

つばき

もー!9時になる前に、さっきの分も投稿しなおさなくちゃ!

つばき

最近こうなること多いよね!

つばき

いい加減にしないと、よそのSNSに行っちゃうぞ!

つばき

なんて言っても、どうしてか、やってる途中でアカウント停止にされちゃうんだけど……

つばき

ここならわざと年齢を高く設定して登録しちゃえば、割とどうにかなるんだよね

つばき

ランドセルの写真とか載せても、バレることなんてないし〜?

つばき

現に私は小4だけど、高1になるように生年月日を設定したら、センシティブな投稿も見れるようになったし!

つばき

ほんと、ここって自由度高くていい所〜!

つばき

だから運営さんは、早く私の投稿を公開に戻してね!今すぐなら許してあげるよ!

現在の時刻は8時45分。スマートフォンを取り上げられるまで、あと15分しかない。

毒づきながらも、先程と同じ内容の投稿をするつばきの顔は、すっかりいつも通りに戻っていた。

つばき

あ!もうコメントが……!

つばき

みんな、私のことを心配してくれたんだ!

つばき

私の投稿に、またいいねを押しに来てくれたんだ!

つばき

すごい……どんどん増えてくよ!

かわいいとこちらを賞賛するコメントに交じる、心配するようなコメントに、つばきはにんまりと笑みを浮かべる。

フォロワー

フォロワー

よかった!投稿復活!

フォロワー

消えててびっくりしたよ〜!どうしたの?

フォロワー

また運営さんに、訳わかんない理由で非公開にされたとか?

フォロワー

メリーちゃんって敵が多いよね……ま、こんな可愛いなら当然か!

フォロワー

メリーちゃん、おっつ☆!

つばき

それにしても、こんな時間でも、投稿見てくれてるなんて!すごく嬉しいなぁ!

つばき

『心配かけてごめんね』……っと!

フォロワー

メリーちゃんって、運営さんに嫌われてるのかな?

フォロワー

そうだったら運営でも許せない!みんなでブロックしてやろうよ!

フォロワー

さんせー!

フォロワー同士で盛り上がっている様は、傍から見ればお気楽そのものだ。

運営のアカウントをブロックしても、この投稿サイトがその『運営』によって作られているのだ。意味がないと知っている者はいるのだろうか?

第三者の目を気にすることなく盛り上がるフォロワー達に、つばきはにんまりと笑みを浮かべる。

つばき

ゾクゾクするよ、こんなに沢山の人が私の味方なんだ!

つばき

そしてこれだけの人が、私に興味を持ってくれてる!最高……!

誰もが彼女の味方を名乗り、お姫様へのご機嫌伺いのように、つばきへ優しい言葉をなげかける。

――つばきの承認欲求が歓喜で満たされるのは、なんとも簡単なことであった。

つばき

学校の一軍女子達、とくにアイツにも、これを見せてあげたいよ!

つばき

私には、あんた達以上に、沢山の仲間がいるんだって!

つばき

せいぜい学校で威張り散らしてろ!

お母さん

つばきちゃ〜ん?

つばき

ギクッ!!

お母さん

そろそろ9時よ、寝る時間!

お母さん

スマートフォンはおしまい、ね?

つばき

ま、ママ!

つばき

わかった!はい!

お母さん

はあい、渡してくれてありがとう!

お母さん

お母さん

で……変なサイトにアクセスしてないよね?

つばき

変なサイト?えっちなサイトとか?

お母さん

後はお買い物のサイトとか……

つばき

ああ!それかあ!
そんなのしてないよ!

つばき

いつもの小説投稿サイトだけだもん!

お母さん

そう!いい子ね、つばき!

つばき

変なサイトは触らない、お買い物のサイトは勝手に開かない!

つばき

約束だもん、当然でしょ!

つばき

じゃあママ、おやすみなさい!

お母さん

おやすみなさい!また明日!

部屋に戻るつばきを見送って、母親は満足そうに廊下を去った。

まさか聞き分けのいい愛娘が、安全なはずの小説投稿サイトで、全世界に自分の写真を発信してしまっていることなど……

彼女は、まだ知らない。

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