ずっとザワザワする。 胸の奥が何かを 叫んでいるかの様に 俺に何かを訴えかけている。
このざわめきは、 どんどん大きくなって行って 夜も中々寝付けなかった。 ちょっと起きては、 時計を見て 目を瞑る繰り返し。
目を瞑るだけで、 眠気は襲ってこず 只々苦痛な夜が続いた。
朝日が昇ると共に また思うんだ。 あぁ、また寝れなかったって
アイツに会うまで、 こんな事記憶を遡っても 1度もなかったのに。
知りたくないものを 知ってしまった。 後悔と鬱陶しさで 俺のボヤけた脳を埋めつくした。
楡井
蘇枋
にれ君が心配そうに あわあわとしていた。 俺と何かあったのかと、 濡れっぽい瞳が 俺を真っ直ぐ見つめてきた。
ポーカーフェイスを 崩さまいと、 桜君を心配する気持ちを 押し込んで 胡散臭い笑顔を貼っつけた。
桜
自分の席でうつ伏せに なる様に寝ていた。 近づくと 静かな呼吸音が聞こえてきた。
楡井
小さく呟く様に にれ君が桜君に声をかけた。 もし寝ていても、 桜君を起こさない様に。
桜
楡井
桜
うつ伏せて見えなかった顔は、 桜君が起き上がると共に 顕になった。 酷く窶れた様な顔をしていて、 目の下には酷い熊があった。
桐生
俺達の様子を 気にしてか、 桐生君が持っていたスマホを 下ろし、こちらに声を掛けてくれた。
楡井
桜
桐生
桐生
桜
桜
桜
フラフラ立ち上がり、 桐生君の顔を見るや否や、 名前を聞いていた。
桐生君は少し悲しそうな 顔をしながら、 また自己紹介をしていた。
人の顔と名前を中々 覚えられなかった桜君には 当然か、 もし自分もまた 誰かと聞かれたら 俺は耐えられるだろうか。
楡井
桜
楡井
にれ君のいる方向に 今まで見たことがないような 怖い顔を向けていた。 きっとこれも寝不足による 偏頭痛の所為だろうか。
今にも倒れて しまいそうな フラフラな足取りで 桜君はどこかへ行こうと 歩みを進めた。
蘇枋
堪らず肩を掴めば 怖い顔をした桜君に 睨まれた。 あの別れの時 詳しい事情も話さずに フラッと出ていってしまった事に 怒っているだろうか。
自分から離した手を、 自分から伸ばして 取ろうとしている俺は ずるくて、 酷い奴なんだろう。
桜
蘇枋
蘇枋
蘇枋
楡井
桐生
楡井
俺達は、 もう恋人関係では ないのだから。 君の記憶がない以上、 別れたも同然なのだ。
それでもすぐに別れを 告げられなかった 彼がすぐ、俺を思い出して くれると信じて。
蘇枋
蘇枋
蘇枋
桜
蘇枋
やっとこの前 諦めたんだ。 俺は彼との砂糖を煮詰めた様に 甘い思い出を持っていれば、 もう大丈夫だって、 生きていけるって、 そう思った。
桜
蘇枋
ボヤっと聞こえてきた 優しく甘い声。 この声に、 つい反射的に 甘えそうになってしまう。
保健室のベッドの 目の前まで来たところで、 ばたりと蘇枋を巻き込んで 倒れてしまう。 体が一気に重くなったのを 感じた。
ベッドに倒れたおかげが、 どこも怪我はなく、 痛みを感じた箇所は無い。
蘇枋
蘇枋
どうしたらこんな体制に なるのだろうか。 蘇枋が俺を押し倒すかの様な ポーズになっている。
思わず、少し笑ってしまった。
しばらく、 この体制で 時間が経った。 ずっと見つめ合っていて、 体感は数10分の 長い時間に思えた。 実際は、五分くらいの 短い時間なのに。
お互い一言も声を出さず じっと静かに見つめあっていた。 蘇枋の目は、 どこか真剣で、
記憶の無い俺へ
何かを捜し求めるかの様に。
蘇枋
俺の中に 自分との思い出を 感じられなかったのか、 蘇枋は眉を下げて 悲しそうに問う。
桜
自分の口からは 乾いた笑みが出てきて、 蘇枋のなんとも言えない表情に 心打たれた。
蘇枋
このままなにも しなければ勝つ。 それは嬉しいはずなのに、 何かを言わなきゃ行けない そんな気がしてならない。 口をパクパク動かすが、 言葉はつっかえ 何一つ出てこない。
蘇枋
桜
蘇枋
桜
蘇枋に向けられる視線を 見る度、顔が暑くなって 照れくさくなった。 蘇枋の優しく砂糖を 煮詰めた様な声を聞く度に、 心臓がどきりと跳ねた。
とっくの前に気づいていた。 蘇枋からの好意に。 だから思い出そうとしたんだ。 皆との、 お前との記憶を。
蘇枋
蘇枋の声は 只々静かだった。 一言、小さくと 大きくも無い声で 肯定の言葉を。
蘇枋
蘇枋
君が俺の好意に気づいていると、 そう思った時は、 あの屋上の別れから。
だから改めていったんだ。 俺と君が、 これから普通に戻る一言を。 普通に生きて、 普通に恋愛して行く一言を。
蘇枋
桜
別れよう。 その言葉を蘇枋の口から聞いた時、 視界がぼやけて 目頭が熱くなった。
あぁ、俺 こいつの事 ちゃんと好きだったんだ。 そう認めてしまえば 思い出せと叫んでいた 奥底にいた俺が、 思い出と共に出てきていた。 思い出せば今の俺は消えてしまう。 そう思い、思い出したくても 中々思い出せないでいた記憶。
欠片となって出てくるのは、 甘い男の声と、 優しく蕩けた笑顔。 そして俺をこう呼ぶんだ。 「"遥"」
偶にしか読んではくれないけれど、 あいつが優しく呼ぶ 自分の名前が好きだった。 それは今も変わらない。
アイツの全部が好きだ。 困った様に笑う顔も いたずらっぽく笑う顔も 照れた顔も 不安そうな顔も
全部全部 好きで仕方がない。 溢れ出た気持ちは 抑える方法を知らない。 忘れていた分 を埋める様に 好きという気持ちがどんどん湧き出る
桜
蘇枋
桜
桜
桜
蘇枋
蘇枋
蘇枋
お互いの顔は 涙でぐしゃぐしゃで、 顔をしっかりと認識できない。
桜
蘇枋
桜
少しでも長く 恋人の体温を感じていたくて、 お互いを抱きしめ 顔を近ずけた。
すぐにでも顔が くっついてしまいそうな 程の至近距離で、 お互いの頬を優しく撫でた。
蘇枋
桜
蘇枋
蘇枋
何かを言い返す前に 甘く蕩けるキスをされた。 たった数ヶ月。 それだけだったはずなのに 何年もしていない様に思えた。
甘くて甘くて 溶けそうで、 気持ちが昂って 好きが溢れ出て 仕方がなくて、
唇が離れた途端に、 もう1つ言葉が出てきた。
桜
蘇枋
2ヶ月間、 好きと言ったらダメな ゲームは ギリギリで俺が負けてしまった。
でも、もう勝ち負けとか どうでもよくって、 今はただ少しでも愛を伝えたくて、
その場は甘く包まれた。
記憶の無い俺へ 伝えたい。 あんなに苦痛だった毎日は 今じゃ甘く蕩けそうな 程キラキラ輝いていると。
恋人と2人並んで 幸せそうに笑っている 毎日があることを。
もう忘れない。 忘れたくない。
桜
蘇枋
記憶の無い君へ。
ℯ𝓃𝒹
コメント
14件
泣きました。
連載お疲れ様でした‼︎記憶がないシリーズでこんなにも感動すると思ってませんでした…… 素晴らしすぎます‼︎物足りないなんて滅相もないです!この甘々感と感動で心もお腹も満足ですよ!神作をありがとうございました!
お疲れ様でした~... 最後の桜くんと蘇芳ちゃんの名前の呼び合いが尊すぎました... 最後に桜くんが自分に語りかけるシーンもとても感動しました...もう一本の映画ですね...🥲