二ツ木
――提案ってなに?
七星が挙げた手を見て、二ツ木は考える。
果たして、どこまでこちらの思惑が読まれているのだろうかと。
七星
実に簡単な提案だ。
七星
今、私達の親順はランダムで決められている。
七星
だから、次の1セットに限り、ランダム抽選を他の抽選法に変えないか? 例えば、前回の親順を参照し、同じ親順にならないようにするとか。
二ツ木
(どうやら、こっちの親順が、ランダムと言っておきながら、実は私の親順だけ【2】で固定されていることに気づかれたか)
二ツ木
(でも、嘘は言ってないよ。あなた達の親順は、しっかりランダムで選ばれてるんだから)
二ツ木
(でも、この人が言ってるのって、結局のところランダム抽選ってことだよね?)
二ツ木
言い方は回りくどいけど。
二ツ木
(ただ、親順をずらすってことは、私にとっては色々と弊害がある)
二ツ木
(まず、自分の親順が把握できなくなることは、かなり大きい)
二ツ木
(それに加えて――実は【2】という絶妙な親順は、このゲームにおいて有利に立ち回れる順番)
二ツ木
(なぜなら、基本的に誰かが【太郎】を出さなければ、順番が回ってこないから)
二ツ木
(私は自分の親順が【2】で固定されていることを知っているから、絶対に【1】の時に【太郎】は出さない)
二ツ木
(その結果、どうあがいても【1】の親順で【太郎】が揃うことはない)
二ツ木
(もし、この時に全員が【太郎】を出さなければ、親順【1】の負けとなる。そうならなかったら、親順が【2】に回るだけ)
二ツ木
(そして【2】の時に【太郎】を出す。ここでも、絶対に【太郎】は揃わない。だって、私以外の2人がここで【太郎】を出せるってことは、つまり【1】の時に使わずに温存するってこと)
二ツ木
(温存するってことは【1】で出てくるのは【太郎以外】ってことになって、つまり【1】で全員【太郎以外】を出すわけだから、やっぱり【1】の負けになっちゃう)
頭の中で思考を巡らせながら、二ツ木は悩むふりをする。
二ツ木
うーん、どうしようかなぁ。
二ツ木
(そして【2】を乗り越えてさえしまえば、後は簡単。仮にあっちがどんな出しかたをしてきても、あっちのどちらかが【太郎】を出して場が流れる)
二ツ木
(加えて、ゲームとしては終盤だから、そもそも【太郎】は出尽くしていて、親順【3】の時点で、誰も【太郎】を出せない……なんて状況も出てくる)
二ツ木
(つまり【2】でひたすら【太郎】を出し続けることこそが必勝法)
二ツ木
(どれだけ偶然が続こうが、いつしか必ずあちらの歩幅が合わなくなる)
二ツ木
(私はそうなるのを、じっと待ち続ければいい)
二ツ木
(これが私の必勝パターン。だけど、この流れだと――)
七星
悩む悩まないの問題ではなくて、公平に勝負をしようと言っているだけだ。
七星
次のセットは今回のセットの親順とは必ず違う順番にすること。
七星
ちなみに、今のセットの親順は――。
二ツ木
一宮が【1】で私が【2】――七星が【3】だった。
七星
そうか、ならばそれを参照して、次のセットに限り、同じ親順にならないようにして欲しい。
七星
それと、当たり前だが、自分の親順が何番目なのかは、君も含め全員が分からないようにな。
七星
その代わり、他の人間1人の親順が分かるというルールは不要だ。
二ツ木
(今のセットの親順と被らないようにするというルールだけで、それぞれの親順は2分の1に絞られる。この状況で、自分以外の誰かの親順が分かるのは、ちょっとやりすぎか)
二ツ木
(この人、どこまでこっちのことを掴んでいるんだろう)
七星
それと、このルールが適用されるのは、次の1セットのみでいい。
七星
加えて、もし次のセットが流れて終わってしまった場合、私達の負けで構わない。
一宮
ちょっと七星、なに勝手に言ってるんだ?
七星
一宮、私の提案はそれだけゲーム性を変えてしまうということなんだ。
七星
対価としてはちょうどいい。
二ツ木
(提案を受け入れてしまえば、次のセットでなにもしなくても勝てる)
二ツ木
(大体、親順が分からないといっても、次セットの私の親順は【1】か【3】になるのが分かっているから、やってやれないことはない)
二ツ木
――いいよ、これまでの立ち回りを見ていれば分かる。
二ツ木
あなた達がなにをしても、私には勝てないから。
二ツ木
(この状況、あちらが口裏を合わせている様子もない。全員が個人戦なら……勝てる)
七星の提案が通り迎える3セット目。
静かでありながら、ゆっくりと戦況が動き出す。