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春の気配が少しずつ街に滲み始めた、 3月の終わり。 卒業式を終えたばかりの高校の校舎は、 どこか懐かしさと新しさの入り混じった空気を まとっていた。
哲汰
哲汰が、校庭の桜の木の下でポケットから 何かを取り出した。
哲汰
小さな鍵だった。
咲
咲が見つめ返すと、哲汰は少し照れくさそうに 笑って言った。
哲汰
風がふわりと吹き抜けて、ふたりの間の 桜のつぼみが揺れた。 咲は驚いて言葉を失った。
哲汰
真剣な目でそう言う哲汰に、 咲の心はじんわりと熱くなった。
1年前。 ただの転校生だった彼が、今では誰よりも近くて、誰よりも支え合える存在になっていた。 たくさん泣いて、傷ついて、 でもそのたびに寄り添ってくれた哲汰。 一緒に笑って、一緒に未来を描いてきた1年間。
咲はゆっくりと、小さく頷いた
咲
咲がそう微笑んだ瞬間、哲汰は目を細めて、 まるで安堵と幸福が 一度に押し寄せたような表情を浮かべた。
哲汰
ふたりの間に、柔らかい沈黙が流れる。 桜の枝が風に揺れ、ひとつ、ふたつと 小さな花が咲き始めていた。