志賀先生
いやぁ、これは予想外ではあったけど、しかし面白い。
志賀先生
ちょっとした授業参観じゃないですか。
フルフェイスに引き連れられて姿を現したのは、ハカセの父親だった。
セイヤはもちろん会ったことがないし、そもそもお互いの親の話なんてしないから、どんな人なのかさえ知らない。
ただ、ハカセの父親ということだけあり、そっくりだな――という印象が強かった。
ハカセ父
お、おい。
大丈夫か?
ハカセの父親は、床に倒れてぴくりとも動かないミナミの姿を見つけたようだ。
慌てた様子で駆け寄ろうとするが、担任が銃口を向ける。
志賀先生
おっと、ご自分の立場を理解していただきたいですねぇ。
志賀先生
さすがに息子の目の前で、父親を殺すような真似はしたくありませんので。
志賀先生
それに、そいつはもう事切れてますよ。
今さら応急処置をしても手遅れです。
ハカセ父
しかし――。
志賀先生
なんにせよ、死体が教室に転がったままというのはよろしくない。
志賀先生
片付けてもらってもいいですか?
フルフェイスB
了解した。
担任の視線だけで理解したのか、フルフェイスBが返事をする。
フルフェイスA
り、了解。
ワンテンポ遅れてフルフェイスAが返事をし、2人でミナミの死体を教室の外へと運び出す。
フルフェイス達が戻ってくるのに時間はかからなかった。
ハカセ父
先ほどの遺体は……どこにやったんだ?
志賀先生
隣の教室です。
ちょっと覗いてきますか?
死体が転がっていますから。
志賀先生
私がどれだけ本気かも分かっていただけるかと。
ハカセ父
確認させて欲しい。ここには他の保護者の方を代表して来たつもりなんだ。
ハカセの父親は、担任に向かって主張するように続けた。
ハカセ父
子ども達のお父さん、お母さんも心配しているんだ。
ハカセ父
なにが起きていて、どうなっているのか、それをこの目で確認する義務が、私にはある。
しかし、それはきっとこの場にいる生徒達に向けてのメッセージだったのであろう。
志賀先生
まぁ、別に構いませんよ。
じゃあ、ちょっと連れて行ってやってくれ。
フルフェイスA
行くぞ。ぼさっとするな。
銃口を突きつけられたハカセ父は、両手を改めて挙げ、教室の外へと向かって歩き出した。
そして、フルフェイスAと共に教室を出て行ってしまった。
セイヤ
どうして、ハカセのお父さんがここに?
ハカセ
多分だけど、僕達を助けに来たんだと思う。
ハカセ
なにかのタイミングで、僕達の親が異変に気づいたんだろうね。それで、形はどうであれ担任とコンタクトを取ったんだと思われる。
ハカセ
でも、こんな状況が続いているけど、警察が学校に集まっている気配はない。
ハカセ
ということは、きっと担任から警察への通報は禁止されているはずなんだ。
ハカセ
僕達のことを人質に取れば、それくらいのことは容易いと思う。
ヨウタ
でもよ、息子のために単身で助けに来るとか勇気あるよな。うちの親父なんて、毎日のように体を鍛えてるくせに。
ハカセ
僕の父さんは刑事だからね……。警察に通報できないとなれば、父さんが出張るしかない。
ハカセ
僕が言うのも変な話だけど、人一倍責任感が強い人なんだ。
マドカ
親子の仲が良さそうでうらやましいわ。
私なんて、両親とどれくらい口を利いてないか分からないわ。
アカリ
なんかこの歳になると、やっぱり親と仲良くするのって恥ずかしいっていうか、気まずいよね。
ヨウタ
それ、なんていうか知ってるか?
ヨウタ
反抗期っていうんだよ。
セイヤ
うちは片親だからかな、比較的母さんとはうまくやれているとは思うけど。
マドカ
ちょっとシズカ。
なに泣いてんのよ?
シズカ
……家に帰りたい。
もう、こんなの嫌だよ。
マドカ
ちょっとやめてよ。
私だって……。
シズカ
だって、これがずっと続いたら、きっといつかは私達も……。
ヨウタ
それまでに助けが来る。
ヨウタ
それを信じようぜ。
ヨウタ
俺の親父、息子の俺から見ても馬鹿だけど、いざって時には頼りになる……はずなんだ。
セイヤ
そこははっきり断言してあげようよ。
セイヤ
でも、きっと母さん達も心配しているだろうし、この状況をなんとかしようと頑張ってくれているはずなんだ。
志賀先生
あー、なんかセイヤ達がごちゃごちゃ言ってるから、みんなにも言っておくな。
志賀先生
先生、お前達のご両親と少し話をさせてもらったんだ。
志賀先生
一応、犯行声明のつもりだったんだけどなぁ。
志賀先生
まさか、ハカセのお父さん達が、学校への潜入を試みるなんて思いもしなかったよ。
志賀先生
お前らみたいな人間でも、愛してくれる親はいるってことだな。
志賀先生
まぁ、先手はしっかり打たせてもらったし、下手な真似はさせないつもりだが……。
担任の言葉を遮るかのように、勢い良く教室の扉が開く。
姿を現したのは、ハカセの父と一緒に隣の教室に向かったフルフェイスAだった。
志賀先生
どうしました?
フルフェイスA
不覚だった。隙を突かれて……逃げられた。
ハカセ
父さん……。
ヨウタ
やるじゃねぇか、ハカセの親父さん。
志賀先生
ハカセの父親を放っておくのはリスクが高いです。
志賀先生
探してください。
志賀先生
あまり無駄な殺傷はしたくありませんが、最悪殺してしまっても構いませんから。
フルフェイスB
私が行ってくる。
フルフェイスA
いや、やつを取り逃した責任はこちらにある。
フルフェイスA
ここは私が探しに行こう。
志賀先生
いいえ、2人で行って、一刻も早く見つけてください。
志賀先生
あの人を放っておくのは、様々な意味でリスクが高いですから。
志賀先生
教室は私だけで大丈夫ですから。
フルフェイスA
了解。
フルフェイスB
了解。
フルフェイス達はそう言うと、慌ただしく廊下を出て行ってしまった。
志賀先生
さてぇ、珍客のおかげで時間をロスしてしまったな。
志賀先生
今から次の課題を出すぞー。
志賀先生
と、その前に一度班編成を見直させてもらう。
志賀先生
随分と人数も減ったことだしな。
担任はそう言うと、黒板に次々と名前を書き出していく。
セイヤ
……みんな綺麗に班がバラバラになったな。
ヨウタ
うわ、俺の班には裏切り者のカシンがいるのかよ。
マドカ
そんなこと言ったら、うちにはヒメがいるわよ。
アカリ
ヨウタの班は、半分がナンバーズだね。
アカリ
うちの班には……スミオか。
彼、苦手なんだよね。
ヨウタ
ツヨシと一緒の班だったやつだよな。
ヨウタ
あいつ、誰とも関わらないようにしてるのか、なに考えてんのか分からない時があるよな。
ハカセ
……警戒すべきは、ツヨシに媚びるために仲間を裏切ったカナか。
マドカ
ってか、シズカのところの寄せ集め感がすごくない?
マドカ
辛うじてナンバーズにしがみついてたシキと、あとはタツヤとカズヤじゃん。
セイヤ
タツヤとカズヤもツヨシの班だったよな?
マドカ
あの2人も普段からぱっとしないわよねぇ。
マドカ
まぁ、シズカにはお似合いじゃない?
志賀先生
よーし、お喋りはそれくらいにして、机を動かしてくれー。
そう指示を出しながらも、銃口はしっかりとセイヤ達のほうに向けているのだからタチが悪い。
セイヤ
あいつ、今度はなにをやるつもりなんだ……。
班が再編成され、セイヤ達はバラバラになってしまった。
志賀先生
これからみんなにやってもらうのはな……。
担任はそう言うと、教壇のしたから抽選箱のようなものを取り出した。
よく100均などで売っている、紙でできた簡素なボックス。
志賀先生
……くじ引きだ。