これは
数年前
私が小学生だった頃の話
私の住む小さな村では
毎年
村の活性化のための
小さな祭りがいくつか開かれていました。
夜がメインとなる祭りの日は
門限が延びる。
だから子供たちにとっては重要で、楽しみな日
幾多の祭りの中でも
とりわけ特別なのが
"タナバタ祭り"
大きな御神輿に
不思議な歌を歌いながら練り歩く手踊り隊
狩衣と烏帽子を身に、大幣を振りながら歩く神主
荘厳な儀式とは対照的に
立ち並ぶ屋台と色鮮やかな短冊
子供の心をくすぐるには十分です。
奈那子
奈那子
冬花
冬花
冬花
奈那子
そうです。
私は今からタナバタ祭りに向かうのです。
ああ
人生を変えたあの日から
もう
8年
私は再び、
小学生時代へと想いを馳せる___
8年前
小学6年生だった頃
7月7日
奈那子
冬花
奈那子
冬花
冬花
奈那子
私は当時、タナバタ祭りがあまり好きではありませんでした。
楽しいのですが…楽しすぎるのが原因なのです。
その理由は…
担任
担任
担任
担任
担任
担任
担任
理由はこれ。
他のお祭りなら6年生は8時までなら大丈夫なのに
タナバタ祭りだけ、早く帰らなければならなかったのです。
お祭りが楽しくて楽しくて
早く帰らなければいけないのが嫌でした。
担任
担任
担任
担任
口を酸っぱくして言うこの担任のことも嫌いでした。
なのでつい、
魔が差してしまったのかもしれません。
タナバタ祭り
奈那子
冬花
冬花
気がつけば、2人で回るはずだったのに、合流して男女数人になっていました。
男子が苦手な私は、それが少しだけ嫌だったことを覚えています。
奈那子
奈那子
冬花
冬花
それならさ
もう少しいようよ
メンバーの中の誰かが
1人
そう呟いたように感じました。
冬花
奈那子
大丈夫だって!
バレないバレない!
また。
奈那子
冬花
夜になったら、
火を使った演出があるんだって!
誰かの楽しそうな声。
冬花
奈那子
その時、時計は丁度6時を指しました。
寂しそうな顔をしながら、それぞれ帰路に着く小学生の姿がたくさん目につきます。
胸の高鳴り。
冬花
冬花
奈那子
そうこなくっちゃ!
奈那子
冬花
奈那子
奈那子
奈那子
冬花
冬花
その日
私は生まれて初めてルールを破りました。
6時50分
放送「まもなく、橘田神社にてトーミョークヨーの儀式が始まります」
冬花
奈那子
奈那子
奈那子
冬花
冬花
冬花
冬花
大丈夫だよ!
もう決めたことだし、今更逃げるの?
誰かが放った言葉が胸に刺さりました。
冬花
冬花
冬花
何だか嫌な予感がしていました。
でも、
それを口に出すことは出来ませんでした。
橘田神社
拝殿の前には既に大勢の人だかりができていました。
6時56分
6時57分
6時58分
6時59分
7時00分
ボ
ン
・
・
・
7時になると同時に
炎が立ち上りました。
そこに再び大幣を持った神主が現れ、
手筒花火から火花が噴き上がりました。
炎に照らされ揺らめく色鮮やかな短冊。
その言葉に言い表せれない美しさに目を奪われました。
その時
教師
私達の小学校の名の入った腕章を付けた教師が、血相を変えて近づいてきました。
奈那子
冬花
こっち!!
逃げよ!!
誰かが私の腕を引っ張りました。
私達は夢中で逃げました。
あの時、大人しく先生に捕まっておけば……
…
失礼。今の言葉は撤回させてください。
7時3分
冬花
冬花
冬花
冬花
奈那子
冬花
冬花
冬花
7時4分
奈那子
奈那子
冬花
冬花
冬花
冬花
7時5分
冬花
冬花
奈那子
奈那子
奈那子
冬花
奈那子
警備員?
冬花
警備員?
7時6分
奈那子
冬花
奈那子
警備員?
警備員?
警備員?
7時7分
警備員?
警備員?
冬花
バン…!
私達は本殿の扉に引き込まれました。
トウカ…
冬花
奈那子
冬花
奈那子
冬花
冬花
冬花
奈那子
奈那子
奈那子
私達は、
8年前のお祭りの日から
オトウサンとオカアサンに育てられました。
オトウサンとオカアサンは
数百年前
この地で暮らしていました。
夫婦である2人は、なかなか子宝に恵まれませんでした。
結婚して7年後
やっと待望の第1子を出産しました。
出産から数年後
幸せだった家族に不幸が襲いかかりました。
2人に子供が産まれた年から、
村に何度も災いが降りかかっていました。
そして村の長は、オカアサンが子供を出産してから災いが立て続けに起きていることを疑問に思ったのです。
そして、根拠の無い悪い噂が広がりました。
「お前の子供は邪鬼の生まれ変わりだ!」
何度も嫌がらせを受けたそうです。
しかし、子供は真面目で利口ないい子でした。
そして、最悪の事態が起こりました。
2人の子供が「邪鬼」として、神への生贄になることになったのです。
オトウサンとオカアサンの必死の抵抗も虚しく、子供は殺されてしまいました。
2人は嘆き悲しみ、
憎みました。
神を
村を
自分達を。
守りきれなかった
大人になるまで育ててあげられなかった
オトウサンとオカアサンは後悔と憎しみを抱えながら心中し、
地縛霊となりました。
オトウサンとオカアサン、そして子供の祟りを恐れた村人は、
家族が暮らしていた家の跡地を
慰霊のために神社にしました。
名前はオトウサンとオカアサンの姓を取って
橘田(タチバタ)神社
そして、そこで供養のための祭りを開くことになりました。
祭りの名前は
タチバタ祭り
今、村にあるタナバタ祭りは、元々の名前はタチバタ祭りだったのです。
橘田家の悲劇は時代を追うごとに人々の記憶から消えて行き、
家族の命日が七夕の7月7日であったこと、
祭りの名前が"タチバタ祭り"で、"タナバタ"とよく似ていたことが原因で
気がつけば
慰霊のために行われていた"タチバタ祭り"は
短冊と屋台で溢れた
"タナバタ祭り"になっていました。
しかし、本来の目的である慰霊は、まだ続いています。
それが、あの火の演出の灯明供養です。
オトウサンとオカアサンは、まだ後悔と憎しみを抱いたままです。
だから、
やり直そうとしているのです。
2人が心中した7時7分
この時間にまだお祭りにいる12歳以下の幼い子供を、
2人はさらっていました。
強い強い怨念の力で。
学校が、あれほどしつこく
「6時に帰れ」
と言っていたのは、
この言い伝えのためでした。
私達は、オトウサンとオカアサンのやり直しの育児のために8年間も閉じ込められていました。
本殿の前で会った謎の人物…
今となってはオトウサンが乗り移った人物だと知っていますが。
あの人が言っていた
「いいコは歓迎する」
あれは真面目でいい子だった本当の我が子に少しでも近い子を育てたかったのでしょう。
だから彼は
要らない悪いコには早く帰ってほしかったのです。
そして、
今日
私達は
要らないコになります。
さらわれてからもう8年
私達は成人してしまったのです。
オトウサンとオカアサンにとって、大人になってしまった私達はもう要りません。
だから今日のお祭りで、私達はここから出ていくのです。
冬花
私は真っ白な装束を身に包みました。
神主さんが持ってきてくれた物です。
着方を直接教わったわけではありませんが、
他の子供が旅立つ時に着ているところを見ているうちに覚えてしまいました。
その子供の中には、あの日お祭りを共にし、私達をここへと導いたあの子達も含まれています。
冬花
奈那子
冬花
奈那子
冬花
奈那子
冬花
奈那子が私に抱きついてきました。
奈那子
冬花
冬花
冬花
答えになっていないのは分かっています。
ごめんね、奈那子。
その答えは私にもわかりません。
扉が開く音がしました。
「村の平和のためです…」
そう呟いた神主さんは、私達に液体をかけました。
そして、私達は木で組み立てられた箱の中に入り、運ばれていきます。
私達はオトウサンとオカアサンにとってももう要らないコだし、
人間の世界にとっても面倒くさい存在です。
だから、
消えるしかないのです。
8年前と同じざわめきが聞こえてきました。
6時55分
6時56分
6時57分
6時58分
6時59分
奈那子の冷たい手を握ります。
7時00分
ボ
ン
・
・
・
私達の命は、炎と共に儚く散りました。
オトウサンとオカアサンの供養と、村の平和のために。
あなたの町のお祭りは
本当にタノシイものですか?
コメント
20件
怖ぃぃぃぃぃぃぃぃ
初めの数タップからどんどん惹き付けられて、なんかもう凄いですね!! (語彙力皆無)
怖い…