TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

悪いコは早く帰りましょう

一覧ページ

「悪いコは早く帰りましょう」のメインビジュアル

悪いコは早く帰りましょう

1 - 悪いコは早く帰りましょう

♥

1,387

2019年07月07日

シェアするシェアする
報告する

これは

数年前

私が小学生だった頃の話

私の住む小さな村では

毎年

村の活性化のための

小さな祭りがいくつか開かれていました。

夜がメインとなる祭りの日は

門限が延びる。

だから子供たちにとっては重要で、楽しみな日

幾多の祭りの中でも

とりわけ特別なのが

"タナバタ祭り"

大きな御神輿に

不思議な歌を歌いながら練り歩く手踊り隊

狩衣と烏帽子を身に、大幣を振りながら歩く神主

荘厳な儀式とは対照的に

立ち並ぶ屋台と色鮮やかな短冊

子供の心をくすぐるには十分です。

奈那子

トウカ…?

奈那子

おーい

冬花

冬花

あっ…

冬花

ごめん、ぼーっとしてた

奈那子

ううん、ほら、早く準備しなきゃ

そうです。

私は今からタナバタ祭りに向かうのです。

ああ

人生を変えたあの日から

もう

8年

私は再び、

小学生時代へと想いを馳せる___

8年前

小学6年生だった頃

7月7日

奈那子

とーうか!

冬花

奈那子、どうしたの?

奈那子

お祭り!今日のタナバタ祭り!何時にどこに集合する?

冬花

うーん…そうだなぁ…

冬花

今日はお祭りが理由で2時には帰れるし…ちょっと早いけど、校門に3時とかどうかな

奈那子

わかった!

私は当時、タナバタ祭りがあまり好きではありませんでした。

楽しいのですが…楽しすぎるのが原因なのです。

その理由は…

担任

ほらほら!皆席に着いて!

担任

"帰りの会"を始めますよ!

担任

…さて皆さん、今日はタナバタ祭りですね

担任

タナバタ祭りに行く上での約束…分かっていますよね?

担任

担任

6時には祭り会場を後にして、7時の時点で必ず家にいること!

担任

これは12歳以下の子供、全員に共通するルールです!

理由はこれ。

他のお祭りなら6年生は8時までなら大丈夫なのに

タナバタ祭りだけ、早く帰らなければならなかったのです。

お祭りが楽しくて楽しくて

早く帰らなければいけないのが嫌でした。

担任

今日2時に下校できるのは、このルールのためです

担任

なので"必ず"守るように!!

担任

親御さんと一緒でもダメですよ!必ず6時には帰りなさい!

担任

あなた達は来年から長く遊べるんだから、今日までは我慢しなさいね!

口を酸っぱくして言うこの担任のことも嫌いでした。

なのでつい、

魔が差してしまったのかもしれません。

タナバタ祭り

奈那子

おじちゃん!イチゴ味1つ!

冬花

奈那子、買いすぎじゃない?

冬花

そんなに一度に食べたらお腹壊すよ〜

気がつけば、2人で回るはずだったのに、合流して男女数人になっていました。

男子が苦手な私は、それが少しだけ嫌だったことを覚えています。

奈那子

だって〜もう6時になっちゃうし…

奈那子

最後に楽しんでおかないと!

冬花

ふふ、そうだね

冬花

もう帰らなくちゃいけないのか…寂しいな

それならさ

もう少しいようよ

メンバーの中の誰かが

1人

そう呟いたように感じました。

冬花

えっ…でも

奈那子

ルールが…

大丈夫だって!

バレないバレない!

また。

奈那子

まぁ…そうだよね…?

冬花

そもそもなんでそんなルールがあるのか分からないし…

夜になったら、

火を使った演出があるんだって!

誰かの楽しそうな声。

冬花

…綺麗なんだろうな

奈那子

ね…

その時、時計は丁度6時を指しました。

寂しそうな顔をしながら、それぞれ帰路に着く小学生の姿がたくさん目につきます。

胸の高鳴り。

冬花

冬花

私、火の演出見たい…

奈那子

私も…もっとお祭り楽しみたい…!

そうこなくっちゃ!

奈那子

6年生と中学1年生って、あまり見た目わからないよね…?

冬花

た、多分…

奈那子

な、なら大丈夫だよね…!

奈那子

奈那子

冬花!さっき並んでてできやかった輪投げやりに行こう!

冬花

う、うん…!

冬花

あ、待って…!速いよ〜!

その日

私は生まれて初めてルールを破りました。

6時50分

放送「まもなく、橘田神社にてトーミョークヨーの儀式が始まります」

冬花

トーミョークヨーってなんだろう…

奈那子

わかんない…

奈那子

もしかして、例の火を使った演出なんじゃない?

奈那子

神社だって!急ごう!

冬花

あ、待って…!

冬花

冬花

やっぱり…いいのかな?

冬花

ほら、今から急いで帰れば7時には家に着くし…

大丈夫だよ!

もう決めたことだし、今更逃げるの?

誰かが放った言葉が胸に刺さりました。

冬花

そ、そんなつもりじゃ…

冬花

冬花

ううん、行こっか…

何だか嫌な予感がしていました。

でも、

それを口に出すことは出来ませんでした。

橘田神社

拝殿の前には既に大勢の人だかりができていました。

6時56分

6時57分

6時58分

6時59分

7時00分

7時になると同時に

炎が立ち上りました。

そこに再び大幣を持った神主が現れ、

手筒花火から火花が噴き上がりました。

炎に照らされ揺らめく色鮮やかな短冊。

その言葉に言い表せれない美しさに目を奪われました。

その時

教師

おい!!お前ら小学生だろ!!こんな時間に何やってるんだ!!

私達の小学校の名の入った腕章を付けた教師が、血相を変えて近づいてきました。

奈那子

やばい…!見回り!!

冬花

ど、どうしよ…!

こっち!!

逃げよ!!

誰かが私の腕を引っ張りました。

私達は夢中で逃げました。

あの時、大人しく先生に捕まっておけば……

失礼。今の言葉は撤回させてください。

7時3分

冬花

冬花

はぁ…はぁ…

冬花

あれ…?これって神社の本殿…?

冬花

…普段こんな所まで入れないはずなのにどうして…

奈那子

と、冬花…無事?

冬花

奈那子…!う、うん全然大丈夫…

冬花

で、でも逃げたりして大丈夫だったのかな…?

冬花

絶対明日怒られるよ…

7時4分

奈那子

だよね…誰かに引っ張られて無我夢中で走って…

奈那子

…ってあれ!?皆いないよ!?

冬花

ほ、本当だ…!はぐれたのかな…?

冬花

冬花

あ、そうだ奈那子…

冬花

ずっと聞きたかったんだけどさ…

7時5分

冬花

冬花

私達とずっと一緒にいた子達って誰なの…?知り合い?

奈那子

奈那子

え…!?全然知らないよ…?

奈那子

気がついたら一緒にいたから…冬花の知り合いだと思ってたんだけど…

冬花

そ、そんな…私も全く知らない子達だよ…!

奈那子

それじゃあ…一体私達は誰と…

警備員?

こんなところで何をしている?

冬花

きゃっ…!?

警備員?

悪いコは早く帰らないとダメだろ?

7時6分

奈那子

え……?

冬花

す、すみません…!迷い込んでしまって…

奈那子

そ、そうなんです…すみません…

警備員?

そうかそうか

警備員?

君達はいいコだね

警備員?

いいコは歓迎するよ

7時7分

警備員?

フフ…

警備員?

さァおいデ…

冬花

え…?なんで本殿を開

バン…!

私達は本殿の扉に引き込まれました。

トウカ…

冬花

奈那子

冬花!!

冬花

あっ…

奈那子

どうしたの…さっきからぼーっとしちゃって…

冬花

ごめん…

冬花

ちょっと色々…振り返ってた

冬花

ここに来た日のこと…とか

奈那子

奈那子

私、オトウサンとオカアサンにお礼言ってくる

奈那子

今まで…育ててくれてありがとうって

私達は、

8年前のお祭りの日から

オトウサンとオカアサンに育てられました。

オトウサンとオカアサンは

数百年前

この地で暮らしていました。

夫婦である2人は、なかなか子宝に恵まれませんでした。

結婚して7年後

やっと待望の第1子を出産しました。

出産から数年後

幸せだった家族に不幸が襲いかかりました。

2人に子供が産まれた年から、

村に何度も災いが降りかかっていました。

そして村の長は、オカアサンが子供を出産してから災いが立て続けに起きていることを疑問に思ったのです。

そして、根拠の無い悪い噂が広がりました。

「お前の子供は邪鬼の生まれ変わりだ!」

何度も嫌がらせを受けたそうです。

しかし、子供は真面目で利口ないい子でした。

そして、最悪の事態が起こりました。

2人の子供が「邪鬼」として、神への生贄になることになったのです。

オトウサンとオカアサンの必死の抵抗も虚しく、子供は殺されてしまいました。

2人は嘆き悲しみ、

憎みました。

神を

村を

自分達を。

守りきれなかった

大人になるまで育ててあげられなかった

オトウサンとオカアサンは後悔と憎しみを抱えながら心中し、

地縛霊となりました。

オトウサンとオカアサン、そして子供の祟りを恐れた村人は、

家族が暮らしていた家の跡地を

慰霊のために神社にしました。

名前はオトウサンとオカアサンの姓を取って

橘田(タチバタ)神社

そして、そこで供養のための祭りを開くことになりました。

祭りの名前は

タチバタ祭り

今、村にあるタナバタ祭りは、元々の名前はタチバタ祭りだったのです。

橘田家の悲劇は時代を追うごとに人々の記憶から消えて行き、

家族の命日が七夕の7月7日であったこと、

祭りの名前が"タチバタ祭り"で、"タナバタ"とよく似ていたことが原因で

気がつけば

慰霊のために行われていた"タチバタ祭り"は

短冊と屋台で溢れた

"タナバタ祭り"になっていました。

しかし、本来の目的である慰霊は、まだ続いています。

それが、あの火の演出の灯明供養です。

オトウサンとオカアサンは、まだ後悔と憎しみを抱いたままです。

だから、

やり直そうとしているのです。

2人が心中した7時7分

この時間にまだお祭りにいる12歳以下の幼い子供を、

2人はさらっていました。

強い強い怨念の力で。

学校が、あれほどしつこく

「6時に帰れ」

と言っていたのは、

この言い伝えのためでした。

私達は、オトウサンとオカアサンのやり直しの育児のために8年間も閉じ込められていました。

本殿の前で会った謎の人物…

今となってはオトウサンが乗り移った人物だと知っていますが。

あの人が言っていた

「いいコは歓迎する」

あれは真面目でいい子だった本当の我が子に少しでも近い子を育てたかったのでしょう。

だから彼は

要らない悪いコには早く帰ってほしかったのです。

そして、

今日

私達は

要らないコになります。

さらわれてからもう8年

私達は成人してしまったのです。

オトウサンとオカアサンにとって、大人になってしまった私達はもう要りません。

だから今日のお祭りで、私達はここから出ていくのです。

冬花

よし

私は真っ白な装束を身に包みました。

神主さんが持ってきてくれた物です。

着方を直接教わったわけではありませんが、

他の子供が旅立つ時に着ているところを見ているうちに覚えてしまいました。

その子供の中には、あの日お祭りを共にし、私達をここへと導いたあの子達も含まれています。

冬花

奈那子、私準備出来たよ

奈那子

私も

冬花

心の準備も

奈那子

…うん

冬花

そろそろ神主さん来るかな

奈那子

冬花

奈那子…?

奈那子が私に抱きついてきました。

奈那子

私達の人生って…一体なんだったんだろうね

冬花

…うん

冬花

私達はオトウサンとオカアサンに親孝行しなきゃいけないんだよ

冬花

2人の望み通りにしなきゃ

答えになっていないのは分かっています。

ごめんね、奈那子。

その答えは私にもわかりません。

扉が開く音がしました。

「村の平和のためです…」

そう呟いた神主さんは、私達に液体をかけました。

そして、私達は木で組み立てられた箱の中に入り、運ばれていきます。

私達はオトウサンとオカアサンにとってももう要らないコだし、

人間の世界にとっても面倒くさい存在です。

だから、

消えるしかないのです。

8年前と同じざわめきが聞こえてきました。

6時55分

6時56分

6時57分

6時58分

6時59分

奈那子の冷たい手を握ります。

7時00分

私達の命は、炎と共に儚く散りました。

オトウサンとオカアサンの供養と、村の平和のために。

あなたの町のお祭りは

本当にタノシイものですか?

この作品はいかがでしたか?

1,387

コメント

20

ユーザー

怖ぃぃぃぃぃぃぃぃ

ユーザー

初めの数タップからどんどん惹き付けられて、なんかもう凄いですね!! (語彙力皆無)

ユーザー

怖い…

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚