僕は花で、忌み子だ
僕
売り物は大切にしなくてはいけない
そう教えられてきた
僕
こんな物を愛でるなんて、物好きも随分と多いようだ
枯らしてしまえばいっそ楽だろうか
産まれたのはごく一般的な家庭…では非常に、本当に残念ながら無かった
父上
奇怪な瞳の色は一族とはかけ離れていて
僕の不幸はここから始まった
物心がついた頃には、母上共々ある程度の広さがある座敷牢で暮らしていた
僕
母上
母上は僕のことを愛さなかった
僕を産まなければ、僕を作らなければ。そんな例え話をいつも口にする
母上
僕ではなくて、売り物を大事にしていた
僕
売り物をまるで昔一度だけ見掛けた宝石のように扱う母上が時々、気持ち悪く感じる
母上
希望はとっくに砕け散った
僕の仕事は花売りだ
女性が客も居るが、男性がよく訪れる
僕
僕を見た人は最初に必ず驚く
客曰く、あの一族とは思えない程美しくて珍しい姿をしているらしい
僕
客
僕
今の客みたいに遊ぶ人もいれば、ただただ満足するまで僕を着飾る人もいる
客
いつもみたいに遊んでいると、客が声を上げた
僕
客
僕
まだこれは蕾に過ぎない。ちゃんと売れるようになるには咲いてなくてはいけない
僕
客
僕
お客様を逃さないのは大切だ
時にルビーのような熱を向けられ、時にサファイアのような目で品定めをされるこの仕事では
父上
僕
満足気な客は貰った花をさして気にせずに帰っていった
僕
こんな所から、逃げたい
見た目が違うだけなのに、どうしてここまで蔑まれなければいけないのか
良く言えば伝統的、悪く言うなら時代遅れな一族は僕を気味悪がった
僕
この仕事は嫌いだ
商売の為に売り物の花を整えて、したくもない客の相手をする
こんな花いっそ…
僕
なら、簡単じゃないか
こんな見た目でも僕は男
身の回りを見るのは女性なのだから、力では勝つことができる筈
僕
ここで幸福と希望を求めるのは大間違いだ
母上
煩わしい悲鳴が薄暗い部屋に鳴り響いた
女
面倒を見る女が焦ったような声を出しながら走ってくるのが分かる
女
女の上げようとした大声を物陰から飛び出した僕は力の限り殴って止める
筋肉がついていない貧相な身体である為か疲れたが、何もかも今更だ
僕
可憐な花はもう終わり
僕は立派な毒花だ
鬱蒼とした木々を掻き分けて風になる
僕の目に浮かび上がっては流れる雫は達成感か、もう叶わぬ願望への諦めか
僕
誰も僕を知らぬ場所へ
いっそ彼岸でも構わない。知らない僕を枯らしてくれるところを
僕
花を醜いと言った父上が
花を宝石の如く包んだ母上が
花を弄んだ常連客が
僕
気づけば何処かにいた
何処かは分からない。だって何処かなのだから
僕
かつて求めた夢も希望も幸福は
所詮、現実で絶望で不幸だ
僕
目の前のベンチに寝転がる
何も考えたくはなかった
僕
僕が目覚めた時、そこは座敷牢ではなかった
僕
最初、夢かと思った
記憶が正しければ、僕は泥まみれの和服でベンチに寝転んでいた筈で
僕
わざわざ長くしていたロングヘアは一つに結ばれ、商売用の和服は洋服になっていた
僕
あそこに居た時は絶対に着せてもらえなかった代物だ。せいぜい客が着ていたくらいか
考えていると扉をノックする音が聞こえた
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
優しい瞳が僕を見つめていた
僕を知らない人が、枯れ果てた花を埋葬している
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人は年配の女性であることが見て取れる
僕
僕にはそのような存在は居なかった。もう亡くなっていたと風の噂では聞いたが
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
女性は僕によくしてくれた
服も食事もお風呂も…まるで愛されているような錯覚に陥りそうであった
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
僕
保護してくれた人
この人は売り物だから早く寝かせてくるわけじゃない
僕を思っているのだ
翌朝、僕は皿を一心不乱に洗い続けた
保護してくれた人
僕
僕のお世話をしてつつ家事をこなすのは流石にキツかったらしい
洗われていない皿がシンクに置いてあった
僕
やったことなくても少しは力になりたい僕は、やり方を教わってお手伝い中だ
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
僕
僕は一瞬考えた
苗字まで言ったら僕の正体を知られるかもしれない。最悪連れ戻される可能性もある
僕
保護してくれた人
口だけの拘束性のない約束は信用できないと僕は身を持って知っている
けれど、僕はあっさりとその人を信じた
僕
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
何だか女性の表情は悲しいとも言えない感情を推し量るのが困難な表情をしている
僕
保護してくれた人
僕
僕は今までに無いほど驚いた
名前に関しては「灰石の名を持ちながら…」と僻まれ恨まれした記憶しかない
僕
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
隣の女性の勢いは真剣そのものだった
僕
保護してくれた人
僕の頭を優しく撫でる
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
埋葬された花から新たな芽が芽吹いた
僕は何年もの間、この家で暮らし始めた
過去が風化していく度に、あの時の願望が叶っているような気がして
一生続けば良いと思った
僕
でも、現実は甘くなかった
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
当時から年配だった女性に死神がどんどん僅かに、でも確実に近づいている
もう、目の前まで迫っていた
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
あまりにも衝撃的だと声すら出ないらしい
僕の喉は役割を放棄していた
僕
微かな一声がやっと溢れる
保護してくれた人
そこから知る過去は壮絶なものであった
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
僕
忌み子。不義で産まれた子。それはむしろ…父上の方だというのか?
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
今まで見せたことない悲痛な表情は僕の心に激しい痛みを覚えさせる
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
僕
僕
優しい身内など幻想だと思っていた
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
僕
祖母はゆっくりと瞬きすると、いつもの優しげな瞳で僕に語りかける
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
保護してくれた人
僕
僕
保護してくれた人
保護してくれた人
お婆ちゃんの目は潤んでいた
保護してくれた人
僕
保護してくれた人
僕
僕は最愛のお婆ちゃんを喪った
僕
再び芽吹いた希望はゆっくり萎れて
枯れた
コメント
8件
更新早すぎて嬉しい!!待ってました!✨ うちの子の過去だぁぁぁぁぁぁ!! 私が所々過去を設定してると言っても、これは救いがないですね、、、 花売りはアレか、、、うちの子の純粋な心は荒れてしまったァ、、、 酷い親族の元から命からがら逃げ出して、お婆ちゃんと幸せに暮らして行ってもそれを失ってしまうなんて、、、 しんどすぎる要素が詰め込まれてますねぇ、確かにこれはトップクラスで生々しくしんどい過去!!
花売り、花売り、、あ、ぁ、、、(察) レパール君、過去にあまりにも救いが無さすぎる、、、 幼少期に親族から虐待受けて、花売(意味深)って、やっと優しくしてくれる人が現れたかと思いきやその人は間も無く亡くなり、、、 人生ハードモードってレベルじゃ無いですねこれ しかも保護してくれた人が実の祖母で、言い方悪いですが、不倫の果てに父が生まれ、隔世遺伝で特異な外見で生まれ、忌み子扱いだったと…
読んで下さりありがとうございます。作者のぬんです。 参加者の中で一番生々しい話となっています。 一応直接的な描写は伏せましたが…バレバレかもしれませんね。 もしわかっていないなら…ヒントです レパール=花 レパールの仕事は花売り つまり…そういうことです。