TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

必ず死に至る病

一覧ページ

「必ず死に至る病」のメインビジュアル

必ず死に至る病

7 - 3話「可憐な花は枯れたがり」

♥

1,200

2025年04月11日

シェアするシェアする
報告する

僕は花で、忌み子だ

(花は綺麗でなくてはいけない)

売り物は大切にしなくてはいけない

そう教えられてきた

そろそろ仕事だ…

こんな物を愛でるなんて、物好きも随分と多いようだ

枯らしてしまえばいっそ楽だろうか

産まれたのはごく一般的な家庭…では非常に、本当に残念ながら無かった

父上

何だ…この目は…?

奇怪な瞳の色は一族とはかけ離れていて

僕の不幸はここから始まった

物心がついた頃には、母上共々ある程度の広さがある座敷牢で暮らしていた

母上

母上

呼ばないでちょうだい。貴方さえ産まれなければ…!

母上は僕のことを愛さなかった

僕を産まなければ、僕を作らなければ。そんな例え話をいつも口にする

母上

明日も仕事よ。ちゃんと整えなさい

僕ではなくて、売り物を大事にしていた

(僕だって…)

売り物をまるで昔一度だけ見掛けた宝石のように扱う母上が時々、気持ち悪く感じる

母上

醜い貴方を活かす方法なんだから

希望はとっくに砕け散った

僕の仕事は花売りだ

女性が客も居るが、男性がよく訪れる

いらっしゃいませ

僕を見た人は最初に必ず驚く

客曰く、あの一族とは思えない程美しくて珍しい姿をしているらしい

今日は何にしますか?

いつも通りで

かしこまりました

今の客みたいに遊ぶ人もいれば、ただただ満足するまで僕を着飾る人もいる

…ねぇ

いつもみたいに遊んでいると、客が声を上げた

ん…どうしましたか?

いつになったら本格的に遊べるんだい?

……

まだこれは蕾に過ぎない。ちゃんと売れるようになるには咲いてなくてはいけない

まだ…あと1年くらいですかね

そうか。じゃあ気長に待っているよ

ありがとうございます

お客様を逃さないのは大切だ

時にルビーのような熱を向けられ、時にサファイアのような目で品定めをされるこの仕事では

もう1時間だね…今日は帰るよ

ありがとうございました。次回もお待ちしております

満足気な客は貰った花をさして気にせずに帰っていった

…はぁ

こんな所から、逃げたい

見た目が違うだけなのに、どうしてここまで蔑まれなければいけないのか

良く言えば伝統的、悪く言うなら時代遅れな一族は僕を気味悪がった

(おかげで僕はこんな目に)

この仕事は嫌いだ

商売の為に売り物の花を整えて、したくもない客の相手をする

こんな花いっそ…

…そうだ

なら、簡単じゃないか

こんな見た目でも僕は男

身の回りを見るのは女性なのだから、力では勝つことができる筈

(何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう)

ここで幸福と希望を求めるのは大間違いだ

母上

キャァァ!!

煩わしい悲鳴が薄暗い部屋に鳴り響いた

どうされましたか!?

面倒を見る女が焦ったような声を出しながら走ってくるのが分かる

血…!?御主人さっ…

女の上げようとした大声を物陰から飛び出した僕は力の限り殴って止める

筋肉がついていない貧相な身体である為か疲れたが、何もかも今更だ

綺麗な薔薇には棘があるんですよ…

可憐な花はもう終わり

僕は立派な毒花だ

鬱蒼とした木々を掻き分けて風になる

僕の目に浮かび上がっては流れる雫は達成感か、もう叶わぬ願望への諦めか

(もっと…!もっと…!)

誰も僕を知らぬ場所へ

いっそ彼岸でも構わない。知らない僕を枯らしてくれるところを

(許さない)

花を醜いと言った父上が

花を宝石の如く包んだ母上が

花を弄んだ常連客が

(誰も彼も憎い…!)

気づけば何処かにいた

何処かは分からない。だって何処かなのだから

(僕はどうなりたかった)

かつて求めた夢も希望も幸福は

所詮、現実で絶望で不幸だ

…はぁ

目の前のベンチに寝転がる

何も考えたくはなかった

…んぅ

僕が目覚めた時、そこは座敷牢ではなかった

ここは…

最初、夢かと思った

記憶が正しければ、僕は泥まみれの和服でベンチに寝転んでいた筈で

誰が…

わざわざ長くしていたロングヘアは一つに結ばれ、商売用の和服は洋服になっていた

これが洋服…

あそこに居た時は絶対に着せてもらえなかった代物だ。せいぜい客が着ていたくらいか

考えていると扉をノックする音が聞こえた

保護してくれた人

目は覚めた?

もしかして貴方が…

保護してくれた人

散歩をしていたら偶然見かけてねぇ…

保護してくれた人

可哀想だと思って保護したのよ

…ありがとうございます

優しい瞳が僕を見つめていた

僕を知らない人が、枯れ果てた花を埋葬している

保護してくれた人

いいのよ…お腹空いたでしょう?

保護してくれた人

ご飯持ってくるわね…

保護してくれた人は年配の女性であることが見て取れる

(祖母、か…)

僕にはそのような存在は居なかった。もう亡くなっていたと風の噂では聞いたが

保護してくれた人

持ってきたよ

保護してくれた人

たんとお食べ

いただきます

女性は僕によくしてくれた

服も食事もお風呂も…まるで愛されているような錯覚に陥りそうであった

保護してくれた人

もう遅いから寝ましょうか

保護してくれた人

体調を崩したら大変だからねぇ

…はい

おやすみなさい

保護してくれた人

おやすみ

この人は売り物だから早く寝かせてくるわけじゃない

僕を思っているのだ

翌朝、僕は皿を一心不乱に洗い続けた

保護してくれた人

皿洗い手伝ってくれてありがとうねぇ

いえ…これくらい恩返しとしてやらせてください

僕のお世話をしてつつ家事をこなすのは流石にキツかったらしい

洗われていない皿がシンクに置いてあった

(むしろ…楽しい)

やったことなくても少しは力になりたい僕は、やり方を教わってお手伝い中だ

保護してくれた人

聞きたいことがあるのだけど…良いかしら?

内容によってですが…勿論

保護してくれた人

名前、聞いても良い?

……

僕は一瞬考えた

苗字まで言ったら僕の正体を知られるかもしれない。最悪連れ戻される可能性もある

…誰にも言いませんか

保護してくれた人

当然だよ

口だけの拘束性のない約束は信用できないと僕は身を持って知っている

けれど、僕はあっさりとその人を信じた

僕は灰石燐(はいせき りん)…です

保護してくれた人

灰石…

…知っているんですか?

保護してくれた人

いや…そんなことより

何だか女性の表情は悲しいとも言えない感情を推し量るのが困難な表情をしている

…何でしょう?

保護してくれた人

その名前…好きかい?

僕は今までに無いほど驚いた

名前に関しては「灰石の名を持ちながら…」と僻まれ恨まれした記憶しかない

好きでは…ないです

保護してくれた人

なら…変えないかしら?

変える…

保護してくれた人

少しは嫌なこと忘れられるかもしれないね

隣の女性の勢いは真剣そのものだった

変えたい…です

保護してくれた人

よく言えたね

僕の頭を優しく撫でる

保護してくれた人

今日から名前は…レパールだよ

レパール…

保護してくれた人

どうだい?

…今日から僕はレパールとして生きます

保護してくれた人

気に入ってくれたようで良かったよ

埋葬された花から新たな芽が芽吹いた

僕は何年もの間、この家で暮らし始めた

過去が風化していく度に、あの時の願望が叶っているような気がして

一生続けば良いと思った

…そんな

でも、現実は甘くなかった

保護してくれた人

…ごめんねぇ

あんなに元気だったんです…!まだ…!

保護してくれた人

もう…私は長くはないのよ

当時から年配だった女性に死神がどんどん僅かに、でも確実に近づいている

もう、目の前まで迫っていた

保護してくれた人

レパールにね…言わなきゃいけないことがあるの

僕に…?

保護してくれた人

私はね…レパールのお婆ちゃんなんだよ

あまりにも衝撃的だと声すら出ないらしい

僕の喉は役割を放棄していた

……え

微かな一声がやっと溢れる

保護してくれた人

私はレパールのお父さん…灰石家の現当主の母親なのよ

そこから知る過去は壮絶なものであった

保護してくれた人

私は遠い国の人と子供を作った…

保護してくれた人

知られたら子供を殺されるか中絶の二択だったわ

保護してくれた人

でも私は隠し通した

保護してくれた人

そして産まれた子も私に似ていたからバレることはなかったわ

保護してくれた人

…不幸なことに遠い国の人は死んでしまったけれど

じゃあ…僕がこの姿なのは…

忌み子で呪われているからじゃなくて、隔世遺伝…

忌み子。不義で産まれた子。それはむしろ…父上の方だというのか?

保護してくれた人

まさしくその通りよ…

保護してくれた人

産まれたレパールを殺される訳にはいかなかったわ

保護してくれた人

だから、レパールのお父さんに…息子に全て明かしたの

保護してくれた人

出生の秘密を…

今まで見せたことない悲痛な表情は僕の心に激しい痛みを覚えさせる

保護してくれた人

そしたら…取り乱しちゃって

自分が家風に反する血を持っていることに…ですか

保護してくれた人

えぇ…私がそれを公言する前に追い出されたわ

風の噂では…僕の祖母は死んでいたと聞きましたが…

ここに居たんですね

優しい身内など幻想だと思っていた

保護してくれた人

レパールを一目みて孫だと悟ったわ

保護してくれた人

だからこうやって保護して…生活してきた

保護してくれた人

でも…もう私はレパールと一緒に居られないわ…

僕は…こうやって暮らすことに安らぎを感じていました

終わって…しまうんですね

祖母はゆっくりと瞬きすると、いつもの優しげな瞳で僕に語りかける

保護してくれた人

レパール…その名前はね

保護してくれた人

レパールのお祖父ちゃんが死ぬ前に考えた名前なのよ

保護してくれた人

元々は息子に付ける予定だったのだけど…

保護してくれた人

当主になる息子には付けれなかったから…

僕…この名前とこの見た目が…今は好きです

昔は売り物だったことすらどうでも良く思える…!

保護してくれた人

きっとレパールにはたくさん苦労させたねぇ…

保護してくれた人

また…苦労させちゃうよ

お婆ちゃんの目は潤んでいた

保護してくれた人

ごめんねぇ…レパール…

そんなこと言わないで…お婆ちゃん

保護してくれた人

愛してるよ…

お婆ちゃん!

僕は最愛のお婆ちゃんを喪った

僕を…置いていかないで

再び芽吹いた希望はゆっくり萎れて

枯れた

この作品はいかがでしたか?

1,200

コメント

8

ユーザー

更新早すぎて嬉しい!!待ってました!✨ うちの子の過去だぁぁぁぁぁぁ!! 私が所々過去を設定してると言っても、これは救いがないですね、、、 花売りはアレか、、、うちの子の純粋な心は荒れてしまったァ、、、 酷い親族の元から命からがら逃げ出して、お婆ちゃんと幸せに暮らして行ってもそれを失ってしまうなんて、、、 しんどすぎる要素が詰め込まれてますねぇ、確かにこれはトップクラスで生々しくしんどい過去!!

ユーザー

読んで下さりありがとうございます。作者のぬんです。 参加者の中で一番生々しい話となっています。 一応直接的な描写は伏せましたが…バレバレかもしれませんね。 もしわかっていないなら…ヒントです レパール=花  レパールの仕事は花売り つまり…そういうことです。

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚