TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

小切りの歪

一覧ページ

「小切りの歪」のメインビジュアル

小切りの歪

1 - 『小切り村』

2021年12月18日

シェアするシェアする
報告する

高校2年の夏。

わたし、井川 深織(いがわ みおり)は夏休みを使って故郷へ帰省した。

親の都合で中学生の時に東京へ引っ越して以来、初めての帰省だから少し緊張してる。

だけどそれと同じくらい ワクワクもしていた。

だって、大好きな3人の幼なじみが

故郷『小切り村』で 待っていてくれてるから──

深織

わぁ、なつかしい

無人駅をおりて、数十分。

目的地にたどり着けば 見慣れた看板とともに

なにも変わらない風景が 視界いっぱいに広がっていた。

深織

『小切り村』

深織

わたしの第一の故郷!

深織

ただいま!

すーっと大きく息を吸って それから吐き出す。

小切り村は某県の辺境にある 小さな村。

山と田んぼと虫だらけの田舎だけど それこそがこの村の魅力。

わたしはこの大自然が 恋しくてたまらなかったのだ。

朝飛

姉ちゃん

深織

朝飛(あさひ)!

深織

もう、遅いぞ~

朝飛

姉ちゃんが速いんだろーが

朝飛

ちょっとは弟のこと考えるって脳はないのかよ

わたしの2倍ほどの荷物を抱えてこちらに走ってくるのは 一つ下の弟、朝飛。

生意気で口は悪いけど、 けっこうかわいいやつだ。

深織

ごめんごめん

深織

やっと帰って来れたと思うと浮き足立っちゃって

深織

ほら、荷物かして

深織

朝飛、家出てからずっと重い方の荷物持ってくれてるじゃん

深織

お姉ちゃんが交代してあげる

朝飛

いいよべつに

朝飛

こういうのは俺の仕事だろ

朝飛

父さんも母さんも来れなくなっちまったし

朝飛

こんな大量の土産、俺ら2人で持っていけって言う方が無理なハナシだよな

そう。わたしと朝飛が抱えている荷物の大半が、村へのお土産。

この村にスイーツ店なんてオシャレなものはないから

せっかくだしお土産にと 両親に頼まれたのだ。

深織

お父さんとお母さん、一緒に来れなくて残念だったね

朝飛

ほんとだよ

朝飛

おかげでこんなバカ重たい荷物運ばされる羽目になった

深織

もー文句ばっかり

深織

朝飛は無理して着いてこなくてもいいよって言ったじゃん

深織

わたし一人で来れたのに

朝飛

バカ姉貴

朝飛

こんなとこ一人で行かせられるかよ

深織

なによ

深織

こんなとこって

深織

カンジ悪い言い方だなー

朝飛

うるせーな

朝飛

田舎への帰省だって、正直反対だったんだからな

朝飛

とにかく

朝飛

俺は姉ちゃんが心配なんだよ

深織

朝飛…

朝飛はなぜか昔から この村を嫌っていた。

理由を聞いても頑なに教えてはくれなくて。

去年、わたしが「帰省したい」と 言い出した時も

まっさきに否定したのは 朝飛だった。

それからというもの

なかなか首を縦にふってくれない朝飛をどうにか説得し

今年の夏。ようやく帰省まで 漕ぎ着けたのだった。

けど両親は仕事が忙しくまとまった休みが取れなかったため

わたしと朝飛2人だけの帰省となった。

深織

ねぇ、朝飛

深織

何度もきいてるけどさ

深織

どうしてそこまで村を嫌うの?

朝飛

…………

深織

空気もおいしいし、自然も豊かだし

深織

たしかに不便な部分は多いけどさ

深織

あったかい人たちばかりじゃない

朝飛

…………

朝飛

……そう、だよな

朝飛

姉ちゃんはそう感じるよな

深織

え?

朝飛

なんにも分かってないんだよ、姉ちゃんは

朝飛の顔つきが変わった。

朝飛

この村の……いや

朝飛

この村の人間の気持ち悪さを

朝飛

姉ちゃんはなんも分かってない

深織

気持ち……悪さ

深織

どういうこと…?

朝飛

それはいずれ分かるよ

深織

なにそれ

朝飛

姉ちゃんに一つ言っとく

朝飛

村へ入ったら、おそらく俺は姉ちゃんのことを守ってやれなくなると思う

深織

……?

朝飛

きっとアイツらは姉ちゃんにまとわりついてくるから

朝飛

俺が近づける隙はない

朝飛

だから姉ちゃん

朝飛

なにがあっても、全部一人で乗り越えるんだぞ

朝飛

油断は禁物だからな

深織

あ、朝飛……

深織

言ってる意味がわからないよ…

朝飛

分からないまま帰れるといいな

朝飛

お互い、無事でさ

深織

……なに、それ

朝飛

ほら行こう

朝飛

きっと村のやつら待ってるよ

朝飛

姉ちゃんが大好きな

朝飛

3人の幼なじみたちもさ

朝飛は最後まで言葉を濁し

せっせと歩いていってしまった。

一方、わたしの心には

朝飛の不穏な言葉たちが もわもわと残り続けのだった。

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚