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君と夏

20 - 番外編 少年達の生き様

♥

320

2024年12月20日

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一人が怖い。あの日から

呼び出した子

私ね、紅君が好きなの

告白を受けて嬉しかった。他人からの好意は別に嫌いじゃないから

「はい」とは言えなかったけれど

でも告白を機に嫌がらせしてきた奴がいたんだ。最初は馬鹿らしいと無視していた

(流石に…)

けれど、どんどんエスカレートしていく行動に僕は耐えられなくなってしまった

(僕の痛みを思い知れ!)

感情まかせに殴った後、クラスには悲鳴が波紋のように広がったのを覚えている

その後は深夜のような静けさが場を包んだ

(怒られるのかな)

昼休みが終わって先生に教室外へ連れて行かれる時、聞き慣れた声が微かに聞こえた

どうして…紅が…

震えた声に罪悪感を覚えたのは今でもはっきり記憶に焼き付いている

僕は諦めていた。恨みを晴らせただけで十分だと思い込んでいた

でも、朔の言葉で考えは変化した

馬鹿野郎!一番辛かったのは紅だろ !

俺もあいつもクラスの奴らもお前に責められたって文句は言えないんだぞ!

何にも悪くないだろ!あいつが被害者ヅラするのは一番駄目だろ!

頼む紅…!助けられないかった俺の贖罪でもあるんだ!

(朔…君は…)

自分の事を大事に思ってくれる親友が近くにいたのに頼らなかった己の浅ましさか、涙が溢れた

結局、朔の言葉に背中を押されて先生に真実を告発した

相手に謝ってもらい、親友の頼もしさを改めて認識出来てようやく一件落着

(って思ってたけど)

どうやら現実はそう簡単にはいかないらしい

人を殴ったという事実は、相手が悪くとも無意識であろうクラスメイトの視線が物語っていた

(視線が痛い…)

どこか冷たい視線が、怖がるような視線が僕を蝕む

そんな雰囲気を吹き飛ばすのは、いつだって朔だった

紅!ドッチボール混ざりに行こうぜ!

朔…うん!

朔が居ない日は心が荒んだけれど、必死に隠して孤独に怯えた

特段、友達が多いわけでは無かった僕はひとりぼっちを心から怯えるようになってしまった

(もし、朔に見捨てられたら…)

感情的になっちゃダメだ…

感情を上手くコントロール出来なければ他人を傷つけて周囲に距離を取られてしまうから

抑えるんだ。皆の為に

口に出せない、ささやかなワガママ

はぁー…

部活で、これでもかとしごかれた俺は疲れてベッドに沈み込んでいた

腹減った…

今の俺は腹が凹んでいるんじゃないかと思うくらい空腹で死にそうになっている

もうそろそろ母ちゃんが夕食の呼び出しをするはずだ

(それまで耐えろ…俺!)

食欲と闘っていると、下の階から声が聞こえた

母ちゃん

朔〜!

母ちゃん

夕食だから早く来なー!

はーい!

ようやく空腹から解放される時が来た

…今日は手作りだと良いな

心に隠した僅かな虚しさが滲むのは無視すると昔から決めている

(こんなの、くだらないワガママに過ぎないから)

嫌いでは無いけれど、もうとっくに飽きたコンビニ飯では無いことを祈った

一階へ下りると母ちゃんがテーブルに次々と料理を並べていた

母ちゃん

今日はカレーだよ

母ちゃん

冷める前に食べちゃいな!

へーい

どうやら手作りのようで言いようのない嬉しさが心の中を満たしている

いただきます!

母ちゃん

召し上がれ

食欲を誘う香りにとうとう限界が来た俺はカレーにがっつき始め、瞬く間に皿は空っぽになってしまった

おかわり!

一杯だけでは運動盛りの男子学生の胃には足りないのですぐに俺は母ちゃんにおかわりを要請する

母ちゃん

そう言うと思って準備済みよ〜はいどうぞ!

ありがとっ!

どうやら母ちゃんはおかわりを察知していたようだ

(流石母ちゃん)

そう思いつつ、胃袋にカレーを収めて久しぶりの手作り料理を堪能することにした

俺には周りに言えない苦悩がある

毎日じゃなくても良いから飯作って欲しいなんてな

皆と比べたらしょうもない悩みなんだよな…

でも本当に、少しだけ。寂しく思うのだ

悲しく思うのだ

共働きで母ちゃんが忙しいの誰よりも知ってる筈なのにな…

腹は満たされても、心まで満たされるとは限らない

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