透
暗い、という感覚が怖いのだと知ったのは、
それが逃げ場を奪うものだと理解した瞬間だった。
物置の扉が閉まる音は、ひどく軽かった。
ガタン、という乾いた音だけで、世界は簡単に切り離される。
それが逃げ場を奪うものだと理解した瞬間だった。
物置の扉が閉まる音は、ひどく軽かった。
ガタン、という乾いた音だけで、世界は簡単に切り離される。
いじめっ子
「ちょっと頭冷やせよ」
透
笑い声が遠ざかる。
鍵が掛かる音はしなかった。
けれど、夜凪透はそれが不要だと知っていた。
ここから出してもらえるかどうかは、外にいる彼らの気分次第なのだから。
息を吸う。
湿った埃の匂いが肺に入り、喉がひくりと引きつる。
暗い。
明かりがない。
どれだけ目を開けても、何も見えない。
鍵が掛かる音はしなかった。
けれど、夜凪透はそれが不要だと知っていた。
ここから出してもらえるかどうかは、外にいる彼らの気分次第なのだから。
息を吸う。
湿った埃の匂いが肺に入り、喉がひくりと引きつる。
暗い。
明かりがない。
どれだけ目を開けても、何も見えない。
透
「……っ」
指先が震え始める。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせようとして、声が出ないことに気づいた。
思い出してしまう。
腕に押し付けられた、火のついたタバコ。
じゅ、と皮膚が焼ける音。
煙の匂いと、笑い声。
指先が震え始める。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせようとして、声が出ないことに気づいた。
思い出してしまう。
腕に押し付けられた、火のついたタバコ。
じゅ、と皮膚が焼ける音。
煙の匂いと、笑い声。
いじめっ子
「ほら、消えねーじゃん」
透
その声が、暗闇の中で蘇る。
胸が苦しい。
息を吸っているはずなのに、空気が足りない。
――息が、できない。
壁に背中を預けて、透はその場にしゃがみ込んだ。
膝を抱え、額を押し付ける。
誰かを呼ぼうとして、喉がひきつった。
助けて。
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
どうせ、誰も来ない。
呼んだって、意味がない。
だから声を殺す。
呼吸は浅く、早くなり、
視界はもともと真っ暗なのに、さらに狭まっていく気がした。
時間がどれくらい経ったのかは分からない。
長かったような、短かったような、
ただ、永遠に続くような感覚だけが残った。
扉が開いたのは、透がもう、
「ここから出たい」と思うことすら諦めかけた頃だった。
胸が苦しい。
息を吸っているはずなのに、空気が足りない。
――息が、できない。
壁に背中を預けて、透はその場にしゃがみ込んだ。
膝を抱え、額を押し付ける。
誰かを呼ぼうとして、喉がひきつった。
助けて。
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
どうせ、誰も来ない。
呼んだって、意味がない。
だから声を殺す。
呼吸は浅く、早くなり、
視界はもともと真っ暗なのに、さらに狭まっていく気がした。
時間がどれくらい経ったのかは分からない。
長かったような、短かったような、
ただ、永遠に続くような感覚だけが残った。
扉が開いたのは、透がもう、
「ここから出たい」と思うことすら諦めかけた頃だった。
いじめっ子
「まだ生きてた?」
透
その言葉に、反応できなかった。
息をすることだけで、精一杯だった。
息をすることだけで、精一杯だった。
透
それから透は、
暗い場所に長くいられなくなった。
夜、部屋の電気を消すと、胸がざわつく。
少しでも煙の匂いがすると、反射的に距離を取る。
暗い場所に長くいられなくなった。
夜、部屋の電気を消すと、胸がざわつく。
少しでも煙の匂いがすると、反射的に距離を取る。
透
理由を説明する相手はいない。
説明したところで、どうにもならないと知っている。
だから透は、何もなかったふりをした。
説明したところで、どうにもならないと知っている。
だから透は、何もなかったふりをした。
透
傷は服で隠せばいい。
震えは、気づかれなければ問題ない。
そうやって、
中学を卒業した。
震えは、気づかれなければ問題ない。
そうやって、
中学を卒業した。
透
高校の校門をくぐる朝。
春の空気はやけに明るくて、透は少しだけ目を細めた。
ここでは、誰も自分を知らない。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になる気がした。
――そう思っていた。
春の空気はやけに明るくて、透は少しだけ目を細めた。
ここでは、誰も自分を知らない。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になる気がした。
――そう思っていた。
透
この場所で、
また誰かに息を握られることになるなんて、
この時の透は、まだ知らなかった。
また誰かに息を握られることになるなんて、
この時の透は、まだ知らなかった。






