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暗がりで息をする

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暗がりで息をする

2 - 第0話 暗がりで息をする

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2026年01月21日

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暗い、という感覚が怖いのだと知ったのは、
それが逃げ場を奪うものだと理解した瞬間だった。

物置の扉が閉まる音は、ひどく軽かった。
ガタン、という乾いた音だけで、世界は簡単に切り離される。

 いじめっ子

「ちょっと頭冷やせよ」

笑い声が遠ざかる。
鍵が掛かる音はしなかった。
けれど、夜凪透はそれが不要だと知っていた。
ここから出してもらえるかどうかは、外にいる彼らの気分次第なのだから。

息を吸う。
湿った埃の匂いが肺に入り、喉がひくりと引きつる。

暗い。
明かりがない。
どれだけ目を開けても、何も見えない。

「……っ」

指先が震え始める。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせようとして、声が出ないことに気づいた。

思い出してしまう。

腕に押し付けられた、火のついたタバコ。
じゅ、と皮膚が焼ける音。
煙の匂いと、笑い声。

 いじめっ子

「ほら、消えねーじゃん」

その声が、暗闇の中で蘇る。

胸が苦しい。
息を吸っているはずなのに、空気が足りない。

――息が、できない。
壁に背中を預けて、透はその場にしゃがみ込んだ。
膝を抱え、額を押し付ける。
誰かを呼ぼうとして、喉がひきつった。

助けて。

そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
どうせ、誰も来ない。
呼んだって、意味がない。

だから声を殺す。

呼吸は浅く、早くなり、
視界はもともと真っ暗なのに、さらに狭まっていく気がした。

時間がどれくらい経ったのかは分からない。
長かったような、短かったような、
ただ、永遠に続くような感覚だけが残った。

扉が開いたのは、透がもう、
「ここから出たい」と思うことすら諦めかけた頃だった。

 いじめっ子

「まだ生きてた?」

その言葉に、反応できなかった。
息をすることだけで、精一杯だった。

それから透は、
暗い場所に長くいられなくなった。

夜、部屋の電気を消すと、胸がざわつく。
少しでも煙の匂いがすると、反射的に距離を取る。

理由を説明する相手はいない。
説明したところで、どうにもならないと知っている。

だから透は、何もなかったふりをした。

傷は服で隠せばいい。
震えは、気づかれなければ問題ない。

そうやって、
中学を卒業した。

高校の校門をくぐる朝。
春の空気はやけに明るくて、透は少しだけ目を細めた。

ここでは、誰も自分を知らない。
それだけで、少しだけ呼吸が楽になる気がした。

――そう思っていた。

この場所で、

また誰かに息を握られることになるなんて、

この時の透は、まだ知らなかった。

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