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幻聴のイカロス

第3話 - 幻聴のイカロス第3話 -本音・建前・生存本能-

145

2022年07月15日

#ファンタジー

#SF

#異能力

テラーノベル

マシロイナバ

木戸！大丈夫！？

キトユウ

え……あ、白さん？

シュジョウムスビ

相当な高度のはず…体に不調が出てもおかしくありません

カワラヤハジメ

それに、こんな状況だ…無理もない

キトユウ

（皆、やっぱり聞こえていない…！）

キトユウ

（『脱出ゲーム』って、いったい何なんだよ…！）

キョクセイコウラ

……それに、問題は死体だけじゃないね

シュジョウムスビ

極星さん、春背さん

ハルセソウ

…皆、落ち着いて聞いてくれ

ハルセソウ

このままだと、一週間ほどでこの船は墜落する

マシロイナバ

…え？

キトユウ

…は？

カワラヤハジメ

な、んだと…

キョクセイコウラ

さっき、燃料を見てきた

キョクセイコウラ

この船の基本航行はオートパイロット

キョクセイコウラ

その機能が働いていれば、高度の維持はできる

マシロイナバ

…だったら！

キョクセイコウラ

でも、それは燃料があればの話

キョクセイコウラ

…燃料の量を見るに、航行は7日間が限度

キョクセイコウラ

手動操縦ができる人間なんて、この中にいるわけもない

キトユウ

…じゃあ、死ぬのを待つしかないってこと？

マシロイナバ

やだよ……そんなの

ハルセソウ

……

キョクセイコウラ

落ち着きなさい

キョクセイコウラ

そうさせないために、私は今情報を伝えた

キョクセイコウラ

7日間の間に、何とか脱出方法を考える

ハルセソウ

…船長さんを殺した犯人が船内にいたら、どうするの？

キョクセイコウラ

…今のところ、一番有力なのは自殺

キョクセイコウラ

それに、少なくとも私たちの中に犯人は居ない

キョクセイコウラ

それはお互いが証明できるでしょう？

シュジョウムスビ

たしかに、私たちは全員でホールにいましたからね

マシロイナバ

けど、そう簡単に方法なんて…

カワラヤハジメ

…見つけるしかなかろうさ

シュジョウムスビ

…ええ、まだ死にたくはありませんものね

ハルセソウ

…そうだね

ハルセソウ

『3人寄れば文殊の知恵』とも言うし、ここにいるのはその倍だ

ハルセソウ

…二人も、それでいいね？

キトユウ

……わかった

マシロイナバ

……やるしか、ないんだもんね

キョクセイコウラ

腹は全員決まったみたいね

キョクセイコウラ

…生きて帰ろう、絶対に

イカロス内部・大ホール

キョクセイコウラ

それで、何か意見がある人はいる？

マシロイナバ

あのさ、船長さん以外の乗務員さんっていないのかな？

キトユウ

オーナーの方針で、姿を見せないようにしてるらしいけど…

キョクセイコウラ

この船がどれだけ大きくても、隠れられる場所はそんなにないよ

キトユウ

じゃあ…

キョクセイコウラ

たぶん、嘘だろうね

キョクセイコウラ

この場にいるのは、私たちだけと考えた方がいい

カワラヤハジメ

プロに頼ることもできんか…

キトユウ

スマホで地上と連絡は…

シュジョウムスビ

試してみましたが、どうやら圏外のようですよ

キョクセイコウラ

上空だし、当たり前と言えばそうだろうね

ハルセソウ

あー、じゃあ僕から一つ

ハルセソウ

白さんのテレポートって、自分以外の物も移動できるんだよね？

マシロイナバ

うん…触っていて、全景を把握できるものなら

カワラヤハジメ

イカロスそのものをテレポートさせることは…

マシロイナバ

ごめん、それは……

マシロイナバ

イカロスの全景は把握できてないし、なにより、

マシロイナバ

巨大すぎて、テレポート先のイメージができない…

シュジョウムスビ

おかしな場所にテレポートさせてしまえば、大惨事にもなりかねないですからね…

マシロイナバ

ごめんなさい…

カワラヤハジメ

…いや、小生こそすまなんだ

キョクセイコウラ

それに、そもそもテレポートって、横にしかさせられないんだよね？

マシロイナバ

……うん、ごめんなさい

ハルセソウ

うーん…じゃあ、僕らだけ地上にテレポートすることも無理か…

キトユウ

パラシュート…とかは無いのかな？

ハルセソウ

それなんだけど…

ハルセソウ

ざっと見た限りだけど、見つからなかったんだよね

キョクセイコウラ

意識して見てみると、この飛行船、随分と杜撰だよ

キョクセイコウラ

非常用の備えも、装備も、全く足りてない

キョクセイコウラ

探す価値はあると思うけど、望み薄だと思う

シュジョウムスビ

それに、この高度です

シュジョウムスビ

パラシュートで何とかなる高度かどうか…

カワラヤハジメ

飛び降りて試す、というのは…

マシロイナバ

それはどう考えても死んじゃうよ！？

カワラヤハジメ

いや、小生であれば受け身で何とか…

ハルセソウ

いやいや！無理だからね！瓦屋くんも人間だから！

カワラヤハジメ

5点着地であれば何とか…

キョクセイコウラ

そもそも下が地面かもわからないでしょ

キョクセイコウラ

海に落ちたら5点着地もクソもないよ

キトユウ

それ以前に死んじゃうからね！？

カワラヤハジメ

むう…

マシロイナバ

うーん…

ハルセソウ

八方ふさがり、って感じかな

シュジョウムスビ

…認めたくはないのですが、ね

キトユウ

（……どうする？）

キトユウ

（あの幻聴について、話してみるか？）

キョクセイコウラ

……仕方ない

キョクセイコウラ

煮詰まっちゃったら、もういい意見も出ないでしょ

キョクセイコウラ

ひとまず解散しようか

キトユウ

そんな悠長でいいの？

キョクセイコウラ

良いも何も、仕方ないでしょ

キョクセイコウラ

いったん解散！30分後にまた集まって、議論再開しよう

10分後・大ホール

キョクセイコウラ

…二人とも、どっか見て回ってきたら？

キトユウ

……いや、俺はいいです

シュジョウムスビ

私も…一人でいると、息が詰まりますし

キョクセイコウラ

…ここにいても変わらないでしょうに

キョクセイコウラ

……ふー……

シュジョウムスビ

…けほっ、こほっ……

キョクセイコウラ

あぁ、ごめんごめん、煙かった？

シュジョウムスビ

いえ、私の方こそごめんなさい

キョクセイコウラ

出来た子たちだねぇ、ほんと……

キトユウ

…極星さんは、怖くないんですか？

キョクセイコウラ

……

シュジョウムスビ

……

キョクセイコウラ

……怖がってないように見える？

キョクセイコウラ

怖いよ、正直

キトユウ

え…

キョクセイコウラ

でもさ、慌ててばっかもいられないじゃん

キョクセイコウラ

私、たぶんこの場での最年長だし

シュジョウムスビ

そう、なのですか？

キョクセイコウラ

瓦屋は知らないけどねー

キョクセイコウラ

酒とたばこがやれるのは、たぶん私だけだよ

キトユウ

だからって、そんなに俺たちと年は変わらないでしょう！

キョクセイコウラ

わー、木戸って意外とアッツいんだねー

キョクセイコウラ

…そ。最年長ってのも建前

キョクセイコウラ

私は単に死にたくないの

シュジョウムスビ

死にたくない、ですか？

キョクセイコウラ

そう

キョクセイコウラ

私はまだやりたいことがある。

キョクセイコウラ

そのためには、こんなところで死にたくない。

キョクセイコウラ

だから、私は冷静に方法を探すの。

キョクセイコウラ

たぶん、最後の一瞬まで

キトユウ

……極星さんは、強いですね

キョクセイコウラ

…は？

キョクセイコウラ

ちょっと、話聞いてた？

キトユウ

聞いてましたよ

キトユウ

その上で、です

キトユウ

ね、主杖さん

シュジョウムスビ

はい

シュジョウムスビ

極星さんは…とても強い人だと思います

キョクセイコウラ

な、なんか照れるな…

キョクセイコウラ

やめろ、やめろよう……オドオド

キトユウ

口でわざわざ言わなくても…

シュジョウムスビ

ふふふ…

ハルセソウ

あれ、随分馴染んできてるみたいだね？

カワラヤハジメ

いい感じにガス抜きはできたようだな

キトユウ

白さんも、大丈夫？

マシロイナバ

うん、ありがとう…大丈夫

キョクセイコウラ

さて、それじゃあ再開しようか――――

夜・客室『木戸の部屋』

キトユウ

（結局、一日目は碌な意見が出ることなく終わってしまった）

キトユウ

（このまま行けば、俺たちの命はあと1週間もない）

キトユウ

（そして、あの幻聴）

キトユウ

……誰かに、話すべきかな？

キトユウ

（けど、言って信じてもらえるか？）

――――――――――！！！！！

キトユウ

―――っ、く、ぁ、また……

幻聴

明日の朝、一人死ぬ

幻聴

明日の朝、一人死ぬ

幻聴

もうすぐ、もうすぐ、人が死ぬ

幻聴

もうすぐ、もうすぐ、人が死ぬ

キトユウ

何なんだよ……くそっ！

キトユウ

（恐怖が、背中越しに忍び寄る）

キトユウ

（眠るために目を閉じることが、たまらなく恐ろしく感じた）

幻聴のイカロス

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