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神奈川
神奈川はスマホの画面を怪訝そうな顔で弾いた。
グループチャットの未読数は増える一方だ。自分も、周りの人間も最初は、『お盆の連休でみんな忙しいだけだ』と笑っていた。
しかし、大都市から順番に返信が途絶え、昨日はとうとう、いつも賑やかな福岡や、陽気な沖縄からのメッセージもパタリと止まった。 ニュースは「記録的な通信障害」や「局地的な自然災害」と繰り返している。
だが、神奈川は知っている。自分たちはただの人間ではない。 その土地の意志を宿した「都道府県」だ。
自分の体を作る細胞(県民)達が、体内で何をしているのか。己の景気や経済規模をどのように発展させているのかを、肌で感じられる存在。
神奈川
隣に立つ、日本の中心。いつだって冷静で、整った横顔を持つ東京に声をかける。 東京は視線を資料から外さず、淡々と答えた。
東京
その声は穏やかで、いつも通り優しかった。だから、神奈川は気づけなかった。 東京の瞳が、鏡のように無機質に、消えゆく日本をただ見つめていることに。 その時、廊下の向こうから激しい足音が響いた。
埼玉
リビングへ飛び込んできたのは、顔面を蒼白にした埼玉だった。
埼玉
どうやら通話中、突如彼が住居を侵入してきた何者かに襲われ、彼の悲鳴が最後に通話が途絶えたらしい。
それを聞いた神奈川も顔を青くし、「千葉の家へ急ぐぞ!」と家の玄関を飛び出していった。
埼玉
埼玉も、彼の後を追う様に家を出ていく。
彼らは知らなかった。その選択は、日本全土で起こり始めた不祥事を 最悪な形で知らしめられることになるという事を
2人は住宅街を全速力で走り抜け、彼の家へ向かった。 千葉の家へ着いた時、 神奈川が扉を抉じ開けようと、常に携帯しているタクティカル・トレンチを手に取る。
しかし、扉は鍵もかかっておらず、少しだけ隙間が開いていた。 いつもなら聞こえるはずの彼の笑い声や、一日中付けられているテレビの音もない。
神奈川
神奈川が恐る恐る足を踏み入れると、そこには細胞の気配が完全に消えた、冷たい空間と、鉄臭い匂いが広がっていた。
最初に埼玉が足を踏み入れ、リビングへ繋がる静かな廊下を歩いていく。 そして、二人で頷いたのち、ゆっくり扉を開けた。向こうの光景を見た二人は、思わず絶句してしまった。
埼玉
リビングは荒らされ、家具がなぎ倒されている。 壁には、指でかきむしったような跡。空港の資料や、幕張のイベントのタイムスケジュールが真っ赤に染まっていた。
そして床には、埼玉が聞いた悲鳴を裏付けるように、スマホが転がっている。 画面はひび割れ、ノイズだけを吐き出していた。
埼玉
叫ぶ埼玉の背後で、神奈川が短い悲鳴を上げる。
神奈川
指先を恐怖で震わせる神奈川。彼の指すクローゼットの暗闇から、人間ではない何かが、ギチギチと骨を鳴らしながら這い出してくる――。