斑目
結論から申し上げますと、この状況で逆探知することは難しいです。

千早
左様でございますか。テレビドラマなどでは、さも当然のようにドヤ顔で刑事さんが逆探知してますが。

斑目
あれはフィクションですよ。

斑目
しかも、今はデジタルの時代ですから、大掛かりな装置は使いませんし――。まぁ、基地を辿るくらいのことはできるでしょうが、私だけではなんとも。

斑目
その、事件性も今のところありませんし、逆探知のために応援を呼ぶわけにもいきませんか。

千早
査定料の値引きのために、逆探知をして欲しい――なんてことは言えないわけですね。

斑目
当たり前じゃないですか!

千早はハンディカムの小さな画面を眺めつつ、小さく溜め息を漏らした。
斑目
で、それが差出人不明の人物から送られてきた【いわく】ということですか?

千早
はい、どうやら流行りの動画サイトに投稿をしている方々の動画データのようです。

千早
ハンディカムごと送って来られた意図は別として、まだ数本の動画データが入っているようです。

千早
これまで確認したデータだと、イエローと呼ばれている方が、エレベーターに喰われたところです。

斑目
え、いや――情報量が多いんですが。

千早
いちから説明するのも面倒ですので、一度確認されてみてはどうですか?

斑目
いや、いいんですか?

斑目
これ、査定中のものでしょう?

千早
依頼主が何者なのかも分かっていませんし、どうやら【いわく】はハンディカムではなく、中に残されている映像の方です。

千早
斑目様も触っていいかと。

斑目
そ、そういうものですか――基準は分かりませんが。

斑目はハンディカムを受け取ると、あちこちを確認してみてから再生ボタンを押す。
斑目が動画の再生を始めると、今度は千早がスマホを取り出した。
千早
オカルト戦隊、視えるんジャー。それなりに人気のあるオカルト系のウィーチューヴァーですね。

斑目
猫屋敷さんもウィーチューヴ視聴するんですね。

斑目
なんだか意外です。

千早
あの、私は一応年頃の女子高生ですから、コスメの動画とか観たりしますよ。

斑目
(なんだかんだで今時の子なんだなぁ)

千早
後は猫とか、猫とか、猫の動画とか観ます。

斑目
いや、ほとんど猫の動画じゃないですか。

斑目
チョピが拗ねたりしません?

千早
うちの子が一番なのは間違いありませんが、よその子からしか得られない成分がございます。

千早と会話をしながらだから、内容があんまり入って来ないが、そのオカルト戦隊とやらがどこぞの団地で撮影した動画らしい。
昼間に撮影されているから、オカルト動画としては雰囲気に欠けると思うのだが、しばらくそれを眺めていると、オカルトよりも恐ろしいことが起きてしまう。
斑目
イエローが……死んでる。

千早
はい、人喰いエレベーターと呼ばれるエレベーターに乗り、戻って来たら何者かに――。

千早
状況からして凶器はイエロー自身が持っていたバットです。

斑目
――ん、ちょっとおかしくないですか?

斑目
動画内で【エレベーターは1階と5階にしか停まらない】って言ってましたよね?

千早
はい、そしてレッドなる人物が1階で動画を撮影していました。

斑目
そして、5階にはブルーとグリーンがいた。

斑目
もし、犯人が単独犯だとしたら、誰がイエローを殺したんです?

斑目
動画を確認する限り、イエローを見送って、ずっとそこにいたレッドに犯行は不可能です。

斑目
5階で待っていたブルーとグリーンには殺害のチャンスがあっても、相互監視のような状況ですよね?

斑目
相方に気づかれずにイエローを殺害することは不可能です。

斑目
この状況を可能にするのであれば――。

千早
ブルーとグリーンが共犯ということになりますね。

千早
ですが、まだハンディカムにはデータが残っています。

千早
それを確認してから、改めて整理したほうがいいかと。

斑目
――なんだか、いつもと違いますね。

斑目
いつもならば、淡々と【いわく】の査定をして、1人で答えを導き出してしまうのに。

千早
査定ではありませんから。

千早
依頼主も分からない、査定料がいただけるかも分からない。

千早
そんな状態で査定をするほど、私も暇ではありませんので。

斑目
いや、でもこうやって動画を確認しているってことは――。

千早
個人的な興味です。

千早
なぜ、イエローは殺されたのか。

千早
だとしたら、誰がどんな方法で殺害したのか。

千早
職業病というやつで、個人的に気になってしまうだけです。

斑目
ならば、一度ハンディカムはお返ししますよ。

斑目
また後で貸してください。

千早
分かりました。それでは、失礼して続きを改めさせていただきます。

千早はそう言うと、小さなハンディカムの画面に顔を近づけたのであった。