ゆっくりと、しかし力強く、実にまばらな拍手が病室に響いた。
十三形
くくっ……くくくくくっ。

十三形
あっはっはっはっ!

十三形
よく気づいたなぁ。

十三形
いや、君達の近辺の人間とか、割にリアルに、そして忠実に再現させてもらったつもりだったのに。

十三形
まぁ、データとしてあったのが、そこのご令嬢のだけだったから、他の人間の周囲は割と適当だったけど。

十三形
街中にいる一般人とかは、俺の想像でどうにかできたけど、君達全員の近親者となると、ちょっと難しくてね。

十三形
そこにこだわって、君達に違和感を抱かれては困る。

十三形
かと言って、まるで君達の近親者が出てこない世界というのも不自然だ。

十三形
だから、そこそこ有名な七星邸の人間だけ再現させてもらったんだよ。

十三形
邸宅に執事を雇っていたり、刑事が親族にいることは、このネットのご時世――どこにでも落ちてるからね。

十三形
まぁ、有名税というやつだな。

七星
私の……周囲の人間も、貴様が作り上げた想像上のものだというのか。

七星
だとしたら、大したものだ。

七星
この私が気づかない程度のクオリティーであったと言える。

九条
そうか……ずっと不思議だった。

九条
どうして僕の周りには誰もいないんだろうと。

二ツ木
それは、九条に友達がいないだけだ。

十一月二十九日
つまり、それに気づかせないように、都合良く世界を構築したんだろ?

十一月二十九日
一宮が有給を使って会社に行かなかったのも、会社の人間まで再現できなかったからだ。

一宮
だから、自然と有給を取らざるを得ない方向へと誘導されたのか。

一宮
おかしいと思ったんだ。

一宮
会社に休む電話を入れた時、あの鬼みたいな昭和ハラスメントの部長が「しばらく休んでいい」なんて言ったから。

一宮
しかも、電話口だけで有給の申請が受理されたから、逆に気味悪いとさえ思ってたんだけど、この世界が作られた世界だったと考えれば納得できる。

十三形
その通り。

十三形
だから、こんなこともできる。

すると――七星、十日市、十二単の体に鎖が巻きつけられる。
まるで、勝負で負けた時に、絵本に鎖が巻きつけられるかのごとく。
四ツ谷
……やっぱり、自分にとって不都合なことが起きたら、こうやって所有者を拘束して逃げるつもりだったか。

二ツ木
でも、ごめんね。

九条
僕達、持たざる者なんです。

十一月二十九日
そう言うと格好はつくけど、つまり誰かに負けた奴ってことだけどな。

一宮
俺達はお前の思い通りにはならない。

一宮
さぁ、どうする?

十三形
……へぇ、やっぱり四ツ谷もそっち側の人間だったわけね。

十三形
まぁ、薄々分かってたからいいけどね。

十三形
おっと、動くなよ。

十三形
やろうと思えば、絵本の所有者同士で魂の共喰いをさせることだってできるんだ。

十三形はゆっくりと立ち上がり、一宮達のことをぐるりと見回した。
十三形
本当なら、ここで絶望に浸る君達を眺めてやろうと思っていたんだが、予定よりも絵本が一点に集中してしまった。

十三形
これだけ自由に動ける――俺の世界に直接的な干渉をされない人間がいると不都合だ。

十三形
仕方ない。

十三形
元の世界に戻る方法は――もう君達も分かってるんだろ?

九条
この世界が、あなたの作り出したゲームならば――。

十一月二十九日
それに勝つしかないってことだろうが。

一宮
十三形こそ全ての元凶。

一宮
俺達で全てを終わらせる!

十三形
威勢がいいなぁ!

十三形
上等だよ!

十三形
全員まとめてかかってこいよ!

四ツ谷
だったら、所有者の拘束を解け。

十三形
――分かってるよ。

十三形が言うと、七星達を拘束していた鎖が弾け飛ぶ。
十三形
まさかこんなに大所帯になるとは思わなかったけど――。

十三形
面白くなってきたじゃないか!

十三形
お前達の絶望こそが、呪いの絵本をさらなる呪物へと昇華させる!

七星
ふん……自分の都合の良い世界に閉じこもって、それでも恐ろしくて本屋の中に引きこもっていたやつが良く言う。

二ツ木
九条、隙を見てこいつをフルボッコにしろ。

九条
物理で殴っても勝てはしないでしょう。

一宮
終わらせるんだ……。

一宮
ここで絶対に終わらせる!
