TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
羽がついてるのは変ですか?

一覧ページ

「羽がついてるのは変ですか?」のメインビジュアル

羽がついてるのは変ですか?

1 - 羽がついてるのは変ですか?

♥

3,048

2020年03月31日

シェアするシェアする
報告する

雪の日の昼下がり 僕は天使に出会った。

天使

近くな人間

飛び散った羽毛。 血に濡れた羽。

いつもの秘密基地に、血濡れた天使がうずくまっていた。

降る雪と相まって、その姿は絵画のように美しかった。

天使は弱々しく震えながらも、呆けている僕を睨み付けた。

天使

私は見せ物ではない

天使

立ち去れ人間

天使

……何をしている

頬をつねってるんです。夢じゃないんだ…

まさか僕が天使に出会えるなんて

天使

私はお前達の思う天使ではない。

天使

頭に輪っかもついてないし、ラッパも吹かない。
ただ腕が羽になっているだけのこと

天使

そんな私達を異種と見なし、こんな辺境の森に追いやった。
少し人間の住む町に出たらこのザマだ。

…怪我したんですか

天使

私は人間の同情も施しも受けない

天使

立ち去れ人間

でもそのままだと死んでしまいますよ

天使

わかった風な口をきくな。お前達の数と言う武器でどれほどの仲間が殺されたと思ってる。

僕は貴方を殺さない

助けたいんです。救急箱とってくるから、そこを動かないでください。

天使

……動きたくても動けないんだ

天使

私は人間を信じない

天使

今のお前の行動も、何か見返りを求めてのことだろう

見返りは……確かに求めています

天使

ほら見ろ。だから人間は嫌いなんだ。

僕が怪我を治すかわりに、僕と友達になってくれませんか。

天使

………!

天使

…馬鹿馬鹿しい。実にめでたい頭だな。

雪の日の昼下がり 僕は天使と出会った。

僕と天使の秘密の冬休みが始まった。

天使

また来たのか人間

うん

天使

羽が治ればすぐに翔んで逃げてやる

天使

私は人間と馴れ合わない

天使

お前も例外ではないからな

何回も言ってるけど、僕は「お前」じゃなくて「颯」。一回名前で呼んでみてよ

天使

下らん。名前で呼ぶことに何の意味があるんだ

親近感が湧く。
あ、でも君の名前知らないや

天使

私に名前などない。なんでもかんでも名前を付けて区別したがるのは人間だけだ。

じゃあ僕が名前を付けてあげる。
____えー―っと、天使だから…ツバサ?

天使

安直な…

でも君見た感じ女の子だし…………
あ、ユキは?

天使

雪は好きだ

じゃあユキで。

天使

…絶対今雪が降っているからだろう。センスを感じないぞ。

よろしくねユキ

天使

私は人間と馴れ合わない。人間のつけた名前で返事なんかしない。

ユキ

天使

……………

ユキ

天使

……………………………………………

ユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキユキ

天使

わかったわかった。蝉かお前は。

じゃあよろしくねユキ

天使

…はあ面倒臭い。

ユキ

また来たのか人間

うん

ユキ

毎日毎日…。暇なのか?

暇ではない

塾とか習い事とかあるけど、バックレてる。

算盤(そろばん)とか水泳とか、1度だって僕はやりたいなんて言ってない。

ただ皆がやってるから。
もう馬鹿馬鹿しくなっちゃって

ユキ

人間は多数決が好きだな

僕はそんな大人になりたくない。

ユキ

……そうか

ユキ

…また来るのか人間

うん

僕と天使の秘密の冬休みが始まって1週間。

今日も雪が降っていた。

ユキ

また来たのか人間

うん

もう嫌そうな顔しないね

ユキ

諦めたよ

ユキ

私が何を言ってもまた来るんだろう

うん

ユキ

お前は変わってるな

友達だからね

ユキの怪我が治るまで毎日来るよ

また翔べるようになれたらいいね

何気なく言った言葉に

ユキの瞳が揺れた。

凄絶な美貌が、今にも泣き出しそうに歪んだ。

それでもユキは僕から目を離さなかった。 形のいい唇から震えた声が流れた。

ユキ

………颯

ユキ

私は……………

ユキが初めて僕の名前を呼んだ。その声は今まで聞いたどんな声よりも澄んでいた。

訪れた神秘な沈黙は

ちょっと颯!

しかし長くは続かなかった。

お母さん…

こんな所で何してるの!?塾から電話がかかって来たのよ、最近ずっと無断で休んで_____

唾を飛ばして喚く母の目が、初めてユキを捉えた。

母は嫌悪に顔を歪めた。声のボルテージが一層高くなる。

颯!

アンタ、1週間も塾をサボってこんな得体の知れないモノと____
病気でもうつされたらどうするの

その声は、いつまでも森の中で響いていた。 僕の背後で、震えた声が密やかに流れた。

ユキ

______ほら見ろ。これが人間なんだ

ユキ……っ

ユキは立ち上がると、覚束ない足取りで木立の奥に消えて行く

待って……

追いかけようとした僕の腕を母が掴んだ。

アンタは行かなくていいの。塾に戻って皆と一緒に勉強するのよ。

あんなトリなんてほっときなさい

ほっとけないよ。友達だから

何馬鹿なこと言ってるの。お母さん、許しませんからね

なんで!?皆と仲良くしろって言ってるのはお母さんじゃないか

皆は皆でもアレは___

どうせ「皆」が気持ち悪いって言ってるから、そんな風に言うんでしょ。ちゃんと話したこともないくせに

ユキは病気なんか持ってない

羽がついてるのが、そんなに変なの?

母の手を振り払った。

溢れる涙を拭って僕は必死にユキを探した。

初めて会った時のように ユキはうずくまっていた。

ユキ!

ユキ

お前か……。ジュクはいいのか?

友達をほっとけないよ

ユキ

友達か……まだそんなことを言ってたのか

この1週間たくさん話した。たくさん笑った。
もう僕達は友達じゃないか。

ユキの怪我が治っても僕は___

ユキ

そのことだけどな、人間

ユキ

お前に嘘を吐いていた

ユキ

私はもう翔べないんだ

え…

手を触れてしまえば壊れてしまいそうな、それでいてため息が出るほど美しい笑顔があった。 そこを涙が一筋流れる。

ユキ

寿命だよ

ユキ

こんな辺境の森に追いやられて、仲間と同じように私も弱っていった。
自分で翔ぶことも出来ないほどに

ユキ

最近は歩くこともままならない。
今はもう立ち上がることも出来ない。

ユキ

翔べなくなったら、後は一瞬さ。1週間生きられたのは奇跡に近い。

そんな

なんで急に…

もっと一緒にいられると思ってたのに

ユキ

そんなに私と一緒にいたいか

ユキ

お前は変わってるな

ユキの声がどんどん細くなる。息を吸うだけでヒューヒューと鳴った。

ユキ

私はずっと人間を憎み遠ざけていた。

ユキ

理解しようとしなかった。お前のように素晴らしい人がいることを

ユキ

お前のような友達が出来た。こんな最期も悪くない

ユキ…

ユキ

ユキ

最後に1つ聞かせてくれ

ユキ

羽がついてる私は、変か?

嗚咽で何も言えなかった。 涙を流して、ただ首を横に振った

ユキの唇が動いた。もう声を発することはなく聞き取れなかったが、ユキの満ちたりた表情を見たらどうでもよくなった。

__もうユキは目を開けなかった__

僕と天使の秘密の冬休みは 幕を閉じた。

僕はたくさんの人に、このお話を伝えようと思う。

皆に 羽がついているのは変じゃない と伝えよう。

雪の日の昼下がり 僕は天使に出会った。

この作品はいかがでしたか?

3,048

コメント

17

ユーザー

あ の 男 の 子 や さ し いね . と 、 ゆ う 事 は 主 は 天 才 💫 ✨

ユーザー

とっても…とっても…好きです… ユキちゃんへの愛情とか想いが直に伝わってくる感じで…!! ユキちゃんの「翼がついてる私は変か?」で胸が締め付けられました…😢😢😢

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚