雪の日の昼下がり 僕は天使に出会った。
天使
飛び散った羽毛。 血に濡れた羽。
いつもの秘密基地に、血濡れた天使がうずくまっていた。
降る雪と相まって、その姿は絵画のように美しかった。
天使は弱々しく震えながらも、呆けている僕を睨み付けた。
天使
天使
天使
颯
颯
天使
天使
ただ腕が羽になっているだけのこと
天使
少し人間の住む町に出たらこのザマだ。
颯
天使
天使
颯
天使
颯
颯
天使
天使
天使
颯
天使
颯
天使
天使
雪の日の昼下がり 僕は天使と出会った。
僕と天使の秘密の冬休みが始まった。
天使
颯
天使
天使
天使
颯
天使
颯
あ、でも君の名前知らないや
天使
颯
____えー―っと、天使だから…ツバサ?
天使
颯
あ、ユキは?
天使
颯
天使
颯
天使
颯
天使
颯
天使
颯
天使
颯
天使
ユキ
颯
ユキ
颯
颯
颯
颯
もう馬鹿馬鹿しくなっちゃって
ユキ
颯
ユキ
ユキ
颯
僕と天使の秘密の冬休みが始まって1週間。
今日も雪が降っていた。
ユキ
颯
颯
ユキ
ユキ
颯
ユキ
颯
颯
颯
何気なく言った言葉に
ユキの瞳が揺れた。
凄絶な美貌が、今にも泣き出しそうに歪んだ。
それでもユキは僕から目を離さなかった。 形のいい唇から震えた声が流れた。
ユキ
ユキ
ユキが初めて僕の名前を呼んだ。その声は今まで聞いたどんな声よりも澄んでいた。
訪れた神秘な沈黙は
母
しかし長くは続かなかった。
颯
母
唾を飛ばして喚く母の目が、初めてユキを捉えた。
母は嫌悪に顔を歪めた。声のボルテージが一層高くなる。
母
母
病気でもうつされたらどうするの
その声は、いつまでも森の中で響いていた。 僕の背後で、震えた声が密やかに流れた。
ユキ
颯
ユキは立ち上がると、覚束ない足取りで木立の奥に消えて行く
颯
追いかけようとした僕の腕を母が掴んだ。
母
母
颯
母
颯
母
颯
颯
颯
母の手を振り払った。
溢れる涙を拭って僕は必死にユキを探した。
初めて会った時のように ユキはうずくまっていた。
颯
ユキ
颯
ユキ
颯
もう僕達は友達じゃないか。
颯
ユキ
ユキ
ユキ
颯
手を触れてしまえば壊れてしまいそうな、それでいてため息が出るほど美しい笑顔があった。 そこを涙が一筋流れる。
ユキ
ユキ
自分で翔ぶことも出来ないほどに
ユキ
今はもう立ち上がることも出来ない。
ユキ
颯
颯
颯
ユキ
ユキ
ユキの声がどんどん細くなる。息を吸うだけでヒューヒューと鳴った。
ユキ
ユキ
ユキ
颯
ユキ
ユキ
ユキ
嗚咽で何も言えなかった。 涙を流して、ただ首を横に振った
ユキの唇が動いた。もう声を発することはなく聞き取れなかったが、ユキの満ちたりた表情を見たらどうでもよくなった。
__もうユキは目を開けなかった__
僕と天使の秘密の冬休みは 幕を閉じた。
僕はたくさんの人に、このお話を伝えようと思う。
皆に 羽がついているのは変じゃない と伝えよう。
雪の日の昼下がり 僕は天使に出会った。