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キィ……
バァン!
毛色の違う、2種類の開閉音が響いた。
浄海入道
怨王
二箇所の通用口から、浄海と怨王が入ってくる。
浄海は桜の元に駆け寄る。 状況を理解したのか、何も言わずに怨王のもとに立ちはだかる。
浄海入道
怨王
怨王は懐から、小型のスイッチを取り出し、しゃがれた指で押す。
ボン ボン ボン ボン ボン ボン──
小さな爆発音が、フロアの何処かで響いた。
怨王
浄海入道
ゴキッ ゴキッ……!
怒りに満ちた浄海の言葉と共に、拳の骨を鳴らす音が聞こえてくる。
怨王
カッ カッ カッ……
スイッチを捨てた怨王は、粗末な杖を突きながら、ゆったりとした歩みでこちらに迫ってくる。
怨王
怨王
怨王
怨王
浄海入道
浄海入道
浄海入道
浄海入道
浄海入道
怨王
パキィッ……!
勢い良く杖を突かれた突かれた杖が、あっけなくへし折れた。
怨王
怨王
ズズゥゥゥゥゥゥゥン──!!
突如、コンクリートの壁が爆ぜた。 怨王が入ってきた扉の壁が、強烈な一撃で粉砕される。
吹き飛んでくる数多の破片に、浄海は桜の前に立って防いだ。
ガッ! ゴッ! ガッ!
浄海入道
浄海入道
深山桜
浄海に発破をかけられ、桜はようやく動き出す。
抱きしめていた彼女の身体を、内心で謝りながらその場に下ろす。
立ち上がって、頬をパンパンと2回叩き、気合を入れ直してから、浄海の隣に並んだ。
けむい視界を振り払い、目を開けた先に待ち構えていたのは……。
???
巨人……いや、人の形をした重機とでも言うべき、歪な存在だった。
広々としたイベントスペース、その天井いっぱいに広がる身体。 病魔に冒された人間のように、生気の失われた皮膚が縫い合わされている。
身体の各所はコブのように膨れ上がり、かすかに脈動を続ける。 丸太のような腕に落ちてきた瓦礫を、ひとふりで粉砕した。
羽黒龍極
頭部に当たる部分には、羽黒の上半身が突き刺さっている。
下手くそなパッチワークのように継ぎ接ぎされた人間の皮膚に呑み込まれ、いびつに縫い合わせられた頭部がうめいていた。
深山桜
浄海入道
鎧の隙間に入った欠片を落としつつ、浄海が吐き捨てた。
シュタッ
怨王が巨人に向かって、軽やかにジャンプする。
ズズズズズ……
彼の着地地点に、巨人の手が生々しい音を立てながら動き、手のひらに着地する。
巨人はそのままゆっくりと手を動かし、怨王を自身の右肩に連れていく。
肩の皮膚からは、椅子の形に盛り上がった肉塊が突き出ていた。 怨王はそこに王様のように座って、下卑た高笑いをあげる。
怨王
怨王
怨王
髑髏の仮面をカタカタと揺らせて、怨王は笑う。
奴の脅しには屈しない。 巨人に正面から相対し、刀をしっかりと構える。
深山桜
詩織
浄海入道
桜の言葉に、2人が続いた。
怨王
怨王が怒声を上げた瞬間、
巨人は動き出した。 左腕を高々と振り上げ、
ゴゴゴゴッ!!
天井にぶつけ、グラグラとフロアを揺らしてから、
ブゥゥゥゥゥゥン…………!
隕石が如く、振り下ろしてくる。 浄海は左に、桜は右に跳んだ。
ドゴォォォォォォォン……!!!
拳はイベントスペースの床に叩きつけられた。 フロア中に地震が響く。
巻き込まれたショーケースが割れていく。 培養槽がひしゃげ、中の実験体の人があっけなく潰れる。巨腕は触れるもの全てを粉砕していく。
その中には、彼女も含まれていた。 筋肉で膨れ上がった拳の下で、潰される身体に、桜は心が裂けるような痛みを感じる。
深山桜
桜は迷いを振り切る。 どこに連れて行っても、あの巨人からは逃れられなかっただろう。 連れて行く時間も無かった。
泣き叫びそうになる自分を必死に言い聞かせる。 無事に着地した桜は、動きが止まった左腕に迫った。
ザシュッ!!
袈裟斬りで前腕部を切り裂いた。 赤が迸る。
だが──。
ジュウウゥゥゥゥ……!
肉が焼けるような音をあげて、出血は即座に収まり、傷口も塞がってしまう。
深山桜
グッ──!
深山桜
瞬時に自己治癒を終えた左腕の拳が、強く握りしめられる。 反撃を察知し、再び跳んだ。
ブゥゥゥゥン!
裏拳の要領で左腕が振り払われ、さっきまで桜が居た場所を通過していく。
ガシャガガガガァァァァ……!!
右腕はそのまま、背後のショーケースを粉砕し、突き進んでいった。 桜は急いで浄海の元に退避する。
バキャッ!!
浄海は、自分の足元に転がっていた瓦礫から、鉄筋を力任せに引き抜いていた。
浄海入道
ブゥンッ!
やり投げの要領で、巨人の右肩──肉の玉座に座る怨王へとぶん投げる。
怨王の胸に、寸分違わず飛んでいくが、
ガスッ!!
避けられた。 攻撃を予想していたのか、奴は慌てることもなく、身体を曲げて鉄筋をかわし、背もたれを貫いて向こうへ飛んでいく。
ジュウウゥゥゥゥ……!
怨王
薄ら笑いを浮かべる怨王の声に、先ほどと同じ再生音が重なる。
怨王
怨王
ブゥゥゥゥゥゥン…………!
今度は右腕が動く。 肘を大きく曲げて、
ドガァァァ……!!
大穴が開いていた後方の壁を、さらに破壊してから、
ガシャガガガガァァァァ……!!
ダンプカーを思わせる迫力で突っ込んでくる。 桜は右斜め後方へ飛び退いた。
深山桜
着地してから気付く。 自分のそばにいた浄海が、その場に留まっていたことに。
彼は足を開き、腰を落として、相撲取りのように待ち構える。 まさかあの拳を?
深山桜
浄海入道
桜の忠告も聞かずに、彼は足元の鉄筋を掴み、迫りくる鉄拳に向かって突きつけた。
ドゴゴゴゴゴゴゴ──!!
殴られる音と言うより、轢かれる音が轟く。 浄海の鉄筋は、向かってくる拳に突き刺さったものの、当然その程度では止まらない。
彼はそのまま押し流され、後方の柱へと潰された。
ゴガガガガガガ……!!
柱がひしゃげる。 巨人の拳と、コンクリートの柱の間に潰された彼は……。
浄海入道
生きていた。 下半身が柱に埋まりながらも、鉄筋を突き刺して出来た穴に右腕を突っ込み、固定していた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
彼が埋まる柱を中心に、地鳴りが起こった。 巨人が右腕を引っ張ろうとしているのだ。
だが、腕は戻せない。 浄海の身体が柱と右腕を繋ぐかすがいになり、固定されてしまっている。
ギリギリギリギリ……!!
浄海は抵抗していた。 大柄な彼でも、赤ちゃんと大人程度の体格差がある巨人の腕を、全身と全力を使って固定していた。
浄海入道
深山桜
浄海が苦しそうに発した言葉を聞いて、桜はすぐに走り出した。
ダッ!
彼の元に駆け寄り、跳ぶ。 凸凹といびつに膨れ上がった巨人の腕に上手く着地する。
タタタタッ──!
足を踏み外さないよう注意しながら、桜は腕を駆け上っていく。 一刻も早く、怨王の元へ──!
ガッ──
だが、足が止まった。 踏み出した左足の足首が掴まれる。
???
深山桜
桜は恐怖した。 巨人の皮膚から、生ける屍の如き容貌の男性が湧き出したのだ。
ボコッ ボコボコッ
???
???
下から次々と異形の者達が湧き上がり、登ろうとする桜の足を掴む。
深山桜
半分パニックになりながら、桜は刀を振り上げ、異形の身体に突き刺す。
???
手を離したものの、絶叫しながら暴れ狂う。 足元を揺さぶられ、桜は腕から転落した。 ひび割れた床に倒れ込む。
深山桜
詩織
起き上がった直後、詩織の声が響く。 無我夢中で跳び上がったが、
バァン!!
深山桜
間に合わなかった。 右半身全体に強い衝撃を喰らい、桜は吹っ飛ばされる。
左の壁に激突し、そのまま壁際に落下した。
ズゴゴゴゴォォ……!!
目の前に横たわる巨人の右腕が、ゆっくりと移動する。 浄海を引き剥がし、引っ込めたのだ。
深山桜
痛む全身にむち打ち、桜は浄海の元に向かう。
柱にがっちりと埋まった彼は、無理やり這い出ながら、乾いた笑い声をあげる。
浄海入道
浄海入道
苦しそうに咳き込み、血を吐いた。 浄海の血を、初めて見てしまう。
深山桜
詩織
桜と詩織は、揃って焦燥する。 目の前の巨人に対し、攻め手が見つからない。
巨人の動き自体は緩慢だ。 落ち着いて対処すれば避けられない攻撃ではない。
ただ……あれほどの再生能力を持っていては、自分達の攻撃はほぼ意味をなさない。
再生が追いつかなくなるまで戦おうとしても、自分達が先に潰れるのがオチだろう。
唯一の狙い目と言えば……上方で陣取っている怨王、そしてその隣の羽黒。
奴等2人が、あの巨人の中枢であることは確かだ。
深山桜
怨王
怨王
余裕綽々と言った態度で、怨王は笑う。 本当に待ってくれているのか、巨人は全く動かなかった。
ゴボォッ!!
半壊した柱から、浄海が抜け出てくる。
浄海入道
深山桜
浄海入道
浄海入道
深山桜
浄海入道
浄海は陣羽織を広げる。 中のポケットに入っていたのは──ダイナマイト。
深山桜
浄海入道
浄海入道
浄海入道
浄海入道
陣羽織で手元を隠し、浄海はダイナマイトとライターを渡してくる。
深山桜
桜はそれをしっかりと受け取る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
突如、2人の背後で騒音が巻き起こる。 巨人か──!?
いや、違った。 浄海が埋まった柱が、勝手にひしゃげ始め──
浄海入道
咄嗟に走る。 イベントスペースの中央まで。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
巨人の猛攻により大損害を受けた柱が、自立の限界を迎えたのだ。
柱は崩落し……連鎖的に、周囲の床も崩落を始める。
地下1階が沈んでいく。 立っていられないほどの地震が2人を襲う。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!
ひび割れ、 穴が開き、 砕け散り、 裂けていく。 イベントスペース全体が、ゆっくりと沈んでいく。
桜があげた悲鳴は、土砂崩れのような轟音に呑み込まれた……。
浄海に守られて、桜は意識を取り戻す。
2人は地下2階まで落ちていた。 いや……地下2階も、大分沈んでいるように思う。
かつて食料品売り場だったこのフロアは、今や見る影も無い。 元々地下1階の床だった瓦礫で、どこもかしこも埋めたてられている。
床全体が抜け落ちたため、地下1階の天井の照明が届くようになったが……半分近くが切れてしまっていた。いや、半分も残っていると言うべきか。
浄海入道
深山桜
浄海のそばから這い出て立ち上がる。 起き上がった彼の身体は、瓦礫で体中に手酷い負傷を負っていた。
怨王
怨王の笑い声。声の方を見やる。
巨人の身体は……身体の半分近くが瓦礫に埋まっている。
だが、見えている部分の肌は、既に大部分が修復されていた。
身体に突き刺さっている破片は、肌の隆起に合わせて抜け落ちる。 えぐれた傷は見る見るうちに治っていく。
深山桜
浄海入道
ゴシャアッ!!
浄海の怒声、そして破砕音。 彼は突如いきり立ち、手近な瓦礫を巨人に向かって投げつけた。
ソフトボール大のそれは、放物線を描いて、治りかかっていた腹部に突き刺さる。
浄海入道
隣でどやしつけられ、桜は察した。
深山桜
同じように瓦礫を拾って、全力で放り投げた。
ガシャッ!! グシャッ!! ドシャッ!!
なんでも良い、なんだって良い。 近くにある、拾えるものを拾って投げまくる。
2人が投げる瓦礫は、修復しかかっている腹部の皮膚に突っ込み、溜まっていく。
怨王
右肩に座る怨王が笑った。
その後、近くに突き刺さっていていた鉄筋を引き抜き、そばで埋まっている羽黒の上半身に向かって振るう。
ビシィッ!!
むち打ちのような音が聞こえた途端、
羽黒龍極
ドシャアァッ!!
羽黒の絶叫が響き、巨人の腹が爆ぜた。
2人が投げて溜まっていた瓦礫が、一斉に吹き飛ぶ。 いくつかはこちらまで届き、桜は必死に避ける。
顕になった腹部は、手術の真っ最中のように穴が広がっている。
ジュウウウウウウウ……!!
だが、再生音と共に、どんどん狭まっている。 今しかチャンスは──!
しゃがみこんだ桜は、足元の瓦礫の隙間に落ちていたダイナマイトとライターを拾った。
浄海入道
怨王の注意を引きつけるように、浄海は一際大きく叫ぶ。
怨王
カチッ、カチッ、シュボッ……!
怨王の高笑いを他所に、桜はライターで導火線に火を点ける。 灯火がゆっくりと動き始めた。
詩織
深山桜
立ち上がった桜は、ダイナマイトを身体で隠し、狙いを点ける。
チャンスは1度きり。 あの穴に入らなかったら──
深山桜
しっかりと握りしめたダイナマイトを、後ろ手に振りかぶって──投げた。
ジジジジジジ──!
火花を散らすそれは、瓦礫達と同じルートをたどって──
怨王
怨王が身を乗り出した瞬間に──
ズボッ!
腹部の穴に収まり、直後に塞がった。
浄海入道
2人は真後ろに走る。 瓦礫の山を乗り越え、2人は走る。 少しでも遠くへ──!
ズボッ!
引き抜かれる音がした。 大きな瓦礫をよじ登りながら、桜は後ろを振り返って──絶望する。
怨王
ジジジジジジ──!
腹の前に立つ怨王が、肩を上下に揺らしながら、血に塗れたダイナマイトを持っていた。
見破られた。 ダイナマイトを入れられたのを見た怨王が、すぐさま降り立ち、塞がった腹部をこじ開け、取り出したのだ。
怨王
ジジジジジジ──!
導火線が刻一刻と進むダイナマイトを手に、怨王は笑う。
最早打つ手はなかった。 あの火を消されれば……いや、爆発直前にこちらに投げられたら、こちらの命がない。
浄海入道
浄海が前に出るが、桜は身体の力が入らない。
詩織
詩織の悲痛な声が響き、身体が勝手に起き上がるが……そこまでだった。
怨王
怨王は、十分に導火線が短くなったダイナマイトを、先程の桜のように、振りかぶり──。
ズボォッ!
背後から伸びた腕に、羽交い締めにされた。
綺麗な腕だった。 先程桜が捕まった時より、ずっと綺麗な──
先程まで、生きていた腕。 左が奴を腹部へ引き込み、右が奴の手のダイナマイトを掴む。
クローン
何か喚き散らす怨王を抱きかかえ、彼女はそのまま、巨人の腹部へと、沈んでいった。
ズプン──
生々しい音を立てて、2人が呑み込まれた直後に、
巨人の腹部から、閃光が炸裂した。
???
深山桜
???
深山桜
???
ガバッ!
ゴンッ!!
起きた直後に頭突きを喰らい、また落ちかけた。
深山桜
浄海入道
浄海の困惑した声。 たぶんだが、身体を起こした直後、覗き込んでいた彼の顔面にぶつかった。
詩織
心配そうな詩織の声が脳内に、
いや、違う。右側から、直接聞こえる。
桜はゆっくりと目を開けた。
まず、正面には浄海がいる。 その向こうには、怨王の生首と、羽黒の上半身が転がっている。
そして……右に詩織がいる。 詩織が確かに居る。少しだけ透明になった身体で、彼女がこちらを心配そうに眺めている。
深山桜
ズズズズズ……
桜の疑問には、地響きが答えた。 背中の床が揺れる。
自分達は、かなり大きめの瓦礫の上に乗っていた。
その下には……梱包材か何かのように、サーバーが積み重なっている。それで桜は悟る。
浄海入道
浄海入道
深山桜
勝利を得たのに、桜は喜べなかった。 多くの命が犠牲になったという事実を前に、心が沈む。
浄海入道
浄海入道
浄海は顎で左を指し示した。 桜はそちらに顔を向ける。
詩織がいた。 右に居る詩織が、左に瞬間移動していた。
そう考えてから5秒後に、桜はその意味に気付いて……。
深山桜
言葉にならない歓喜の声をあげて、しっかりと抱きついた。
クローン
抱きつき返した彼女は、涙声で桜を何度も呼ぶ。
詩織
後ろから詩織に優しく抱きつかれ……2人の妹の間で、桜は泣き続けた。
花織。
彼女の名前はそう決まった。
桜と詩織、2人の名前から、そう決めた。
なぜここで決めたか? 話がしにくいのもあるが、何よりずっと一緒にいられると分かったからである。
浄海入道
浄海入道
花織
ひとしきり喜びを分かち合ったあと、3人は花織から詳しい話を伺う。
花織
花織
詩織
浄海入道
深山桜
詩織
花織
謙遜はせずに2人にせがむ。 その無邪気な様子に、桜は小さい頃の詩織を思い出した。
浄海入道
どっこいしょと浄海は立ち上がる。
浄海入道
浄海入道
花織
脅かしてくる浄海に、花織が憤った、その時だった。
ピー、ピー、ピー──
ボン
電子音、そして小さな爆発音。
浄海の足元に転がる、怨王の生首が……小さく跳ねた。
浄海入道
浄海が振り返る。その直後、
ズオオオオ──
重い流砂のような音が巻き起こる。
詩織と花織、2人とは比べ物にならない禍々しさを伴って……
怨王
怨王の生首から、奴の霊魂が、ゆっくりと湧き出てきた。
浄海入道
怨王
怨王
まるで餓鬼だ……生首から這い出てきた、裸の老爺を見て、桜はそう思う。 これが怨王の姿……。
自分達を見たまま、怨王はゆっくりと後ずさっていく。
浄海入道
怨王
怨王
怨王
醜悪な顔で笑みを浮かべて、怨王は後ろに倒れ込んでいく。 そのまま、奴はサーバーの海へ──
ドッ──!
怨王
ドサッ……!
後ろへ倒れゆく怨王の背中を、何者かが突き飛ばした。 怨王は前に倒れ込む。
怨王
怨王は慌てて立ち上がり、憤りながら後ろを振り返って、固まった。
???
???
怨王が入り込もうとしていたサーバーから、黒い人間が湧き出ていた。
花織
詩織
詩織と花織が、同時に抱きついてくる。
浄海入道
花織
浄海が声をかけると、2人は同時に、桜の身体に染み込んだ。
ゾゾゾゾゾゾ……
周辺のサーバーから、次々と黒い人間が湧き出し……こちらに乗り出してきていた。
いや……あれを人間と呼んでいいのかもわからない。 先程の巨人から出てきた未登録者を思わせるが、あれよりずっと禍々しい瘴気を放っている。
深山桜
浄海入道
湧き出す亡霊達を前に、浄海は冷静に語る。
浄海入道
アア……アァァァアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!!
周囲の亡霊達が、一斉に叫ぶ。 嘆きとも怒りともつかない、おぞましい唸りを上げて、亡霊達は這い寄っていく。
怨王
自分達の存在も忘れ、怨王はじりじりと後ずさりながら、こちらに近寄ってくる。
ドゴッ!!
一歩踏み出した浄海が、無言で怨王の背中を蹴り込んだ。
怨王
情けない声をあげて、怨王は再び前のめりに倒れ込む。
すぐさま身体を起こし、逃げようとしたものの、遅かった。
あ……あぁぁぁぁああ……!!
無数の亡霊達が、怨王にゆっくりと被さっていく。
怨王
ブチッ……ズチィッ……!
怨王
肉の裂ける音と、怨王の悲鳴が伝わってくる。
悪霊が……悪霊を喰らっていた。 腐乱死体にたかるスカベンジャーのように、亡霊達は怨王に食らいつく。
ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチ!!!!
怨王
うごめく亡霊達の中、肉を食らう音に混ざり、しわがれた絶叫が常世中に響き渡った……。
絶叫が止んでから、数分後。
ズズズズズ……
亡霊達がゆっくりと離れた時には、怨王の姿は無くなっていた。
花織
浄海入道
浄海入道
浄海入道
ヒュウゥ……
怨みを果たした亡霊達の身体が……次々と白く輝きはじめた。
1人、また1人と、光の粒子へと解けて、下のサーバーへと吸い込まれていく。
深山桜
浄海入道
深山桜
フゥッ……
亡霊達が消え去った後、詩織と花織が、桜の身体から出てくる。
詩織はそのまま桜の隣に並んだが……花織は瓦礫の端、先程まで怨王が喰われていた場所まで歩いていく。
浄海入道
花織
浄海の言葉に歩みを止め、花織はしゃがんだ。
花織
花織
浄海入道
花織
花織
花織
深山桜
立ち上がった花織は、涙をこらえて、自分達と向き合う。
花織
浄海入道
片隅で倒れ込んだままの羽黒の身体を、浄海は指差す
浄海入道
浄海入道
花織
浄海から現実を知らされ、花織は黙りこくる。
浄海入道
浄海入道
浄海入道
浄海入道
そこまで言った所で、浄海は桜の方に向き直り、ドカッと腰を下ろした。
浄海入道
浄海入道
スッ──
激戦を経て、あちこちが砕けたボロボロの手甲で、浄海は桜に右手を差し出す。
桜は、腰に刺さっていた刀を、鞘ごと取り外し……両手で持った。
浄海入道
浄海入道
浄海入道
深山桜
深山桜