月の光に照らされる中、芙梛は少しだけ俯いていた
だがやがて、ぽつりぽつりと話し始める
芙 梛
...私ね、人間だったの
芙 梛
ほんの、少し前までは
無一郎は静かに頷く
その仕草に安心したのか、 芙梛はゆっくりと語り始めた
芙 梛
家族がいたの
芙 梛
お姉ちゃんが植物に詳しくて
小さい頃から、花を育ててた
小さい頃から、花を育ててた
芙 梛
父も母も、みんな優しかった
芙 梛
でも...
ある日、全部壊された
ある日、全部壊された
芙梛の目には、苦い記憶が映っていた
芙 梛
熊に襲われて...
芙 梛
その時は何が起こったのか
よく分からなかった
よく分からなかった
芙 梛
気づいたときには、血まみれで
芙 梛
生き残ったのは、私だけだった
無一郎の表情が苦しげに歪む
芙 梛
そこに無惨様が現れたの
芙 梛
「 御前には価値がある 」
芙 梛
「 美しい者には生きる意味がある 」って...
芙 梛
そして血を分けてくれたの
芙梛の指先が僅かに震える
芙 梛
でも本当は、死にたかった...
芙 梛
全部終わって欲しかった
芙 梛
でも私は逃げることも出来なくて、気づいたら...
芙 梛
鬼になってたの
時 透
...
芙 梛
そのあと何年も経って、色んな命を奪ってしまった
芙 梛
人間を喰らっても、何も埋まらなかった
芙 梛
花を見ても、匂いを嗅いでみても、私は死んでた
芙 梛
でも...
芙梛は無一郎の目を真っ直ぐ見つめた
芙 梛
貴方に出会って少しだけ、
変わったの
変わったの
芙 梛
人間だった頃を思い出すようになった
芙 梛
誰かの為に何かをしてあげたくなった
芙 梛
...私ね、無惨様に従ってるふりをしてるだけ
芙 梛
いつか全部終わらせたいって、ずっと思ってる
時 透
芙梛...
芙 梛
でも、怖いんだ
芙 梛
本当に裏切ったら
芙 梛
無惨様は私だけじゃなく、
蝶屋敷の人たちや貴方まで
殺されてしまう
蝶屋敷の人たちや貴方まで
殺されてしまう
声が震える
芙 梛
でももう隠してるのが辛い
芙 梛
貴方だけは、知ってて欲しかった
沈黙が落ちる
暫くして無一郎がゆっくりと立ち上がる
そして芙梛の前に膝をつき、手を握った
時 透
ありがとう、話してくれて
芙 梛
...え?
時 透
僕は、芙梛を信じてる
時 透
君が鬼でも
時 透
過去に何かしていても
時 透
今の君がそれに苦しんでいて、何かを変えようとしているのなら...
時 透
僕はそれを守りたい
芙梛の瞳から、静かに涙が零れた
この瞬間、彼女の何かが確かに変わり始めていた






