一定のリズムを刻む鼓動.
君を想うと、軽快なステップを
踏んだかのようにそれは速くなる.
同時に波のように
押し寄せてくる感情は
私の頬を赤く染めていた.
今ではそれを懐かしく思う.
「 杏が泣いた分、
俺が笑わせてやるから 」
両親を亡くし喪に伏し続けていた私に
寄り添ってくれたのは、君だった.
いつだって真っ直ぐで
いつだって私想いで.
どんなに心の支えだったか
言葉に言い表せないくらい
感謝しているのに、
今はそれを伝える術がない.
だって、君は今___。
【 prologue 】
瞬きをした一瞬、
遮断された視界は暗闇に包まれる.
それは一秒以下の世界.
瞬きをしたことにすら気づかない.
でも、私はその一瞬から
抜け出せないでいる.
理由は簡単.
一度ならず二度までも
私はその一瞬で大切な人を__。
【 さよなら、ライバル 】
ドタドタと階段を
駆け上がってくる足音.
それは私の部屋の前で止まり
三回のノック音と共に
その人物は姿を現す.
香月 快人
丸いお盆には古風な陶器皿.
その上には美味しそうな
お饅頭が乗っている.
でも、そのお饅頭は見た目と味が
正反対のゲテモノだということを
私は知っている.
だから私は口を尖らせて
文句を言うのだ.
波野 杏
波野 杏
香月 快人
香月 快人
波野 杏
この商店街には古くから対立している
洋菓子屋と和菓子屋がある.
パティスリー波野と
和菓子処香月は
向かいに位置するライバル店.
私は波野 杏、
この非常識な饅頭オタクは香月 快人.
私達は店の跡取りとして生まれ
互いにライバルだと
意識付けられて育った.
洋菓子と和菓子は互いに
相容れぬ存在.
でも、それは表向きで実は互いに
認め合いながら
良好な関係を保っている.
そんな家庭を見て育った私達は
ピカピカのランドセルを使い古し
今では中学一年生だ.
物事の分別もそれなりにつくし
甘味に対してはそこらへんの中学生を
優越出来るほどの味覚を
持っていると言っても過言ではない.
ライバルでもあり、
幼馴染みでもある私達は
今日も一緒にいる.
波野 杏
香月 快人
波野 杏
波野 杏
香月 快人
波野 杏
想像しただけで吐き気がしてきた.
香月 快人
波野 杏
波野 杏
香月 快人
波野 杏
快人の味覚は少し、いや……
だいぶ人間離れしていると思う.
豚の角煮と餡子はまだマシな方.
昨日はペペロンチーノ饅頭なるものを
持ってきて暫く寝られなかった.
にんにく強めのオリーブパスタに
絡められた餡子、それを
饅頭の皮で包んでいるものだから
口内でそれぞれの味が大喧嘩.
お陰で咀嚼から嚥下まで
かなりの時間を要した.
波野 杏
波野 杏
香月 快人
香月 快人
香月 快人
香月 快人
香月 快人
波野 杏
波野 杏
香月 快人
そこで取っ組み合いが始まるのは
いつものことである.
良く言えば手繋ぎデート.
悪く言えば相撲取り.
互いに五本の指を絡ませた手を
強く握り、額をくっつけて
途方もないバトルを繰り返す.
和菓子と洋菓子で勝敗を
つけようとする方が
ジャンル違いだと思うけれど
私達の言い争いは日々絶えない.
お母さん
お母さん
すると、部屋の向こう側から
大好きなお母さんの声がした.
その声を聞いた私は
取っ組み合いをしていた快人を
突き飛ばし、部屋のドアを開ける.
そして、迷うことなく
その胸に飛び込んだ.
波野 杏
ぎゅっと抱きついて
小さな子供のように頬ずりをすれば
お母さんの優しい手が
私の髪を撫でてくれる.
胸元から聴こえる鼓動音が大好きで
これを子守唄にして寝られるくらい
お母さんの腕の中が大好きだ.
ケーキにプリン、
クッキーにマドレーヌ
甘くて美味しそうな香りのする
お母さんは
私の自慢のお母さんである.
この幸せに浸りたいのに
幸せタイムに水を差すのは香月だ.
香月 快人
波野 杏
香月 快人
律儀に頭を下げる快人に
お母さんも頭を下げる.
快人はいつも私の扱いが雑だ.
意地悪だし、
不味いお饅頭を毒味させるし.
でも、唯一良いところがある.
💓きたら続きだします!!🙌 読んでくれて📖 ありがとです!!👻 最近出す時間がなくて すいません!!💨 時々またこのような 時期があると思いますが その時はごめんなさい!!🙏 せひ他のも 見てみてください!!😂
コメント
1件
流石ですね!! 私には書けませぬ…… 次が楽しみです!