二ツ木が主導する形で、近くの公園までやってきた十一月二十九日。
二ツ木がベンチに腰をかけると、隣の空席をポンポンと叩く。
十一月二十九日
――飲み物を買ってくる。

十一月二十九日
なんかリクエストあるか?

二ツ木
炭酸が抜けた後の甘ったるくて黒いアレ。

十一月二十九日
そんなもん売ってねぇよ。コーヒーでいいな?

近くの自動販売機に向かうと、コーヒーを購入する十一月二十九日。
十一月二十九日
ほらよ。

二ツ木に向かってコーヒー缶を放り投げると、それを二ツ木は見事にキャッチする。
十一月二十九日
ったく、公園のベンチでコーヒーとか、高校生のデートじゃねぇんだからよ。

二ツ木
デートじゃない。キモいからそういう発言やめて。

十一月二十九日
はいはい。お前ってマジで面倒臭ぇタイプの女だよな。

二ツ木
そういうのもキモいからやめて。

十一月二十九日
あー、分かったよ。そんなこと言われたらなにも言えねぇじゃねぇか。

二ツ木
黙って話を聞け――ということ。

ああ言えばこう言う。思わず深いため息をついてしまった。
二ツ木
いいか十一月二十九日。分かっていると思うけど、もう絵本が1人の人間に集まりつつある。

二ツ木
そもそも、私達はなんのために集まったか覚えているか?

十一月二十九日
絵本を所有した者同士で集まったんだろ。いきなり【ストーリーテラー】を名乗る人物に連絡を受けて。

二ツ木
そう。私達は【ストーリーテラー】を中心として集まった勢力だった。

二ツ木
目的は絵本を我が物にする――という、実に曖昧なものだった。

二ツ木
でも、そこにもうひとつの勢力が現れた。その勢力は【ストーリーテラー】自らも潜り込んでいた勢力だった。

十一月二十九日
それが七星達の勢力だろ?

十一月二十九日
でも、待てよ――。

十一月二十九日
【ストーリーテラー】はなんで、自らも所有者になって、あちらの勢力の中に潜んでいたんだ?

二ツ木
ある程度、絵本を一点に集中させるためだ。

二ツ木
【ストーリーテラー】は絵本の所有者全員に連絡が取れたわけじゃなかった。

二ツ木
だから、残りの所有者を探すために、あちらの勢力の中に潜り込むことにしたんだ。

二ツ木
絵本の所有者同士は、どういうわけか巡り合うことになる。

二ツ木
それに加えて、七星はいいところのお嬢さんだ。

二ツ木
彼女が財力を駆使して、他の所有者のことを把握するところまで【ストーリーテラー】は読んでいたんだ。

十一月二十九日
で、思い通りに所有者が揃ったわけか。

二ツ木
そう。本当ならもう少し、あちらの勢力の中にいて、様子を見るつもりだった。

二ツ木
でも、私が勝負を仕掛け、それに負けてしまった【ストーリーテラー】は、正体を明かして、全てを私に話すことになった。

二ツ木
そうしないと、ほら――多分私は殺してただろうから。

そこで言葉を区切ると、ようやくコーヒーのプルタブを起こす二ツ木。
十一月二十九日
それで、俺になにをしろと?

十一月二十九日
俺はもう絵本の所有者じゃないんだぜ?

二ツ木
それは私も同じ。

二ツ木
でも、所有者にはできなくて、私達にできることがある。

十一月二十九日
そんなことあるのか?

二ツ木
うん、あの本屋にもう一度行くこと。

二ツ木
あそこは、絵本を持っていない人間だけが入れる奇妙なお店。

二ツ木
そこに行って、黒幕を引っ張り出す。

二ツ木
最初から【ストーリーテラー】の目的は、全ての元凶である本屋の店主……十三形を止めることだった。

十一月二十九日
十三形……って、絵本の作者だったか?

十一月二十九日
でも、作者って死んだはずじゃ。

二ツ木
表向きは死んでる――いや、事実として死んではいるんだと思う。

二ツ木
でも、呪いの絵本とか、異空間でバトルするとか――そういうのを体験した後なら、あり得ると思えない?

二ツ木
死してなお、呪いの絵本に執着する作者がいたとしても。

十一月二十九日
まぁ、今さらなにを言われても驚きはしねぇよな。

????
で、最初は所有者の誰かに絵本を集中させ、十三形をおびき出そうとした。

????
なにか興味があるようなことがないと、あいつは絶対に現実の世界に出ようとはしないからな。

十一月二十九日
――あんたは?

二ツ木
彼こそが【ストーリーテラー】だよ。

四ツ谷
……四ツ谷って呼んでくれたらいい。
