“《白いカラス》を見つけたら幸せになれる──”
最初そんな噂を耳にした当初は半信半疑だった
“白いカラス”なんて本当に存在するのだろうかと、頭の中で疑問に思った
あの日までは……
カァ
公園を横切ったとき、一羽のカラスが木の枝に留まっていた
思わず目を疑った
カラス(白)
白いカラス
呆然と見つめる
本当に存在するなんて……
しばらくして白いカラスはどこへと飛び立った
3日後
混雑した社内食堂で前から気になっていた“あの人”と同席になった
まさかの展開に少ししどろもどろになる
わずかな時間だったけれどもその人と会話ができてよかった
後日もう一度あの公園へ行ってみたが、白いカラスが現れることはなかった
ネットで《白いカラス》についていろいろ調べた
“《白いカラス》を見つけたら幸せになれる。 羽根を手に入れるとさらに幸せになれるとか──”
それを手に入れれば──
翌日の昼休み、“あの人”から声をかけられた
今夜時間あるかな?
一緒にご飯でもどう?
誘われるとは思わなかった
ダメ……?
慌てて頭を振り、『大丈夫です』とだけ答える
“あの人”は相好を崩し『よかった』と言って、お互い連絡先を交換した
2時間後
“あの人”と一緒に食事ができて夢のようなひと時を過ごした
でも明日も仕事だ
名残惜しいけれど『また明日ね』と別れた
本当に“あの人”は素敵な人だ
自分なんてもったいないくらいに──
“あの人”への思いは強くなる一方だった
翌日
今日も社内食堂は混んでいる
運よく空いていた席で黙々と食事をした
密かに“あの人”へ視線を向ける
同僚と楽しそうに会話していた
自分にもう少し勇気があったら……
思わずため息が出る
あっという間に週末になった
どうすれば“あの人”と付き合えるか?
でも断られたら……?
振られるのが怖くてできない
夕暮れ時に公園を歩いていると──
カァ
鳴き声をした方へ振り向く
カラス(白)
白いカラスがいた
カラス(白)
何かを夢中でついばんでいる。こっちに気づいている様子はなかった
周りに自分以外の人間はいない
白い羽根さえ手に入れば、“あの人”と──
やっと手に入れた
白いカラスはぐったりと横たわっている
カァ……、カァ……
強引にむしり取ったため出血していた
美しい純白の羽根
そしたら“あの人”に──
白いカラスをそのまま放置し、その場から離れた
1週間後
ここ最近体調がすぐれなかった
けれど休むほどでもないし、“あの人”にも会いたかったからなんとか会社へ出勤した
ミカ
ミカ
同僚のミカが挨拶してくる
ミカ
じっと見つめてきた
ミカ
視線をそらす
ミカ
ミカ
あっという間に10分休憩になり伸びをする
ミカ
ミカ
“あの人”は上司と話し込んでいる
ミカ
ミカ
二つ上の先輩、鞍野涼二(くらのりょうじ)──それが“あの人”の名前
ミカ
ミカ
ミカ
急に話題を変える
ミカ
ミカ
ミカはそういう噂が大好きだ
ミカ
ミカ
〜〜♪ 〜〜♪
ちょうど、電子チャイムが鳴った
ミカ
ミカ
ミカは自分のデスクへと戻る
聞きそびれてしまった
気にはなったが仕方ない。今は目の前の仕事をこなそう