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小さな手の大きな宝箱

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小さな手の大きな宝箱

1 - 小さな手の大きな宝箱

2020年04月09日

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ある日の長雨の夜 己龍のメンバーは長いMV撮影を終え皆で帰路に着いていた

しとしと降る雨は 疲れ切った身体を芯から冷やしていく

疲れからか口数は皆少ないものの、ぽつりぽつり話すその会話は楽しそうなもので、時折笑いが起きる

笑話の空気が冷えた空気を温めていくような、そんな雰囲気が出てきた頃

あれは確か、5人がルームシェアをして暮らす家の前での事

玄関の前に細身の男が膝を抱え座っていた。

玄関前に座り込む男は 家主の帰宅に気付くとそ、っと顔を上げ5人を見つめる

彼はじぃ、と5人を見つめた後 急に目を丸くさせ、びっくりした猫のようにその場を立ち去ろうとする

が、それを止める者が現れた

己龍のメンバーで、リーダーでもある 九条武政

武政は逃げようとする男を捕まえると、ちょっと………と声を掛ける

だが武政の声掛けに彼は応じない。そして 応じないどころか掴まれた手を引き剥がそうとする

じたばたと藻掻く彼だが、 圧倒的に武政の力の方が大きくあっさり負けてしまう

細身の彼は体力も無かったのか ひとしきり暴れた後、 腕を捕えられたままへたりとその場に座り込んだ

日和

取り敢えずさ、ずっとここに居ても近所迷惑だし中に入ろ?

日和のそう呼び掛けに、そうだねなどの返事をして順に家に入っていく

日和

ほら、武政も。
その子連れて入りなよ

ドアを押さえ待っている日和が 武政に声を掛ける

武政

んー、、、

曖昧な返事を返しつつ 彼と目線を合わせるためにしゃがみ込む

武政

ね、君さどこの子?

日和

えっそれ後で良くない?

武政

怪しいファンの子とかだったりしたら嫌じゃん

日和

いや、それはそうだけどさ…

武政

ねー、、あっ!
もしかして君声出ないの?

武政

ね〜ずっと黙ってるの?
ほら口があるなら答えてよ〜!

武政の声は優しいが 暗い影を落とすような そんな怖さを奥に感じ取れる

日和はそれを感じてしまった

だからもう武政に制止の声を掛けることは出来ない

日和には分かっていた

九条武政は 目の前の彼に対して

静かな怒りを 抱いていることを

彼に気付かれないように でも 気付くように

じわじわ怒りの感情が 芽吹くその瞬間

ピリッとした雰囲気に合わせるように 激しく雨が降り出した

月夜に照らされた水面が キラリと光る様に

緩やかな波の音を 激しい波に変えてしまう 強い風の様に

落ち着けるその景色が ざわめく胸と共に乱される様に

綺麗なものが 崩れる様に

ここが家の前であることも

外廊下にぐったりした男が 座り込んでいることも

その男を深い怒りを持った男が しゃがみ込んでいることも

そんな現実を 忘れてしまうくらい

ゆっくりと今の現状を 溶かしていく

それは武政の怒りによるもので

でも何故怒っているのか 何に怒っているのか

そんなの分からなくて 理解もしたくない

だけど 現実に戻らなければならない

いや 戻らざるを得なかった

武政は暫く黙り込む男に痺れを切らしたのか、腕を掴んだまま立ち上がる

そして腕を引きながら 家へと入っていく

引き摺られる男はされるがまま

衣服と地面の擦れる音が 日和の耳に嫌にはっきりと聞こえる

ズルズル、ズル、 ザラ、ザラザラ、 ぷち、

日和の耳に嫌に残った 擦れる音

コンクリート床と衣服の摩擦音

コンクリート床と皮膚の摩擦音

何か特別嫌な音だった、 そんな訳では無い

だけどずっと耳に残り 頭の中で反響する

頭が回る

ぐるぐる ぐるぐるる

あの摩擦音と自分の荒れた呼吸が頭の中で響いてうるさい

彼を一等心配してる訳でもない

武政の怒りが特別怖かった訳では無い

じゃあ理由は?

分からない 何が原因なのか

そもそもなんで こうなってしまったのか

日和は分からない

日和は既に 扉の内側に座り込んでいる

過呼吸状態で 耳を塞ぎ頭を抱え 蹲っている

ゼコゼコと咳き込む度に 血液の様な体液を吐き出す 音がする

これらは日和に自覚はない

ただ音に囚われ ただ藻掻く事しか出来ない

ヒュ、…ぁ、……ッ…ぉ、お゙ぇ゙…

ぱたり、 日和の目は静かに閉じ 呼吸音は汚い音と共に止んだ

日和は誰にも 気付かれることなく

誰にも助けてもらえず

ただ1人 玄関にて

意識を手放した

准司

お前らおっせーよ!
いつまで玄関にいんだよ!

准司はリビングのドアが 開いた音を聞いて そう口を開く

武政

…っさ

准司の声掛けに反論の意を唱え 男を引き摺りながら 部屋へと入っていこうとする

ずるずる、引きずる音は 他メンバーの耳にも入る

参輝

え、は???
おい武政!何やってんだよ!

眞弥

いや…さすがにそれはないだろ

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