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彼女が目を覚ましたのは 夜の森の中だった
体の奥が熱い
けれど、それは不快なものではなかった
まるで、体の内側に ひとつの神殿が生まれたような
静かで確かな__ 覚醒の感覚
サフィル
一番にその名を呼んだのはサフィルだった
彼は、ミレイユの手を 優しく包み込みように握る
サフィル
サフィル
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
サフィルは微笑むが、その笑みには どこか切なさが滲んでいた
サフィル
サフィル
ミレイユ
ミレイユ
彼女が握っていた手を広げると、 その拳に光が宿る
それは神性の光ではなく
__人の祈りのような、あたたかな輝き
そこに仲間たちが駆けつける
セリル
セリル
セリル
彼は静かに剣を構えながら、 ミレイユの前に跪く
セリル
セリル
ラズロ
ラズロ
ラズロ
ラズロ
ラズロ
エルネストは言葉を発しないが、 そっと彫刻刀を差し出す
それは、彼が家系の因縁を断ち切ると 決めた印だった
ミレイユ
ミレイユ
ジル
ジル
彼はいつも通りの軽口を叩くが
その瞳の奥は、 今にも泣き出しそうだった
レオン
レオン
そして__ミレイユは そっとサフィルを見つめた
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
サフィルは何も言わずに頷いた
そして二人は、手を繋いだまま 仲間たちと並んで空を見上げる
月が、光を失っていた
それは、神の支配が揺るぎ始めた印
だが、代わりに__
ミレイユの拳から放たれた光が、 夜の闇を静かに照らした
この世界は今、確かに変わり始めている
けれど、それは終わりではない
彼女たちの旅は この力をどう使うのかを、 まだ選びきっていなかった
ミレイユは、静かに口にした
ミレイユ
ミレイユ
その言葉に、仲間たちは それぞれ小さく頷いた
月が再び、雲間から顔を覗かせる
そして、その静かな光の下で__
彼らの最後の旅が、始まろうとしていた
神殿へ向かう日は、明日
世界が変わるかもしれないその前夜
ミレイユたちは小さな廃教会で 夜を過ごしていた
仲間たちの表情は、静かで どこか遠くを見つめていた
誰もが"最後"になるかもしれないと 心のどこかで感じていた
ミレイユは、焚き火の赤を見つめながら 小さく言った
ミレイユ
ミレイユ
ミレイユ
ジル
軽やかな声が返ってきた
ジル
ジル
セリルは黙って剣を研ぎながら、 ほんのわずか頷いた
セリル
セリル
ラズロ
ラズロが焚き火越しに笑った
ラズロ
ラズロ
レオンは静かに祈りを捧げるように 手を組む
レオン
レオン
レオン
エルネストは何も言わなかったが、 火の明かりの中で
彼がサフィルの身体の継ぎ目をそっと 撫でている姿があった
それはまるで、送り出す我が子に 「無事で」と祈る職人のようだった
ミレイユはサフィルのそばに座り、 小さな声で問いかけた
ミレイユ
サフィル
彼は微笑む
サフィル
サフィル
サフィル
サフィル
火はゆっくりと燃え、夜の静寂が包み込む
誰もが、自分の役割を抱きしめながら、 目を閉じた
その中、ラズロは一人起きて 昔のことを思い出していた
時はおよそ300年前__ グラヴァール家の始祖
ルシアン・グラヴァールの時代
ルシアンは、王宮御用達の若き天才彫刻師だった
彼の作品は"魂が宿っている"と称される ほどに生々しく、美しく
王侯貴族たちから引く手数多
だが、彼の心を捉えていたのは、 王の側近として使える宮廷魔術師
アレクシス__美しき魔術師
それはラズロの師だった
禁術「魂の彫刻術」に通じ、現実と幻想の狭間に生きていた
彼は、ルシアンの彫刻に宿る"気配"に 魅せられ、次第に近づいていく
アレクシス
アレクシス
アレクシス
そうして二人は、禁忌の研究を共に始める
彼らの関係は師弟であり、同志であり ...やがて恋人同士にもなった
当時、まだ幼かったラズロは 直接研究に関わっていた訳ではないが
二人のそんな関係を間近で見ていた
アレクシスは、魂を像に封じ込める 禁術を試すため
命を失いかけていた青年__
サフィルの魂を石に封じ込めた
その光景は衝撃的だったことを 今でも覚えている
一度目の術は成功に終わったが 記録を数回取ろうと
二度目は、アレクシス__ 自らの命を代償に
石像への転写を試みた
ルシアンの手で彫られた、アレクシスの姿を模した純白の像__
その像にアレクシスの魂は宿り、 動き出した
だがそれは永遠の愛ではなかった
魂を持った像は時を経て暴走し、 感情の欠如から理性を失い始めた
最期、ルシアンは自らの手で像を封印する
ルシアン
ルシアン
その後、ルシアンはアレクシスの記憶と ともに生涯を彫刻に捧げるが
彼の血筋には「魂を石に宿す呪い」 が刻まれた
師匠であるアレクシスを失った事は ラズロにとっても心に深い傷を残した
そして夜明け__
空が群青から白金に染まるその瞬間、 ミレイユは立ち上がった
ミレイユ
ミレイユ
彼らの背に、光が差し始める
神を封じた神殿へと続く、最後の道
それは“終わり”ではなく、 本当の始まりのための、最初の一歩だった
旅の果てに何が待つのか
それを知るために、彼女たちは歩き出す
──誰かに選ばれたからではなく、 “自分で選ぶ”ことが、唯一の祈りだから