光一
まずいな、完全に熱中症だ。

人生において、これ程死を意識したことはこれまでなかった。
ここは愛知県のとある山。辺りは草木が生い茂りとても絶景。しかし何より暑かった。
自然を舐めていたとしか言いようがない。気分転換にと思い、軽い気持ち、軽い準備で山にハイキングに来てしまっていた。
光一
……死。

光一
…、

?
おい、おい!!大丈夫か!?

光一
!

?
…暑さにやられたな。ほらこれを飲め!

光一
ありがたい…!

光一
生き返った、ありがとう!!

?
うむ。もう大丈夫みたいだな、良かった!

?
ところでお前こんなとこで何してんだ?ここは散歩に来るような所じゃねーだろ?
それにそんな…変な服装で!

光一
…

確かにそうだ。でも目の前のこの男も大分変な格好をしている。
なんというか、古ぼけた布を巻いてるような、そんな格好だ。
光一
…まあ、気分転換にですね。

?
気分転換ー?

光一
…はい。実は仕事上の悩みが色々とあって、

?
ふーん。どういう悩みだ?詳しく教えてみろよ!

光一
……。

光一
僕、仕事が全然できない男なんです。

?
ほー。

光一
僕ね、サンダルを作ってる会社の営業マンなんですよ。

?
サンダルー?

光一
はい、でも全然売れないんです。

光一
俺、頭もよくないし、あまり喋るの得意じゃないみたいで…。

光一
そんなこんなだから仕事を辞めようか悩んでるんです…。

?
成る程ね。

?
まあ向いてないことは、バサッと辞めてみるのも1つの手だな。

?
人生色々な道がある。人には向き不向きがある。

?
適材適所ってやつだな!

光一
…そうですね。

光一
でも、多分僕には向いてることなんて無いんです。

光一
僕これまでに三回転職してて、今の会社が四社目なんです。

光一
僕、この会社のサンダルが好きでずっと履いてるんです。だからこの会社入れた時は嬉しかったんです。

光一
でも、やっぱり駄目みたいで…。人生に疲れたところです。

?
……

?
まあ確かにお前は頭は良くないかもしれん。

?
さっきから何言ってるか分からん部分が多いしな。

光一
…そうですか?

?
だけどな、絶対人には良いところがあるもんだ。

?
その良さが、強みになるときが来るかもしれん。

?
思いもよらないことが、人生を変えることは良くある。

光一
……。

?
失敗続きと言ったが、お前は会社で誉められたかとはないのか?

光一
…昔、お客さん時とキャンプをしたことがあります。

光一
その時お客さん、間違えて靴を川に落としてしまい、靴がびしょびしょになりました。

光一
僕、ずっと予備のサンダルを持ってるのでそれを差し上げたら、凄く喜んでくれて…

光一
その会社は今も大事なお客さんになっています。

?
ほら、あるじゃないか?それがお前のいいところだ。

光一
……。

?
自分の商品を愛する気持ち。誠実な心。それも立派な才能だろ?

?
俺は、誠実な心なんて持ち合わせてないからな!!笑

光一
……ふふ。

?
まあ、人生なんてそんなもんさ。
正解なんてありゃしないし、絶対なんてありゃしない。

?
俺もな、実は戦闘能力がめっぽう弱い。

光一
…戦闘能力?

?
それに、うちは貧乏だ笑。教育レベルも低い。

光一
…。

?
それでも野望は低くないぞ!男に生まれたからには目指すは頂点!!

光一
頂点…。

?
どんなに頭が悪くても、どんなに身分が低くても、どんなに家が貧乏でも、

?
自分がさだめた最高のゴールにゃ大して影響はないのさ

?
バカにされてもいいじゃねーか。見せつけてやりゃーいいじゃねーか

?
出来ない落ちこぼれの意地ってやつをよ…!

光一
…そうですね!!

光一
なんか、元気でました!ありがとう!

?
おう!じゃそろそろ俺は行くわ!

光一
あ、これ!

?
?なんだこれ?

光一
サンダルです!涼しいですよ!是非貰ってください!

?
おお!ありがとうよ!

?
…涼しいのか?なんか暑くねーか?

光一
ああ、ずっと鞄のなかに入ってたから暑くなっちゃたんですね。

光一
ほら、こうやって鞄を抱き締めてたから笑

?
………。

?
成る程。抱き締めてたから温かくなる…か

?
ふん、いいこと聞いた!人助けはするもんだ笑

光一
え?

?
なんでもねー、こっちの話だ。じゃ、気をつけて帰れ!

光一
はい、本当にありがとう!

?
おう、じゃあな!!

光一
最後に名前聞かして下さい!

?
俺はとうきちろうってんだ!

光一
とうきちろう…。

その時だった、後ろから車のエンジン音が聞こえてきた。
振り返ると、泊まっていた宿屋のおかみさんだった。
光一
おかみさん!!

光一
とうきちろうさん、ありがとう!じゃ、また……

光一
……??

車に気をとられたのは一瞬の筈だった。しかし振り替えると、とうきちろうの姿はきれいさっぱり消えていた……。