じいちゃんのタイムマシーン

母ちゃんに会いたくて飛び乗った電車にみなみさんが乗っていた

何故そこにいたのかはわからないけど

こんな時に会いたくなかった

俺の顔が涙でぐちゃぐちゃになっていたから

みなみさんは俺のことを心配して付き添おうとしてくれて

巻き込みたくなかったから断ったけど

電車は最寄りの駅に着いてしまった

その後も改札まで一緒に来てくれて

改札を出た俺に言った

気がつくと涙も止まっていて

ほんの少しだけ勇気をもらえた気がした

どんなに言葉を投げ掛けても

母ちゃんが答えてくれることはない

じいちゃんに全部、悟られてしまったから

もうタイムマシーンは使わせてもらえない

きっと地下室にも入れなくなって

結局、母ちゃんはこのまま……

そっと母ちゃんの手を握った

母ちゃんの温もりを感じる

母ちゃんはちゃんと生きている

なのに俺は一度も話をすることができていない

過去に飛んで

母ちゃんがどんな人なのかをやっと知ることができた

母ちゃんは明るくて優しくて

俺のことを気にかけてくれる

恋をしている時の母ちゃんは凄く一途で

本当に心から父ちゃんのことを想っているのが伝わってきた

過去のトラウマからなかなかうまく恋愛ができなくて

悩んだり泣いたりしたこともあったけど

父ちゃんと再会してトラウマを乗り越えることができた

そして父ちゃんからのプロポーズを受けて……

また涙が溢れてくる

どんなに強く握りしめても

握り返してくれることはない

こんな気持ちになるなら

タイムマシーンなんて使わなければ良かった

その存在自体、知らない方が良かったのかもしれない

でも逆に考えれば

タイムマシーンがあれば助けられるかもしれない

そうすれば母ちゃんは

意識がちゃんとある状態で出産ができるし

生まれてきた俺のことを抱き締めることもできる

まずは帰って作戦を立てよう

じいちゃんが改良作業に入る前に

過去へ飛んで母ちゃんを助ける

そうなったら本当に使えなくなるんだろうか？

やるなら早い方がいい

本当なら今すぐにでも助けに行きたいけど

じいちゃんはきっと警戒している

じいちゃんがいる時には使えない

でもじいちゃんがいない時はいつも鍵がかかっている

あの鍵は特殊なもので

じいちゃんしか持っていないしじいちゃんしか使えない

あの鍵は特殊なものだと言っていたけど

専門店に持っていけばスペアが作れるはず

だからバレないように鍵を拝借してスペアを作る

じいちゃんが出掛けている隙に何とかして鍵を手に入れたい

スペアができたらこっそり地下室に忍び込んで

タイムマシーンを起動させる

起動にかかる時間は十分程度

データを入力して完全に使えるようになるまでには

最低でも二十分はかかる

いつもじいちゃんがやっているのを見ていたから

タイムマシーンの操作は問題なくできるだろう

一番の難関は地下室の扉の鍵だ

あの鍵は特殊で開け方にもコツがいるらしく

じいちゃん以外の人に開けることはできないと言っていた

でも一度だけ鍵を閉めるところを見たけど

あまり難しそうには見えなかった

水曜日にじいちゃんは出掛けると言っていた

鍵はその時に拝借しよう

その足で専門店に行って

その日のうちに戻しておけばバレることはない

スペアができたら行動を開始する

狙うのはじいちゃんが地下室を出る昼食時

そこで地下室の鍵を開けて侵入する

父ちゃんには母ちゃんのところに行くと言えばいい

いつもと同じように誤魔化せるはずだ

幸せな未来のために

俺は……