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中原中也
中原中也
中原中也
透也、雪也、というのは中也の従兄弟の名前だった。
その二人は中也より三、四歳、年が離れており、かなり、優秀だと言われていた人たちなのだ。
乳母
乳母
乳母
乳母
中原中也
中原中也
乳母
乳母
乳母
中原中也
中也は目をつむった。
中原中也
乳母
羽織を羽織り、中也と乳母は外へ出た。
外は寒くて、風も強かった。
だから、ちゃんと羽織っていなければ飛ばされると思い、中也は羽織を力強く握った。
と、その時、ふわりと乳母の羽織が宙を舞った。
中原中也
中也は反射的にその羽織を追いかけるため、走り出した。
羽織はふわふわと宙を浮いている。
風はぴゅうぴゅうと吹いている。
走って、走って、走って、走って。
空だけを、空に舞う羽織だけを目で追いながら、走っていく。
だが、羽織は突然吹いた強風によってまた飛ばされ、もっと高く空を泳いだ。
中也はしまった、と思った。
だから、より一層足を速く動かした。
大切な乳母の羽織をなくしたくはなかった。
ここまで育ててくれた乳母の悲しそうな顔は見たくなかった。
そしてぐんぐん走っていくと、気付かぬうちに海辺へと辿り着いてしまった。
だが、中也は羽織に目がいってしまって、海辺にいることに気が付いていなかった。
羽織は海の少し上をふわふわと舞い、
中也は夢中になって、海の中へバシャバシャ入っていく。
中原中也
そう言って手を伸ばす。
その時、ふと、海から白い手が出てきて、舞っていた羽織をつかんだ。
驚いた拍子で中也の集中力も切れて、
自分が今、海の中へ入っていることに気が付いて、足が震える。
あの時の恐ろしい記憶がよみがえりそうになる。
だが、その記憶がよみがえる前に、中也の目に不思議なものが映り込んだ。
それは、まるでお伽話に出てくるような、
ヨーロッパの絵画にでも出てきそうな美しい髪色をした少年が、
海から上半身をのぞかせていたのだ。
まるで月の光をためこんだような白い髪、
吸い込まれていきそうな夕暮れの瞳、
長く儚い白いまつ毛、
息を呑むほど綺麗な端正な顔つき、
やわらかそうでなめらかそうな華奢な肩。
目を奪われる以外の選択肢がないほど美しい少年がそこにはいた。
美しい少年
その美しい少年は眉をひそめて、左手をぶんぶん振り回しながら、中也の手をつかむ。
そして、中也の手に少し塩水にぬれた乳母の羽織を置いた。
そしてまたたどたどしく羽織を指差して、
そしてその指を中也に向けて、うやうやしく朗らかに笑った。
中原中也
中也がそう聞くと、少年は目を輝かせて、首を縦に振る。
中原中也
美しい少年
少年はまたまた目を輝かせて、腕をぶんぶん振り回していた。
中也は水の恐怖も忘れて、その少年に見入って、つい笑みが溢れた。
中原中也
美しい少年
少年は何か考え込んだ後、近くにあった岩の上に上り、見えなかった下半身を出した。
その下半身の姿に中也は目を丸くして驚いた。
なぜなら、その少年の下半身はまるで魚の足のような形をしていたからだ。
中原中也
中也がそうたずねると、少年はうやうやしく控えめに笑い、
人差し指を唇に押し当てて、秘密だとでも言いたげに片目を瞑った。
中原中也
少年は驚いたように目を丸くした。
どうしたのだろう、と思っていると、
少年は自身の腕を抱えて、ぶるぶると怖がるようなそぶりを見せた後、
中也に両手を見せて首を傾げた。
どうやら怖くないのかと聞いているようだった。
中原中也
少年は頬を赤く染めて、照れくさそうに尾をぴちぴちと跳ねさせた。
乳母
と、後ろから乳母の声が聞こえて、
中也は慌てて、少年に早く帰って、ありがとうと海へ帰るよう促す。
少年もうんうんと頷いて海へ帰っていった。
乳母
乳母
乳母の目には少し涙が滲んでいた。
乳母を悲しませたくない一心で羽織を追いかけたけど、
結局、乳母を悲しませていたことに気づいて、中也は申し訳なさを抱いた。
中原中也
中原中也
中原中也
そう言うと乳母は安心しきったように笑った。