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翌日の放課後。私は誰にも見つからないように、特別棟の奥にある古い図書室の隅の席にいた。 (お姉ちゃんを、泣かせちゃった……) 頭を抱えると、視界が涙で滲んでいく。壱也を諦めきれなかった私の未練のせいだ。私がもっと早く、完全に前を向いていれば、壱也だってあんな不自然に私を気にかけたりしなかったはずなのに。大好きな紗花を傷つけた罪悪感で、胸が押しつぶされそうだった。
榛野吏玖
不意に、上から低くて穏やかな声が降ってきた。ハッとして顔を上げると、そこにはいつものけだるげな雰囲気を纏った榛野くんが立っていた。私の涙に濡れた顔を見ても驚きもせず、ただ、ひどく愛おしそうに目元を和ませた。
山中絃花
榛野吏玖
榛野くんは私の隣の席に静かに腰を下ろすと、ポケットから優しくハンカチを取り出して、私の目元の涙をそっと拭った。榛野くんの指先から伝わる体温が、凍りついていた私の心をじんわりと溶かしていく。
榛野吏玖
山中絃花
榛野吏玖
榛野くんはハンカチを引っ込めると、今度は私の冷たくなった両手を、優しく、でも力強く包み込んだ。
榛野吏玖
掴めないけれど、真っ直ぐに向けられた、これ以上ないほど温かい告白。榛野くんの言葉に、私の胸の奥のモヤモヤがすっと消えていくのが分かった。そうだ。私はもう、壱也の後ろに隠れて泣いていたあの頃の私じゃない。私のことだけを真っ直ぐに見てくれる、こんなに素敵な人が隣にいるんだ。
山中絃花
榛野吏玖
榛野くんはふっと柔らかく微笑んで、私の背中を優しく押してくれた。
夕暮れの渡り廊下。放課後の静けさの中、私は壱也を呼び出していた。オレンジ色の光に照らされた壱也は、どこかバツの悪そうな、ひどく落ち込んだ顔をして佇んでいた。
御影壱也
山中絃花
私は壱也の言葉を遮り、彼の瞳を真っ直ぐに見据えた。昔なら、この瞳に見つめられるだけで言葉が詰まっていた。だけど今の私の心には、図書室で待ってくれている榛野くんの体温がしっかりと残っている。もう、迷いはなかった。
山中絃花
御影壱也
山中絃花
壱也は驚いたように目を見開いたあと、苦しそうに顔を歪めた。
御影壱也
やっぱり、榛野くんが壱也に言ってくれていたんだ。私はふっと、心からの優しい笑顔を壱也に向けた。
山中絃花
御影壱也
山中絃花
御影壱也
壱也が息を呑む。初めて口にされた私の『過去の初恋』に、彼は激しい衝撃を受けていた。
山中絃花
最後まで一気に伝え終えると、胸の奥が驚くほど軽くなっていた。長年縛られていた片想いの鎖が、今、完全に解けた音がした。壱也はしばらく呆然としていたけれど、やがて、諦めたように、でもどこかすっきりとした顔で小さく笑った。
御影壱也
山中絃花
夕日の中、私たちは『幼なじみ』としての本当の笑顔を交わした。過去にケジメをつけた私は、もう一歩引いた特等席には戻らない。私を待ってくれている、あの優しくて愛おしい男の子の元へと、私は光の射す廊下を力強く走り出すのだった。
コメント
1件
うわあ……もう、この回、胸がいっぱいになりました。絃花が壱也に過去の恋を全部伝えて「おわり」にするシーン、本当に清々しくて、同時にじんと来ましたね。長年抱えてた思いを自分の言葉で終わらせられた強さが眩しかったです。そして榛野くんの「ずっと待ってるから」がもう……優しすぎて泣けます。絃花が榛野くんの元に走り出すラスト、すごく好きです。