母
奈緒
母
母
奈緒
そんな言葉を掛けられたって
少しも嬉しくない
憧れていた純白のドレスも
本当に見せたい人のために─
君のために着たいのに
母
奈緒
母
母
奈緒
父の会社のための結婚
仕方がないってことは分かってる
それでも笑顔になれない
母
奈緒
母がベールを下ろす
奈緒
父と腕を組み
バージンロードをゆっくりと歩く
皆が口角を上げ嬉しそうにしている
皆が喜んでいる
左手の薬指に指輪をはめられる
夫婦の証だ
私からも新郎に指輪をはめる
光り輝く指輪は、美しさもあり
君のことを忘れないといけない、という残酷さもあった
ベールが上げられる
とうとうこの時が来てしまった
周りから割れんばかりの拍手が起こる
結ばれてしまったんだ
辛くて苦しくて
君のことが頭から離れない
新郎
奈緒
新郎
新郎
奈緒
新郎
新郎
頭が痛くなる
これからずっと、なんて
そんなの…
奈緒
奈緒
笑顔を作ってみせた
ちゃんと笑えているだろうか
結婚式帰り
母と父は知人と話していた
奈緒
気付かれないように
結婚式場からすぐ近くの海へ行った
奈緒
海はいつも通りだ
ザザーン…と音を立て
人々の心を揺らす
奈緒
奈緒
海水にそっと手をつける
冷たい
冷たいけれど
君の体温を感じる
そんな私はきっとおかしい
奈緒
君の体温を奪い
君の胴体を溶け込むように吸い込んだこの海
それでも君の体温が残ってる
奈緒
君の体温にもっと触れたい、と
私はバカげたことを考えた
足がつかない
冷たい
どんどん体温と体力を奪われていく
純白で空っぽな私の心さえも
青色の海水で染まっていく
奈緒
奈緒
ぶくっと大きな音がする
苦しい
それでも、君の体温に触れられた気がして
すごく愛おしく思える
この海は
私の体温も残してくれるだろうか
私の体温も残されれば
君と一緒にいれる気がするから
私は
純白で空っぽな心を
青色の海水で染めて
沈んだ
コメント
2件
好きだった彼は海で亡くなってしまったのでしょうか 好きでもない人と結婚しなければならなかった主人公は、どうしようもないくらい辛かったんですね 体温を使った表現が、凄く素敵でした✨