去華就実の風

メシン様は

私が思っているよりも優しく

巫女様に似た方だった

この方なら

｢沙羅の巫女｣の試練を

突破できると判断した

｢沙羅の巫女｣として認められるには

先代様から出された試練を突破しなくてはならない

ちなみに、巫女様は受けてない

というのも、言い伝えで知識としては知っているが

沙羅の巫女として名を受け継ぐまでに

先代である初代様が亡くなってしまった

故に、繰り上がりで巫女様は沙羅の巫女となった

…まぁ、そもそもの話

巫女様の場合はある程度の信頼故にパス出来たと言ってもいい

メシン様のお母様である3代目様は

クルトと巫女様の血を受け継ぐ方らしい

3代目様も異例だったので、試練はパス

今回こそ、成功させたいと思っている

…と、いうか

巫女様とクルトの血を持つメシン様…

そりゃ風魔が情緒不安定になるのも納得である

風魔とクルトのじゃれあい(に似た殺し合い未満)を見ながら

寂しげな表情をしている巫女様を見て

…少しだけ、悲しい気持ちになりながら話しかける

私だって悲しいのに

巫女様が悲しくないわけが無い

あの方だって……

……ないものねだり、というやつだ

でも、あの方も

もしかしたら、本当は悲しいのかも

そんなことを思うと

この世界が、憎くなってくる

思っていた以上に早く返事をもらえたことに

驚きと不安が積もる

巫女様の了承を得て話を続ける

自分で言っていて、なんだか情けなくなってくる

今の巫女様はそれどころでは無い

もっと、ご自身の為に時間を使って欲しいのに

……私が、それを止めてる

ほら、巫女様も戸惑って言葉が途切れている

やはり我儘な願いだったのでは…

……甘やかさないでください、巫女様

そんな言葉を、飲み込んだ

早く別の言葉を出さないと

巫女様を傷つける言葉を言いそうで

考えていたことを、すぐに伝えた

自分でも、言っていてとんでもない我儘だという自覚はある

こんなお願い、巫女様に言うのは小さい頃振りだ

………返事が、怖い

…でも

それでも

メシン様には正式に沙羅の巫女になって欲しかった

それだけ、メシン様は巫女様に似ている

……あの時、出来なかった罪滅ぼしのようなものだ

……多分、断れるのだろうなと

そんなことを思いつつ返事を待った

断られると思っていたので

思いもよらぬ答えに戸惑う

チラっとメシン様の方を向く巫女様

メシン様は風魔達を眺めている

戸惑っているのに、更に戸惑う答えを出されてしまい気が抜ける

……どういうことだ？

巫女様は決して意図的に私達を困らせるようなことはしない方だ

なので、特にその言葉に裏があるのでは？

なんて考えなくてもいい

つまり、本当にいらないと思っているのだ

…確かに、そうだ

メシン様は、強い

私達の世代でいう、｢月詠｣タイプだ

才能を持ち、それを生かせる努力がある

……それでも

下を向いていた顔が、不思議と上を向く

大胆不敵な、あの頃の巫女様

その顔に、よく似ていた

いたずらを考えるような、そんな顔で

かなりえげつないことを言う巫女様

…こういう所は、まるで変わらない

そう、あの風魔だ

加減を知らない、天性の才能

親から無理やり渡された力

その全てに適応した

私達の世代で、唯一月詠に勝ち

唯一、四人神様に1番近い力を持つ

あの、風魔だ

…なんだろう、久しぶりに会ったからなのか

風魔への信頼の差を、感じた

そう言って、ふふっと笑う巫女様

優しい笑顔が、相変わらず可憐で美しかった

この後の、残酷な未来を

ご自身で選んだとは、到底思えないような

そんな、儚さ

そんな未来を知っても

この方は、笑うのだ

……この世界が、1番残酷だ

…巫女様の、勘がいい所も

何も、変わってなくて

思わず、苦笑いをした