サッちゃん
よいしょ!

母
何してるの?

サッちゃん
カレンダーの丸!

母
?

母
ああ。カレンダーに丸つけてるのね

サッちゃん
コクッ

母
なんで?

サッちゃん
クリスマス

母
そっか。クリスマスだね!

サッちゃん
うん!
サッちゃんサンタさんに手紙書く!

母
分かった。頑張ってね!

サッちゃん
うん。

母
何を頼むの?

サッちゃん
ママにはナイショ

母
はーい

サッちゃん
ママはちゃんとサンタさんにお手紙渡してね!

母
わかってます!

サッちゃん
クリスマスって、パパが帰って来るんだよ!

そう言って、サッちゃんは出張中の父の帰りを待ちわびていた。
母
サッちゃん、パパはもういなくなっちゃったんだよ。もう会えないんだよ…

サッちゃん
違うよ。パパは出張中だからいないんだよ!

サッちゃん
クリスマスには、戻ってくるってパパと約束したもん。

母
サッちゃん。
この前パパは箱に入って眠っていたでしょ。

サッちゃん
???

母
(なんで出張は理解できるのに、死は理解できないのか…)

私は夫を無くした悲しみを、できるだけ娘の前では出さないように気をつけていた。だから、理解できないのか?
母
(あの人との出会いは確か…)

私と夫はかつて大学の映画同好会で会った。
その頃は大してお互いに意識はしていなく、特別に話したことも無かった。社会人となり、映画を見ていると、偶然にも彼と出会った。
お茶をして、帰りに彼から進められた映画を借りた。そして、その映画を見て、それをきっかけに頻繁に会うようになった。
私には気付いたことが、2つあった。1つ目は、私が見ている映画を、全て見ていたということだ。2つ目は、彼と出会ってから、つまらない映画に出会わなくなった。
母
(そして、彼と結婚するまでに、そんなに時間はかからなかったな…)

母
(確かこんなこと言ってたな…)

父
「幸せは、手の届く範囲にある。」

サッちゃん
ママー!手紙書き終わった!

サッちゃん
ママは見ちゃダメだよ。

母
任せてくださいよ

サッちゃん
(*´σー`)エヘヘ

サッちゃん
サッちゃんテレビ見てくる

母
行ってらっしゃい

母
(この間にプレゼントを確認しよう)

母
(パパに会えますようにって書いてないといいな)

サッちゃん
「サンタさんへ。さいきん、ママにげんきがないの。サッちゃんが寝ると、いつもママがないてるの。パパがかえれないところにシュッチョウだから。パパにもう会えない。
さみしいけど、サッちゃんがまんするよ。でも、ママはがまんできない。クリスマスだけでも、ママがパパにあえますようにおねがいします。パパがいるときは、サッちゃんねたフリします」

母
あっ、ヤカン忘れてた!

サッちゃん
ママ、なんで泣いてるの?お腹痛いの?

母
ううん。どこも痛くない。今、サッちゃんが嫌いな玉ねぎ切ってたの。

サッちゃん
あっママ、サッちゃん玉ねぎやだ。お腹痛いのやだ!やだよ。

母
サッちゃん、ママと一緒に映画見に行こうか。

サッちゃん
行く行く!サッちゃん、お腹痛いの治った!映画行く!

サッちゃん
寒いね

母
そうだね

父
『名前は幸恵にしよう。人々に幸せを恵みますように』

母
サッちゃん、早く、早く!

サッちゃん
待ってよー靴履けてないの

母
(どんな映画がいいかな?)

サッちゃん
ママ、なんか楽しそう。なんで笑ってるの?

母
秘密だよー

サッちゃん
何それー!サッちゃんも知りたい!

母
サッちゃん、走ろっか!

サッちゃん
うん!走る!

母
(幸せは、手の届く範囲にある…か)
