陽子
陽子
ガチャッ
陽子
誰もいない薄暗い玄関を見て 陽子は溜息をつく。
腕時計を見ると、 時刻は既に23時半を過ぎていた。
陽子
陽子
あと洗濯機回して…
陽子
シャワーでいっか
ギィィ…
部屋のドアが、軋みながら開いた。
ゆか
陽子
眠そうに目を擦りながら 部屋に入ってくる娘に声をかける。
ゆか
陽子
陽子
ゆか
ゆか
陽子
陽子
ゆか
陽子
ゆか
ゆか
陽子
ゆか
ゆか
したから…
ゆか
ゆか
早口でそう告げて、 ゆかは廊下へ出て行った。
陽子
学校の話とか聞いてあげて
なかったっけ…)
陽子
ー陽子の寝室ー
陽子
陽子
陽子
一瞬、脳裏を過ぎったのは 10年前の記憶のままの母親だった。
それを振り払うように首を振る。
陽子
陽子
翌日?
陽子
陽子
寝室で寝ていたはずなのに 目の前には外の景色が広がっている。
懐かしい景色だった。
陽子
懐かしいと口にするはずが 間の抜けた猫の鳴き声が口から出る。
陽子
陽子
慌てて周りを見て気づく。
座っているにしても低すぎる視線。 見下ろすと足元にあるモフモフの脚。
陽子
非現実的だった。
でも実際、猫になっているのだ。
美智子
聞き覚えのある声が降ってくる。
陽子
体が簡単に持ち上げられた。
陽子
陽子
よく考えたら当たり前だ。 ここは陽子の実家のすぐ側だった。
美智子
名前はなんて言うの?
陽子
美智子
美智子
付き合ってくれる?
陽子
美智子
優しい子だね
陽子
相変わらず力強いな)
逃げる術もなく、猫になった陽子は 実家に連れていかれるのだった。
ー美智子の家ー
美智子
悪さはしちゃダメよ
陽子
できる訳ないでしょ)
美智子
美智子
古い写真だけどね
美智子が写真立てを手に取り 寂しげな目で眺める。
陽子
こんなのまだ持ってたの)
美智子
優秀な娘だったのよ
美智子
恋人と駆け落ちして
それっきり……
美智子
どうなったのか音沙汰もなくてね
美智子
娘の顔はやっぱり
見たいものなのよね…
美智子
難しい話、猫には
わからないわよね
陽子
そんな風に思ってたなんて)
陽子
怒ってたし…)
美智子
猫は気楽で…
美智子
美智子
美智子
美智子
翌日
陽子
まさかの夢オチ…)
目が覚めたらベッドの上で 猫になったのは夢だった。
陽子
よかったんだけど…)
ゆか
陽子
陽子
陽子
もし猫になったらって話…
ピーッピーッ 電子レンジの音が鳴り響く。
ゆか
ゆか
陽子
何でもないの
あんな夢の話、やめておこう。 陽子は首を振った。
ゆか
陽子
この週末…
陽子
ゆか
私行くの初めて?
陽子
陽子
元気な顔見せに行こう
はしゃぐ娘の頭を撫でながら 今更ながら過去のことを 謝ろうと心に誓うのだった。